お金の使い道

 いやー、面白いほどバズった。

 私も洋子ちゃんもフォロワーが一気に増えた。哲子に至っては元々多かったフォロワーが二倍以上に膨れ上がっていた。


 現状、もう殆ど哲子が仕切ってくれている印刷所への増刷の手配や、洋子ちゃんが担当してくれている通販委託サイトとのやりとりなどの報告を眺めることしかできていない私。

 せめてこのくらいはと、オフィシャルアカウントにくるコメントの返信は私がやることにした。失敗やらかして炎上しないように、事前に哲子と洋子ちゃんの校正を受けるんですけどね。


 そして二度の増刷が終わり、サークルの方針として一旦受付を終了し、受注や再販をしない事になった。

 そんな訳で、今日は顔を合わせての最後のミーティング。例によって現役の短大生は一人もいないけど堂々と短大棟のスペースを使わせてもらっています。


「で、お互いに制作にかかった費用を考えると、私とユキは時間以外は対してかかってないわよね?」と哲子。

「そうだねー。私に関しては就職活動も無いし、のほほんとした学生の身だから時間も二人とは価値が違う気がするよー」と私。

「ここからは、現実的な話なんだけど」と言って哲子がスプレッドシートの出力紙を机の上に出す。今回の売り上げと印刷代等の経費を差し引きした最終的な利益が出ている。


「結構な額だね」と思わず口にする。

 哲子が小さくため息をついて「まぁ、私的にはもう少し行けるかなって思ってたから少しはがっかりしてるけど、でも私一人の力では正直ここまでいかなかったってのはわかるから、二人には感謝してるわ」と言った。


 その言葉を聞いて、私の中で哲子に対してずっと抱いていた敵対心と嫌悪感、今回の創作活動の中で芽生えた尊敬や憧れにも似た気持ち、色んな感情が混ざって、心の中のスクリーンに見たことのない色彩が映し出される。それは今までに観たどんなアニメの神演出よりも美しかった。


「私も元々持ってたトーンの余りとかでほとんど賄えてるから、費用の方は気にしなくていいよ」と洋子ちゃん。

「そうは言ってもねぇ。割り切れない分の歯数とプラスアルファ程度に多めに洋子分、あとは均等割でどうかしら」と哲子が提案する。

「私は、哲子に比べて、本当に大した文章書けてると思えないし、哲子と洋子ちゃんと均等割ってのは気が引けるよー」

「さっき言った通りよ。私一人の力じゃないから。みんなの作品にジャンルのバラつきがあったのもある程度話題になった要因だと思うわ」と哲子。


 哲子が電卓アプリで計算をして、出力紙にそれぞれの配分を書き込む。

 その数字を見て特に揉めることもなく、お互いに納得して、洋子ちゃんと私が哲子に振込先の口座番号をLINEで送り本日のミーティングの一番の議題は無事終了。


 残すは雑談程度の議題のみ。

「あとは、サークル名だっけ?」と洋子ちゃん。

「そうだねー、今のところ未定だけど、次出すことがあったらさすがに奥付に本名の連盟ってのもね。だけど洋子ちゃんも卒業・就職だし実際なかなか集まれないかもだよねー」と私。

「あら、そうでもないわよ。洋子とはほぼ毎日顔合わす事になりそうだし」と哲子。

「え? どゆこと?」

「実は哲子のいる会社に就職決まったんだよね」と洋子ちゃん。

「マージーでーっ⁉」

「うん真剣マジで」

「そしたらさー、次こそはコミケのブースで売りたいねー」何気なく、ポロっと出た私の一言に哲子が目を丸くして驚いている。

 お互いの顔を見合わす。自然と笑みがこぼれる。


「サークル名。大木毛おおきもうとかでどうかしら」

「え、、ナニソレダサイ」×2

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