大宴会、前日譚

 ご隠居の快気祝いと、それならばとヒロシの就職内定祝いも兼ねて私ん家で飲み会をすることになった。が、さすがに人大杉内ひとおおすぎない


 ヒロシの内定祝いだから私たち4年生がフル参加、これで5人。

 3年生は部長ユキと副部長のトモくんで2人。

 2年生はトマトと千宏ちゃんで2人。

 1年生は今回の主役の一人ご隠居と辛島で2人。計11人。


 いつもならどこかの駅近でチェーン系居酒屋になるところだけど、今回はみんなでやったご隠居のバイク修理のお披露目も兼ねているので、私の家が一番都合がいい。

 しかし宴会時はいいとしても、問題はみんなが潰れ始めてから。

 持っている人は自分の寝袋を持ってきてもらうように伝え、宴会日までに床面積の確保にとりかかった。

 普段は使わない父の〝書斎〟という名の私物置き場や、誰も使う気の起きない母の部屋跡地などを圧縮して床面積を稼ぐ。


 父の部屋には娘的に見てはまずいものもあるだろうと思ったので、事前に宗則とトマトに協力を仰いだ。

 そして母の部屋は私が片付けるつもり。以前洋子に胸の内を打ち明けて以降、私の中に引っ掛かっていた突っかえ棒が取れたみたいで、簡単に母の部屋のドアを開けることができた。


「あの、実の娘がダメで友達っていうか赤の他人の俺たちが入っていいって言うのもなんかよくわからないんですけど」とトマト。

「ほら、エロ本程度ならいいけど、性的なまずいアイテムとか出てきたらアタシが顔合わせ辛くなっちゃうでしょ」と説明する。

「わかるわー」と汚部屋の住人、宗則。


「ざっくり問題無さそうになったら声かけて。問題見つかったら隠蔽してから呼んで」と二人に言って私は母の部屋に。


 協議離婚の上で出て行った母は部屋をある程度片付けていったので物自体は殆ど無く、小机や鏡台、ベッドなどの大型の家具が置きっぱなしになっているだけだ。

 ざっと見渡した時、鏡台脇に百均の写真立てに入れられた私が小学校に上がる前に撮った家族写真を見つけた。

 プリンターで出力された写真は色褪せていて、若いはずの父の姿も老けて見えた。

「これは持っていって欲しかったなー」と小声で呟きながら写真立てごとゴミ袋に放り込む。


 片付いてはいるし、床も広いしベッドもあるがやはりどうしてもここで、私じゃないにしても、誰かがこのベッドを使ったりってのは想像出来ないし、少し考えただけで気分が悪くなってきた。埃の所為もあるだろう。カーテンと窓を開け放って新鮮な空気を部屋と肺に取り込んだ。

 床を拭いて父の部屋の荷物をこっちに移そう。丁度そう考えていたところで宗則が開け放っていたドアをノックした。


「ざっくりチェック終わったぜー」と宗則。

「どうだった? マズいアイテム出てきた?」と念のため聞く。

「ノーコメントで」と斜め下を見ながら宗則。

「結構、荷物あったんじゃない? うちの父ってガラクタを捨てれないタイプだから」

「その言葉刺さるわー」と汚部屋住人。

「てか、ほとんどバイクの部品でしたよ」とトマト。

「マジ? ニンジャの部品あった?」

「割れたサイドカバーなら見かけた」

「俺にはどれがなんのパーツなのかさっぱりでした」

「そういえば、親父さんZ2乗ってたの?」

「へ? 知らないなぁ。父さん昔の写真とか残さないタイプだから」

「Z2のノーマルブレーキキャリパー転がってたよ」

「使えねーっ! ニンジャすでにブレンボ入ってるし」

 そんな会話をしながら母の部屋の床を拭いて、父のバイクパーツ等の大きなものをベッドの上や床に移動する。


 ベッドの上に荷物を置く時、掛かっていたタオルケットを捲ろうとしたけど、人の手によって切り裂かれたスプリングが剥き出しになったマットを見つけ、悲しい気持ちになりそのままにしておいた。


 荷物の移動を終え、広くなった父の部屋を見て、これなら2~3人は転がしておけるな、と確信した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る