コーヒーブレイク「お見舞い」
孝子と二人、ご隠居のお見舞いに来た。
今の医学っていうかそういう技術がにわかに信じられない。
トマトからの情報では回復に向かっているし意識はあると聞いていたが、私たちが目にしたご隠居の姿は、身体から沢山のチューブが出ていて、点滴に流動食。
孝子が顔を覗き込んで口のチューブを触りながら「私のありがたい唾液とか入れといてあげようか?」とか言ってふざけている。
「こら、病室で調教しない!」と、とりあえずは突っ込む。しかしご隠居は満更でもない表情。
その顔を見て、回復に向かっているってのはまぁ少しだけ信じるつもりになった。
ご隠居の惨状は、改めてバイクの負の部分と言うべきか、わかっちゃいるけど目を逸らしている部分を私たちに目の当たりにさせた。
私も一昨年、孝子も去年でかい転倒をやらかしている。いずれも単独だ。それでも降りない、降りるつもりはない。少なくとも私は。
孝子は何で降りるかもしれないんだろう?
悪い癖だ。私はことバイクの話になると感情の昂りの所為で問題の本質を見極めるのが遅れてしまう傾向がある。
「孝子、今日は夜暇なの?」
お見舞いを終えて、病院の喫茶室で不味いコーヒーを飲みながら孝子に聞いた。
「平日だし、私は空いてるけど。あの女、今日はいるの?」と孝子。
「あれ? 洋子と馬合わないの?」
「別に」と言ってタバコのソフトケースを手馴れた手つきでひと振りして1本だけ覗かせる。
「孝子、ここ禁煙!」と、タバコを咥えようとしている孝子に小声でだけどしっかりと伝える。
「あ、そかそか」とタバコをしまう。孝子の中で洋子の印象があまり良くないってのは十二分に伝わった。
「来るって聞いてはいないけど、合鍵渡してるし、いつでも来ていいよって言ってるから、もしかしたら居るかもだし、来るかも」と正直に話した。
「ま、別に天敵って訳じゃないからいいよ。久しぶりに飲もっか?」と孝子。
私が飲みたいとか話したいって気持ちを孝子は一言で察した。
家に帰る前、病院の駐輪場で孝子に家の常備酒の内訳を聞かれ、今はウイスキーぐらいしかなかったので、酎ハイやら安ワインやらを買いに途中でコンビニに寄ることになった。
コンビニでアルコール分を物色中に
「ねー、面倒臭いから夕飯カップラ買って帰らない?」と孝子。
「そりゃアタシも楽な方がいいけど、なんで?」
「いや、アンタん家でカップラって懐かしいなーって思ってさ」
そういえばみんなで私のニンジャを不動状態からレストアしてた時、よくカップ麺を食べていた気がする。
そして孝子の選ぶのはだいたいスパゲティのやつ。初めて見た時は、ラーメンじゃないしって思ったっけ。
お互いに遠慮なく飲めるようにそれぞれレジに並ぶ。孝子や私の飲む量だとこの方が気楽。孝子のカゴの中をチラッと覗く。相変わらずスパゲティのやつが入っている。
「……ラーメンじゃないし」
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