素人作業の代償

 朝食後、向かいの建築現場から足場パイプを拝借することも無く、〝体は大人、アソコは子供、バイク探偵宗則〟が事件の犯人を特定してくれた。

 と、冗談はこのくらいにして。


 アクスルシャフトを緩めようとするとほんの少しだけ動く。その動きに合わせてリアブレーキキャリパーがサポートごと一緒に動いているのを宗則が発見したのだ。

 どうやら、ドカティからキャリパーごと移植したアルミ製のキャリパーサポートとアクスルシャフトがクリアランスの範囲内のガタで干渉し、アルミが溶けて焼き付いていたようだ。通常、シャフト自体が回転する訳ではない筈だが、前回作業時に締め付けが甘かったのか、それとも別の要因なのか。


 キャリパーサポートのドカティ900SSでのマウント方式はスイングアーム固定、それに対して私のニンジャではフレームにトルクロッドで固定するフローティング式。その分干渉しやすくなっていたのだろう。


 ネットで調べてみてわかったんだけど、本来フローティングマウントを採用しているサポートの軸はベアリングやメタルブッシュが打ち込まれていることが多い。フローティングマウントを想定していない900SSのサポートはアルミの鋳造品。

 ナット側は外れているので、シャフトをハンマーで軽く叩いてみたがやはり抜けない。シャフトを打つとキャリパーサポートにその振動が直に伝わっているのがわかる。完全に一体化している感じだ。


「キョウ、これは一緒に作業した俺が気付けなかったのが悪い、ごめん」と申し訳なさそうに宗則。

「いやいや、なんか不具合が起きる可能性を孕んでいるってのは私なりに十二分に理解した上だよ、寧ろいつも感謝してるよ」


 とりあえず、こんな状況だが、要はアクスルシャフトが抜けないだけで、チェーンの張り具合だって調整できる。キャリパーをマウントしているトルクロッドの長さを少し調整すれば何ら問題はない。まずはトルクロッドの長さをダブルナットで調整してやや伸ばして、それからチェーンの張りを適正に調整する。

 ひとまずは、タイヤかスプロケットかベアリング関係が逝ってしまうまで、つまりはアクスルシャフトを抜かないとできない消耗品交換までは当分持つ。


 今後の対策はサポートにベアリングかブッシュを入れ込む、もしくはスイングアームリジットマウントにする方法を考える、の二択だと思う。

 そして、最大の難関は焼き付いてしまったアクスルシャフトの抜き方だ。スイングアームごと外して、油圧プレスのできる場所へ持ち込むぐらいしか思いつかない。


「なんか、せっかくの楽しい飲み会明けに、最後にトラブル発覚しちゃってゴメン。とりあえず、今は出来ることがないから、これから色々と考えてみるよ。また学食で報告するよ、楽しかったからまたみんなで飲もっ」といって、この場は解散とした。

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