陸ルート

 パンツスーツに身を包んで歩いて駅まで。電車に乗るのもかなり久しぶり。『TT-W』の先輩達の卒業追い出しコンパ以来じゃないかな。かなり疲れる。

 もしかしたら街中を歩くのすら久しぶりかも知れない。普段は家を出て大学の駐輪場までバイクだから、駐輪場から教室までが一番歩く距離ということになる。

 バイクだと空を飛んでるようなもんだ。

 これが地に足をつけるってやつだ。

 いやいや誰が上手く言えと。


 まぁ、それもこれも安定した職に就いて、バイクに乗り続けるためだ。

 浪速なにわ友あれ、まずは形だけでも就職活動を始めてしまわないと私の性格上どんどん動かなくなってしまうと思い、今日は登竜門とでも言うべき合同会社説明会に行ってみる事にした。


 洋子はというと、そもそも美大でも何でもないうちの大学からだと、デザイナーとしての就職はかなり厳しいみたいで、足がかりとして社内にデザイン部門のある会社を探している。

 元々いた付属短大には文芸科があるので、そちらの方が伝手つてがあるだろうと短大の就職課に相談中だ。


 ヒロシは既に何社か面接まで行っているとか。まぁこのくらいが正しく理想的な進捗だろう。


 宗則も私と一緒でスロースターター。最近合同説明会や就職課に行き始めたとのこと。ただ、私と決定的に違うのは、宗則はいざとなったら下妻の実家を継ぐ道もあるという点だ。

 だけど、もし宗則がそれを選ぶとしたら正直私は寂しい。近いっちゃあ近いけど、できれば神奈川か東京辺りにいて欲しいな、……宗則の工具たち。


 孝子も資料請求等進めている様子。業種については絞ってはいるが、業界については全く考えていないみたいだ。

 私にだけ話してくれた、孝子のバイト先は依然としてみんなには内緒のまま。もしがっつりと今のバイト先に籍を置いたならば、新卒のサラリーマン以上、場合によっては2倍以上も稼げるのだとはいう。ママさんも本音ではそうして欲しそうだけど、大前提として孝子の意思を尊重してくれているらしい。どこも決まらなかったら是非おいでと言ってくれているとか。

 孝子は、いつか歳を取って今の美貌が衰えた時、現状いまのまま稼げるとは思えないので昼職できちんとした基盤を作りたいと言っていた。

 私も自分から〝今の美貌〟とか言える自信を一度でも持ってみたいもんだ。


 みんな動き始めた。

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