ご隠居のDRZ

 ご隠居のDRZ400SMの修理だけど、忘れていたわけではない。

 月に1~2回集まれる人だけ土日に集まろうという話で纏まっていた。みんな家主の私の就職活動も気にしてくれているんだろう。


 初回集まった時に、宗則の監修のもと修理にするか発注にするかと、ご隠居が付けていたガードやスライダーなどのメーカーの割り出しを行った。

 そして、荷物の受け取りもあるので私がネットで予算見積もり、大蔵省孝子大臣に申請してから許可が下りれば発注、受け取りと動いていた。


 発注候補の中にはフロントインナーフォークなど結構値の張るものもあったんだけど、孝子に申請すると一つ返事で了承してくれた。今のバイト先の所為で孝子の金銭感覚が狂ってはいないだろうかと少し心配になる。


 そして、実は先日のお見舞いの一番の目的はカラーリングについてご隠居の希望をそれとなく聞きだすことだったんだけど、孝子がご隠居を冗談で調教しようとしたり、ご隠居がまんざらでもなかったりですっかり忘れてしまった。お見舞いに集中しすぎた、変な色に塗るチャンスか?


 そんなこんなでお見舞い後の学食会議で、結局今と同じ色での復帰にしようってことになったんだけど、これによって予算が変わるんだよね。出物が見つかればいいけど、もし同じ色でなければ外装は中古の程度悪い奴でいいんだよね、どうせサーフェーサー吹くし、割れてても直せるし。

 まぁ正直、何て聞き出そうかってところもあったから、修理のことを伝えなくてよくなったから結果サプライズにはなるけど。


「痛車……」ユキがボソりと呟く。

「いや、さすがにやり過ぎでしょ」と私。

「洋子ちゃん、孝子ちゃん書いて!」とユキ。

 スケッチブックを出し、さらさらっとラフ画だが孝子だと一目でわかるアニメ調のキャラクターの下書きを描く洋子。タッチに見覚えがある。

「あ、ユキのLINEのアイコン描いたのって洋子だったの?」と私。

 確かに、ネタとしては面白そうだけど……。と思っていると、ユキが「石鹸……」と呟く。

「へ?」と思わず聞き返すと、ユキ曰く、ユキのパパが持っている漫画コレクションの中で、プラモデルで仮想空間で戦う漫画があるらしく、その漫画で水彩絵の具に石鹸を混ぜるとプラスチックにも塗装が出来て、しかも水で簡単に落とせるって話があるらしい。


「普通に修理しておいて、お披露目の時に最初は孝子ちゃん仕様の痛車にしとくってのはどうー? それで驚いた後に高圧洗浄機で一気に落としてご対面、みたいなのー」とユキ。

 このアイデアはその場にいたみんな賛成だった。まぁ孝子はいないんだけど。


 だけど、洋子の描く似顔絵の孝子はどこか意地悪そうな顔つきなのが少し気になる私だった。

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