大宴会
当日。夕方からぼちぼちとみんなが集まり始めた。ご隠居はトマトが、千宏ちゃんは宗則がそれぞれタンデムで連れてきた。
「んじゃあ、まずは買い出し班を食材チームとアルコールチームに分けて……」と話していると孝子が遮る。
「あのさ、一応今日ってダブルでめでたい飲み会じゃん?どうせいつもの流れだろうなって思ってさ、アンタん家の住所で出前頼んじゃった」と。
「えっ、なら割り勘にしようよ」
「いやいや、私の奢りで。って、くらいはカッコつけさせてよ。かわいい後輩の快気祝いだからね」
「マジでいいの? ならみんなでお酒だけ買いに行こっか」
トマトとご隠居にとって孝子はある意味憧れのような存在だったし、ご隠居は孝子と同じ走り屋チームに入っている。まぁ、入っているとは言ってもお揃いのトレーナーを着ているだけで特に何も活動している訳では無いんだけど。……それは私と洋子も同じか。強いて言えば一緒の看板背負ってカフェに行くくらい。
そういう背景を考えると孝子がカッコつけたい気持ちはわからないでもない。ただダチとしては、今のバイトの所為で孝子の金銭感覚が狂ってしまっていないかだけは心配だ。今この場で言うことではないので明るく返したが、いつか折を見て話しておきたい。
最初買い出しの人数を分けようかとも思ったけど、バイクの積載量の兼ね合いとタンデム出来るバイクの台数の少なさから全員で動くことにした。
いつものディスカウント酒屋を目指す。さすがにツーリングのような台数で走っているので迷惑よね、ドライバーの皆さんの視線を感じる。ほんとすいません。
買い出しを終えて、辛島のヨンフォアを一番奥側に停めてカバーを掛け、そこから孝子の748R、トモくんのTW、洋子のカフェ、ユキの短刀、トマトのCBR、私のニンジャに宗則のCB、最後はヒロシのTDR。トマト辺りから家の前に路駐だ。
「因みにこの配置って?」とヒロシ。
「昨日、宗則とトマトと一緒に万が一の場合に盗難されにくいようにって考えた配置」
「うーん、悲しいかな言い返せない」
このタイミングで「俺のDRZって……」と、庭先を見回したご隠居が聞く。
「折角なら宴会でお披露目にしようって思ってさ。で、なんと部屋に上げてる」と私。昨日3人で向かいから建築足場を拝借して一階の大窓を開け放って部屋に上げておいたのだ。
全部で11人とバイク一台。1階の間仕切りを外して部屋を拡げておいたのでテーブルは無いがそれぞれゆったりとは座れている。
外で原付バイクの止まる音が聞こえ、ドアチャイムが鳴った。
孝子と一緒に玄関に行き、出前を受け取る。てっきりイタリアンか何かだと思っていたけど、なんと寿司! 唖然としている私の横で孝子が財布から結構な金額をお支払いしている。
「ちょ、大丈夫なの?」
「大丈夫だって」
「いや、アンタの金銭感覚というか、なんというか」
「どっちみち使い道がある訳じゃないし、めでたい席なんだしイイじゃん」
「うーん、上手く言えないけど、なんか引っかかる」
結局、今の私に孝子を納得させるだけの考え方や信念みたいなのが足りないって事だけがわかった。
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