ああっ孝子さまっ

 ネットで色々と検索しているうちに900SSをベースとしたカスタム車両で900SLってのがあることがわかった。そしてそのリアキャリパーサポートはフローティング式。

 オークションサイトで900SL純正のキャリパーサポートを探してみたが900SSより玉数が少ないのかさっぱり出品されていなかった。

 ただ、過去落札情報を掲載している有料サイトで、落札相場等はお金を払わないと見られないんだけど、出品時の画像だけは見ることができて、やはりメタルブッシュが埋め込まれていることが確認出来た。


 学食で浮かない顔でスマホをいじっている私と宗則。二人ともひたすらにドカティのサポートについて検索をしている。宗則の隣にはちゃっかりといった感じで、ちょこんと千宏ちゃんが座っている。宗則は私のニンジャのことよりしっかりと向き合わないといけないことがあるんじゃないかなぁ。盗み聞きしてた私からは何とも言えないけど。


「お、900SLじゃん! 宗則もやっとイタ車の魅力に気付いた?」と宗則の肩越しにスマホ画面を覗き込みながら孝子。距離が近い。

 そして相変わらず昼食はサンドイッチのみの様子。

「キョウのキャリパーサポートがご臨終でさ」と宗則がざっくりとニンジャの現状と考えている解決策を孝子に話した。

「SLのパーツは出ないんじゃない? そもそもアレって確か限定車だったし。それよかドカティなら社外品でフローティングマウント出てんじゃない?」と孝子。さすがにイタ車関係は詳しい。


「あのー」と千宏ちゃんが声を掛ける。その表情には少し不安の色が見える。

 なるほど。彼女のキツい性格を知らない初対面の人から見ると孝子は普通の美人に映る、いやかなりの。急に宗則と親しげに話す美人の登場人物が出てきたら千宏ちゃんの恋物語にバッドエンドが見え隠れするかもしれない。


「孝子、この子新入部員の南千宏ちゃん。バイクには興味あるけど免許含めてまだ思案中の段階」と紹介する。

「初めまして! 2年の南千宏です。あす……、龍ヶ崎君に紹介してもらいました」

「あ、龍ヶ崎ってトマトのことかぁ。そういえば確かそんな名前だったっけ。私は孝子、岡瀬孝子。キョウと宗則とは同じ学年だよ。バイトが忙しくってあんまり顔出さないけどよろしく」と言いながら千宏ちゃんの向かいに座る孝子。

「あと、今年は1年生がもう一人入ってるよ。駐車場に旧車のCB400Fいるでしょ?」

「見た記憶も興味も無いなー、まいいや。けどこんなかわいらしい子が入って良かったじゃん宗則」と、何も他意は無いんだろうけど微妙なラインを攻めてくる孝子。流石さすが走り屋。

「かわいらしいってのはちょっと失礼じゃない? 大学生なんだし」

「何でよ? あんたより全然造形的にかわいいじゃん?」

「あ、そっち?」

「いや、あんたもしかして全体的なこと言ってんの? あんたの方が失礼じゃん、デカ女」

「いや、アタシそこまでデカくないでしょ!」といつもの孝子とのやりとり。

「ふふっ、仲いいんですね」と、コロコロと笑いながら千宏ちゃん。どうやらツボに嵌ったらしい。

 孝子とお互いに顔を見合わせて、同時に「まあね」×2、と吐き捨てる。


「で、どうすんのよ? サポート。当てあんの?」と孝子が話題を戻す。

「とりあえず、今付いてるのはもうダメだろうけど、SSの純正でも手に入れて近所の町工場でベアリング圧入できないか相談するのが現実的なラインかなー」

「一応、なにかしら出物ないかパパとその友達関係とか、あと行きつけのイタ車バイク屋に聞いてはみとくよ。ただ、あんま期待はしないでよ」と言ってサンドイッチを食べ終わった孝子が席を立つ。

「マぁジっでっ! チョー助かる! ありがとー孝子、いや孝子様!」

「だーかーらーっ、あんま期待しないでって。あればあるだろうし、なければ全くないもんだから」

「うん、自分でも出来る限り中古パーツ屋とかオークションとかは継続して探しとくよ」

 手の平をひらひらとさせながら学食から去っていく孝子。


「はぁ〜、綺麗な人ですね〜。サークル入って最初に会ってたら私色々諦めてたかもです」後ろ姿を見送りながらため息がちに千宏ちゃん。

「そのうちわかると思うけど、アレは性格的にだいぶ難がある物件だから……」と私。

 そして私やユキでは諦める対象にならなかったのかと、なんとなく引っ掛かったが、まぁ孝子相手ならしゃーないか。洋子は洋子で見た目はパンクっつーか別枠だし。てか「諦めた」って言っちゃってるし……、他に誰もいなくて良かった。

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