千宏の告白
私と洋子、トマトと辛島のウイスキー組はやはり早々に潰れた。ギリでトリスに手を付ける前だった。
一応付け加えるが、大学に入ってすぐの頃に飲んだことがあるトリスはそれはそれで安いながらも独特の味わいがあり良いお酒だ。ただ、飲み方によって悪酔いはしてしまう。安くて少し度数も低く飲みやすいから飲み過ぎるのが原因だろう。
今回については、いや、今回も。ウイスキー組はペースが速すぎた。宗則と千宏ちゃんはサワーをちびちびと2〜3本飲んでいるが、まだ潰れていないのがその証拠だ。
そして、それを知っている私は実はもう少し飲めるんだけど、私以外のウイスキー組がみんな潰れたので、千宏ちゃんに気を効かせて潰れたフリをして床に就いた。
千宏ちゃん用にベッドは空けておいて、私と洋子は一つのスリーピングマットの上に封筒型の寝袋を広げ、くっついて就寝。私はまだ起きているけど、洋子の温かさで徐々に眠気がやってきている。トマトと辛島には適当にタオルケットやらバスタオルやらをかけて床に雑魚寝をさせている。
「先輩、お酒お好きですか?」と宗則に話し掛ける千宏ちゃんの声が子守歌に聞こえる。
「弱いけど、好きだねー。こうやってみんなでいろんな駄話して、こういう時間が大学出た後もずっと続くといいなって思うよ」と宗則の子守歌。宗則も私と同じ感覚だったんだな。こういうこと考えているのは私だけだと思ってた。
「先輩、私もお酒好き。だから、今の時間もお酒の神様がくれた時間だって思います。だからだから、真剣に聞いて欲しいんです。えと、今からする話はお酒の勢いとかじゃなくって、それはお酒の神様に悪いから」と千宏ちゃん。いや、実際は私の気遣いがあげた時間だからっ。
「あのね先輩、……好きです。駐輪場で助けてもらった時から、少しずつ、少しずつ。サークルに入ってからは沢山、沢山。だから私と付き合ってください!」って、千宏ちゃん。っつ、キャー! 一気に目が覚めた! やばい私悪趣味なやつになってる。うわー、心臓バクバク言ってる。これはもう朝まで寝たフリ続けるしかない。
それにしても千宏ちゃん、いきなり早すぎない? なんて強メンタル。
「気持ちは嬉しいけど……」少し、時間を置いていつも通り抑揚のない口調で話し始める宗典。
「俺は女の子に告白されるとか付き合うとか、そういうのに縁がなかったから、ちょっと実感が沸かないっていうか」
「ダメ……、なんですか?」
「いや、ダメとかじゃないんだけど、そのちょっとすぐには気持ちを受け止められないと言うか」
「じゃあ、私待ってていい? 先輩?」
「うーん、……バイクの故障とかだったらすぐにどうすればいいか浮かんでくるんだけど、千宏ちゃんみたいにかわいい子に告白されるとか、本当にどうしていいかわからないし、待たすのも悪いし」
「先輩がいつも見てるのはバイクだけじゃないですよ。バイクで困ってる人や、バイクの所為でこれから人が困らないようにとか、先輩はいつも人も一緒に見てるんですよ、バイクで楽しい気持ちになるようにって」
知り合ってまだそんなに時間も経ってない千宏ちゃんの言葉は、ずっと一緒にいる私たちよりも宗則の本質を見抜いていた。お酒のせいもあって、少しだけ目頭が熱くなった。
「私、いい返事待ってます。期待して待ってます」
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