愛の果実

「私たちってなんて無力なの?抗えないまま自由に貪られて、まるで野に生えてる果物みたい…」俯いたまま気付かれないように声を殺して耐える。

だけど駄目、スカートの上に増えていく水玉模様。こんなことならベージュじゃなくって紺色にすれば良かった。

もしもタイムマシーンがあったなら朝の私に紺色のスカートを勧めるわ、私。

ううん、タイムマシーンがあったなら、あの日、あの時の私に伝えるの。そのドアを開けちゃダメって!


「ヒロコっ!」今日子に抱き寄せられて、豊満な胸に顔をうずめる私。

「私が食べる!私がヒロコの果実を食べる、これから先、もしも誰かに貴女が食べられても、貴女が何とも思わないぐらい、何回も何回でも」そう言って私を抱きしめたままベッドに押し倒して覆い被さってくる今日子。


吸い込まれそうな瞳に見つめられて、自然と唇を突き出してしまう。いやだ、今日子に淫乱な女の子って思われちゃう!


 ここからマンガパート。

 重なる唇の糸を引くディープキス描写から少しずつ引きながらお互いの衣服を脱がしあっていく二人の全身像に——。


 普段、洋子ちゃんはマンガを書かない。基本的にイラストのみ、しかも無機物と有機物の融合した強いて言うならスチームパンクがジャンル的に近いかも知れないけど、ちょっと違う。

 どんなテイストのイラストも描けるけど、洋子ちゃん自身のタッチは、どちらかと言えば写実的寄りの美しいキャラクター。そんなキャラが裸で美しく絡み合っている。


 洋子ちゃんがわざわざ短大棟の軽食スペースにまで移動して見せてくれた作品は小説とマンガパートとの融合した同人原稿。

 うちの両親の世代、一昔前はこんな同人誌ばっかりだったらしいけど、今改めてこういう手法はアリだと思う。何より、洋子ちゃんの美麗なイラストでのこの百合絡み。


「イケル、イケルヨー、洋子ちゃん! これは一周回って新しいかも! 夏はこれで行こうよーっ!」

「大丈夫? ユキ贔屓目に見てない?」

「大丈夫! モーマンタイ! てか、この二人のモデルってぶっちゃけ……」

「ダメっ! ユキ、言わないで。言葉にしないで! ユキの思ってるので合ってるから。だけど恥ずかしいから言葉にしないでっ」と真っ赤になる洋子ちゃん。


 これは上手くすればプチバズるんじゃない? 今年の夏コミ!

 毎年取れたり取れなかったりの短大の創作クラブで、今年は運よく取れたスペースで私たちのようなOGの作品も置かしてもらえる。


「でさ、私のGLユリだけだとつまんないと思うんだよ。ユキのTL無定義語とか、あと誰か現役でBLやおい作家いたらさ、全部マンガパート私がおこすからさ」と洋子ちゃん。

 マジですかー! 私のTL小説を洋子ちゃんのイラストでマンガ化って最高かっ!


「でも誰かいるかなー? 正直あんまりいい文章書く子って現役でいないよねー」

「んー、導入がさ。おざなりって言うか、まさに山無しの。私が知る中だとやっぱり哲子が一番文章力あったよね。ショタだけど」

「ねー。ショタだけどー」


「哲子かー」と同時に吐き出す。

 私と洋子ちゃん、二人とも最適解は既にわかっている。同人とはいえクリエイターに憧れる身だ。正直いい物を創りたい。


「私、最近ちょっと絡みがあるから私から連絡してみるよ」と洋子ちゃん。

 去年トモくんを通して、哲子からの私たちへの伝言を聞いた。

 哲子は社会に出て変わったと思う。

 私は今年サークルの部長になってから成長出来ているのだろうか?


「洋子ちゃん、哲子には私から連絡してみるよー」


 …

 ……

「けど豊満って(笑)」

「言わないでっ!」

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