ヒ徒、来襲
夏休み前、って言うと私の精神年齢が疑われるかな。
前期終了間際、ヒロシの就職活動が無事終了したらしい。何社か内定を貰っていて、一番入りたい会社の内定を待っていたが、なんとその大本命に決まったとかで、その他の企業はお断りして正式に来年度の入社を決めたという。
すんごい久しぶりに学食に顔を出してくれたヒロシからの報告にその場に居たみんな心から祝福した。
「みんな決まったら飲み会とかやろうぜ」というヒロシに「イイね」と相槌を打ったが、実は普段から割と普通に飲んでいるヒロシ以外の4年生。
今日は珍しく4年生の全員が揃っている。そして4年生以外いないというさらに珍しい感じ。当然、長くは続かないけどね。
「わー、パイセンフルスロットルじゃないですかー」とユキ現部長が登場。今日はカレーとうどんと言う炭水化物と一緒。カレーうどんではない、念のため。
「ヒロシ就職決まったって」と私。
「えー、まっとうな人サークルに居たんですねー」とユキ。誰も言い返せない。
そんな会話をしていたら、
「お疲れ様ですっ!」とちょっとだけ懐かしく聞き覚えのある声。
みんな一斉に声の方を向くとそこには松葉杖をついたご隠居がいた。
「え!」「わーっ」「いつ?」など、バラバラの声がご隠居に掛けられる。
「驚かせようと思って、トマトには口止めしてたんです、まだ定期的に通院とリハビリがあるけど、昨日退院しましたっ!」とご隠居。
まず、無事だったこと、そして会話が出来ていることに、当たり前のことに掛ける言葉が出てこない。だが涙は出そう、みんなそんな感じだ。
「パターン青! トマトではありませんっ!」
「ユキ?」
「ご隠居くん、汎用ヒト型兵器みたいだよー」とからかうユキ。その例えがわからなくてポカーンとしている私たち。
「アレー、さすがにわかると思ったんですけどー。すっごい痩せたねー」とユキ。
言われてみれば、確かに随分軽量化されている様子。
「入院生活が長かったってのが一番の原因ですけど、やっぱいくつか臓器も軽量化してるので吸収が悪いみたいで…」と話すご隠居。笑い話にできることが嬉しい。
「そうだ、アタシん家で快気祝いしようよ! 快気なのかどうかアレだけど」と私。
「お酒は飲めないですけど是非!」とご隠居。そりゃそうだよね。
実はトマトに急かされて、月イチ修理日以外にもちょこちょこと有志が集まって修理を進めていたので既にご隠居のバイクは直っている。
今思えば、トマトはご隠居の退院時期の情報を知っていたのだろう。
因みに痛車計画は中止。飲み会の時に私と洋子で試した仮塗りが、いざ落とそうと試してみると、色素がプラ部分に移ってたり、ステッカーとの段差に残ってたりと上手く落ち切らなかったのだ。
「みんなでアンタのバイクの転け傷だけでもタッチアップしといたから、お披露目会もね」と孝子。
流石にバイトの接客業が長いだけあって巧い。タイミングや相手への配慮もしつつサプライズ要素も残している。これは私より速く就職も決まりそうだな。
そして「あ、あと孝子さん。入院中にずっと言わなきゃって思ってたことがあって……」と言うご隠居に
「そういうのはあとで聞くよ。まずは快気祝いが先じゃん」と、最後まで言わせない孝子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます