第33話 こんなご時世にポイズン
私、ユキ。本名は木村勇姫。大学生。好きなジャンルはTL。
洋子ちゃん。毛利洋子、一学年上の先輩だけど同い年。短大から編入して今は四大生。好きなジャンルはGL。
――四大にもオタクサークルはあったんだけど、私が入学したときは学校アイドルアニメ一色だったので、何となく触手が伸びず、併設短大のオタクサークルに出入りするようになった私です。広くそこそこ腰までの深さに漬かるくらいが私のモットーなのです。
夏コミに向けて、私と洋子ちゃんと哲子の三人でそれぞれ得意分野の恋愛小説とそれにショートショート的な漫画表現を挟んだ薄い本を作ることになった私たち。
洋子ちゃんの就職活動に何となく目処が立ってきたということで本格的にミーティングをしています。……が。
「ええーっ! 夏コミ中止ぃ?」思わず大声を出してしまった私。
「短大棟にして良かったわね、ミーティング場所」と落ち着き払った様子の哲子。
「まぁ、去年の冬もそうだったし、今の世の中じゃしょうがないんじゃない?」と洋子ちゃん。
「タヒれ、タヒれ、旅行とか飲み屋とか行く陽キャ共……」と心からの本音がまろび出る。
「ちょっ、毒がダダ漏れだよ。ユキもツーリングとかは行くでしょ」と洋子ちゃんに突っ込まれる。
「で、方針を決めるのがミーティングなのよ、ユキ」哲子の言葉に言い返せない、グギギ。
「せっかくだから形にしたいなー」これも勿論社交辞令無しの私の本音。
これに関しては二人も同意見みたい。今までもお互いにメールなんかで添削をしたり感想等を言い合ったりした。哲子の意見で私と洋子ちゃんの小説も随分と良くなったと思う。洋子ちゃんの漫画パートも八割方出来ているし。
「部数減らしてコピー本にする? 自分たちで製本してさ」と洋子ちゃん。確かにいいかも。折角なら沢山の人に見て貰いたいってのはあるけど、結局のところ同人は自己満足のものだよね。
「予定通り無線で行きましょ。部数を減らせるか印刷所に聞いてみて、もし減らせるならちょっと減らして」と哲子。
「で、二人に聞きたいんだけど……」と哲子が続ける。
まずは私たちのサークルを立ち上げて、いくつかのSNSでアカウントを作成し、本の内容とイラストの一部を紹介する。さらにそれぞれSNSのアカウントがあるなら、そちらでリツイートして宣伝をすると。哲子の話はこういうものでした。
私も洋子ちゃんもロム専程度なら持っているのですが、そんなフォロワーも少ないアカウントでいったい何ができるものかと思っていたんだけど、哲子が私たちに見せたスマホの画面は私たちの考えを一転させるのでした。
「え? えぇー! なにこのフォロワー数!」哲子が創作小説をアップしている投稿サイトの個人ページのフォロワー数の桁を数えながら同時に大声を上げる私と洋子ちゃん。
「別にそんなにすごくないでしょ。会社の先輩なんて私の倍以上フォロワーいるわよ。近況みたいなのを書くところがあるから、そこで宣伝してみるわ。先に通販の委託登録をしないとね」
方針が決まり、ミーティングはお開きとなった。
「そういえばユキって、いつもと話し方違くない?」と洋子ちゃん。
「あー、あれは男子の目があるときだけ狙ってやってるだけだよー。おっとりキャラの方がモテるでしょー。普段も癖で出ちゃうけど」と答える私。
「それ逆効果だからやめた方がいいわよ……」と哲子。
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