素人作業の代償2

 夏休みも後半に入った。


 昨日孝子がふらっとやってきて、たまたま家にいた私は900SS用の社外キャリパーサポートを直接受け取ることが出来た。もし出掛けてたらどうするのよって聞いてみたが、玄関先に適当に置いて帰るつもりだったと。

 わかっていたことだが、それで孝子はメッセージすら残さないし、数日経つときれいさっぱり忘れてしまう。今回は顔を見てキチンとお礼を伝えられたので良かった。


 孝子は翌日面接があるとかで、庭先でタバコを吸いながらしばらく駄弁った後、そのまま帰っていった。


 最近は会話内容がどうしても就職活動のグチばかりになってしまう私たち。それでも吐き出すことでお互いに腫れ物が取れたような気持ちにはなったと思う。孝子の方はわからないが少なくとも私はそうだ。

 大学の時に出来た友達はそのまま一生の友達になる事が多いと聞いたことがある。孝子とはそう在りたい。


 748Rとマッハボーイのお尻に手を振った後、すぐに宗則とトマトと辛島に協力を仰ぐメッセージを送った。その後、宗則が辛島に連絡していくつか電動工具を持ってきて貰えるように頼んでくれた。内容は宗則セレクト。


 ここで念の為言っておくけど、洋子がいないからと男連中を家に呼び込むビッチではない。

 以前洋子に泣きつかれて以来、男子だけと自宅で過ごすようなことはしないようにしているつもりだ。今回は宗則に千宏ちゃんがもれなく付いてくることを想定済で、予想通り宗則からも千宏ちゃんを一緒に連れてくる旨の報告があった。


 10時前、そもそも私のバイクの修理で集まってもらう身なので、早起きして庭先で工具を出したりケミカルを並べたりと準備を開始する。いつもどおりなら、そろそろ宗則が来る頃だがまだ現れない。


 遠くから聞こえる排気音が少しずつ近づいてくる。ヘルメットを被っていたなら聞こえないであろう静かな音量はトマトのCBRだろう。


「お疲れ様です!」とシールドを跳ね上げながらトマトが到着する。

「おっつー」と私。トマトをみると、今日は作業ツナギを着ている。

「ツナギ買ったの?」

「ハイっ! いつまでもキョウさんに借りるのも悪いし、ご隠居のDRZ直す作業やってて、もう少し自分のバイクも整備出来るようになりたいなと思って。まずは形から」とトマト。かわいいやつだ。


「宗則先輩は?」

「まだ来てないよー。コンビニロー〇ンでも行ってる頃かな?」

 コォーンと、遠くで微かな排気音が聞こえる。

「さっき前通ってきましたけど先輩のCBなかったですよ。あ、この音じゃないですか?」

「ちょっと高いね。辛島のヨンフォアじゃない? ってか、妙に飛ばしてるね」

「あ、しかも今、音的に多分キョウさん家来るには通り過ぎましたよねコレ……」


 そんな会話をしていると、普段の半分くらいの排気音で宗則のCBと、ポヤンポヤンと言った水の跳ねるような音のアメリカンで千宏ちゃんが現れた。


「おぉーっ!」とトマト。

「買ったんだー」と私。

 跨ったままサイドスタンドを出し、安全を確保してからゆっくりとバイクから降りる千宏ちゃん、満面の笑みだ。

「うふふ、ただ真っ直ぐ走ってるだけでも、いえ、信号で止まってる時でも何か心が気持ち良くって、笑顔になっちゃいますね!」と、ヘルメットを脱いで千宏ちゃん。


「宗則、今日はありがとう。てか割といつもだけど」

「ちょうどいいタイミングだったよ。さすがに千宏ちゃんのスティードのキャブセッティングやった方がいいなって、納車してからずっと思ってて」と宗則。

「合間に一緒にやろう」と私。

「あ、そういえば来る時にキョウみたいに看板背負ってる人見かけたぜ。珍しいよな」と宗則。

「へー、珍しい。ってアタシが言うのもなんだけど」

「なんか太陽みたいなイラストと、キョウ先輩のと違ってよく読めない字で書いてあって。SOSって文字だけは読めました」と千宏ちゃん。


 そんなことを話していると、スマホが振動して新着のメッセージがある事を知らせる。

「あ、辛島からだ」と言いながらメッセージを開く。

 画面には『転けました、少し遅れます』と一言だけ。


「えっ、ちょっと、辛島転けたって」

「えぇーっ」と、全員。

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