バイク=ハーレー?

 ご隠居のDRZの修理をキリのいいところで終えて、主に私と洋子で片付け。トマトと辛島でつまみとお酒の買い出し、宗則は飲み会から参加の千宏ちゃんを最寄り駅まで迎えに。なんだかんだと距離が近づいているように感じる二人。


 粗方片付けが終わる頃に宗則と千宏ちゃんが到着し、庭先でそのまま少しおしゃべりをしているとトマトと辛島も買い出しから帰ってきた。今日のお酒はビールや緩めのサワーなどがメイン。

 結構な重整備をしたのでビールが美味しそうってのと、前回の反省も踏まえてのトマトチョイス。


 飲み会ではやはり千宏ちゃんの免許の話がメインになり、このメンツだと私と洋子以外みんなオートマ限定よりもマニュアルで取るべきという意見が多かった。

 ただ、宗則の場合、安全上はその方がいいという意見なだけで、そもそも乗りたいバイクが特に決まっているわけではないのなら車種を先に考えるのもありなんじゃないかという。もしどう考えてもビックスクーターが一番乗りたい車種なら無理してマニュアルにする必要もないだろうってスタンスだ。


 そして始まるバイク乗りがみんな大好きな話題。他人が乗るバイクの車種選びタイム。


 なんだけど……。


 まずは千宏ちゃんの興味の方向性を聞く。彼女の場合、洋子の時みたいにある程度イメージがあるわけではない。そもそもバイクの知識もほとんど無い。


「みんな私の想像と違うバイクがほとんどだったので新鮮でした。部長が企画してくれたツーリングも楽しかったし」とは千宏ちゃん談。

 そこのところを詳しく聞くと、どうやら千宏ちゃんの頭の中ではバイク=ハーレーだと思っていたそうだ。

 洋子以外はみんな「まぁそうだよね」って表情。バイクに乗ってますって話の後はだいたいこういう反応が多くって慣れっこなのだ。


 車種選び以前の問題だったのと、千宏ちゃんから、色々と教えてくださいって頼まれたのとで、それぞれのバイクを簡単に説明することになった。

「宗則のはネイキッドって説明でいいのかな?」と私。

「俺のもそうですが、ネイキッドって、カウル付きのバイクが出た後の呼び名だから、本来単車ってのはこっちだ、みたいなことを昔兄貴に言われました」と、実に昔の人らしい辛島兄のエピソードを弟辛島が語ってくれた。そうなるとカウル付きのバイクから説明する方が良いのか。


 まずはトマトのCBR250R。これはスポーツよりのバイクだ。レースで早く走るために空気抵抗を減らすフェアリングカウルを全体的に付けたもの。

 ツアラーにもフェアリングは付いている物が多い。風の抵抗を減らすことができるので、ツーリングなどの長距離でライダーの疲労を低減するからだ。私のニンジャや小さな風よけスクリーン程度だけどユキのSV650Sカタナ仕様なんかもカウルが付いている。他にもツアラーの特徴としては、一般的にエンジンのパワーも重量もあるものが多い。

 けど、もともとオートバイにはカウルなんてついていないのがほとんどで、レーサーレプリカ等のフルカウルに対して、裸の状態だからネイキッドという呼び名が定着している。辛島兄の見解だと少し違っちゃうけど、宗則のCB1100FCや辛島のCB400Fがわかりやすい。日本で一番ベーシックなオートバイのスタイルはこれだろう。教習所のバイクもネイキッド、CB400SFが主流だ。

 他には本格的な車種はうちのサークルにはいないけど、荒れ地を走ることを想定したオフロード車のジャンル。元々は砂地を走る想定のトモくんのTW、デュアルパーパスという荒れ地も舗装路もそこそこ走れるように作られたヒロシのTDR250や洋子の250TRがどちらかと言うとオフ車のカテゴリーに近い。

 ただ、ある程度カスタムされたトモくんのTWは気軽に街乗りに使うようなシティーコミューターといった方がしっくりくる。

 洋子のカフェレーサーも一応街乗り想定だけど、カフェで集まってストリートで速さを競ったりという部分から〝レーサー〟と呼ばれている。速く走る為の機能や見た目の格好良さ、軽量化などに重きが置かれているのでシティーコミューターのメリットである乗りやすさは無視スポイルされがち。


 八王子ツーリングの時にいなかったヒロシのTDRやそれぞれのジャンルのその他の車種なんかを、パソコンを立ち上げて画像検索したりしながらみんなでやいのやいのと千宏ちゃんに説明しつつお酒を飲んだ。


 少しだけ知識はついた千宏ちゃんだったが、今のところはバイクのイメージとして最初に刷り込みされたハーレーのようなアメリカンスタイルが気になる様子だ。


「あんまり大きいと私じゃ乗れないですか?」と不安げに聞く千宏ちゃん。

「足付き性はいいから問題はないと思うよ。良く取り回しが重いって言われるけど、重さが高いところにあるのと低いところにあるのとだったら、倒しちゃったりする局面は高いところにある方が多いから、アメリカンは安心はできるよ」と宗則。


 そういえば旅先で結構歳を取っていそうな細いおじいさんがでっかいマッチョなハーレーに乗っているのを見ることがある。力がなくてもコツを掴めば倒したりせずに乗りこなせる良い例だと思う。

 それに足がしっかりと着くのと低重心からくる安心感は初めて乗るバイクだと大事かも。


 近いうちにバイク屋さんに見に行ってみようかってことで何となく話題が収束し、そこからは思い思いの雑談に花を咲かせた。


 私と洋子は水彩絵の具を石鹸水で溶いて割れたDRZのカウルへの塗装実験をしたりして遊んでいた。

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