Sってバン!
ニンジャの作業は早々に行き詰っていたので、コーヒーを飲み終わってからは一旦辛島のヨンフォアの修理をすることにした。
辛島作業、トマトサポート、私と宗則は冷やかし。
「そういや、朝トマト来たすぐ後に辛島の音聞こえてたよ。結構飛ばしてなかった?」
「知り合いって言うか、知ってる人見かけて気づいたら追いかけちゃってて」と辛島。
「知り合い、……じゃあないの?」
「あの、前話した兄貴と同じ看板の人が走ってて」
「あれ? 解散したんじゃなかったの?」
「俺もそう思ってたんですけど、考えてみたら兄貴や周りの人が看板背負ってないだけで、他にも何人かメンバーの人いたから、まだ誰か看板背負って走ってる人いてもおかしくないなって」
「ね、なんて名前の看板なの?」
「いや、何となく恥ずかしいっていうか……」と、作業の手は休めずに答える辛島に孝子じゃないけど少し意地悪してみたくなった。私にもSっ気があるのかも。
「太陽のやつ?」
「えっ、あっあれっ、なんで知ってるんスか」と慌ててスパナを落としそうになる辛島。
「あはは、ごめんごめん。宗則がうち来る時に見かけたって。チーム名はSOSくらいしか読めなかったらしいけど」と種明かし。こんなタイミングで偶然看板付きのバイク乗りがニ人も三人もご近所走ってないでしょ。
「勘弁してくださいよ」
「よかったら夜みんなで飲む時に詳しい話聞かせてよ」
「SOSっていうか〝Sons Of the Sun 〟っていうんスけど、……やっぱ恥ずかしいんで夜まで考えさせてください」
よほど恥ずかしかったのか、俯いて作業に没頭する辛島だった。
ヨンフォアのレバー交換はすぐに終わり、ちょっと曲がってしまったハンドルやシフトペダルを曲げ戻して、ミラーを締め付け直して終了。
「タンク凹んじゃったなー」と宗則。
「自分の不注意なんでしょうがないんですけど、兄貴が大事に乗ってたやつだからいつかきれいにしてやりたいッスね」と辛島。
「オリジナル塗装に拘らないんだったらアタシ手伝えるよ。単色だけど、今のニンジャのアッパーカウルとタンクって自家塗装だから」
「マジッスか。結構きれいですよね」
「いやいや、それほどでもないって。もっと褒めて」
「さ、ニンジャ作業再開するか」と宗則。
まずは、再度インパクトでアタック。
「やっぱ力技しかないかなぁ」と宗則。何か考えはあるらしい。
「アタシ的にはもう覚悟はできてるよ」
「一応、出だしの作業は見せる。んで、実作業はキョウにやって欲しい。失敗したときに責任が持てないから」
宗則の考えていた作戦は、キャリパーサポートを物理的に破壊する方法。
辛島に持ってきてもらった電動ドリルは作業スペース的に厳しかったので、もう一つ頼んでいた小型のリューター(穴をあけるトルク力よりも、物を削る回転力に特化した電動工具)を使ってひたすらアルミの塊を削っていく作戦だ。
ある程度まで削れたらタガネで割れるか試したり、インパクトでシャフトが回転しないかをトライする。作業時にリューターの
私が、誰かが失敗して傷つけてしまっても気にしない性格なのは宗則も知っている。けど私が気にしなくてもやってしまった本人は気にするだろう。それに私も自分で頑張りたい。こうやってみんなで集まってワイワイと作業に付き合ってくれるだけでも、いくら感謝しても感謝しきれないくらい助けてもらっている。何より私のニンジャだ。
「……ノった」と私。
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