第50話
レベルが九十五になった俺のスピードはスキルの効果もあり段違いに速くなっていた。段違いと言っても普通に攻略組の速さだが、それでも攻略組の上位にいると思う。
スピードに乗りながら正面から突っ走り、
しかし、切り裂く手応えは伝わってこなかった。それどころか、まるで破壊不能オブジェクトを斬りつけたときの
俺の剣は未だにシュバルツステルのままだ。もう一年三ヶ月程使っているがまだ全然通用する。強化をすれば威力も上がっていく。
そのシュバルツステルをもってしても与えダメージは僅か。意外にも聖竜のHPバーは一本だがほんの数ドット減ったかどうかというぐらいしかダメージを与えていない。
剣を弾かれた俺はそのまま大きく後ろへ跳ぶ。だが正面突破を行ったためにそこは聖竜の眼前で、ブレスが来たりすると危ないためそのまま横へ跳ぶ。次にスフィーが横から行く。
スフィーもソロプレイをしていたため、俺よりは少し劣るものの速いダッシュで距離を詰めると、双剣上位四連撃技『ソニック・ジャブ』を使った。
『ソニック・ジャブ』はスピードに特化したSSで上位スキルだ。俺の結果を見てスフィーは勢いのある突きならばと考えたようだが、俺と同じように二発目で大きく弾かれてスキルが中断する。そのことによって硬直もしなかったスフィーは素早く俺の横へ戻ってきた。
「あいつ固すぎる」
「そうね。何かいい方法はないかしら?」
スフィーの口調に変化はなかったが、声量と表情で少し焦慮しているのが判る。
しかしここで様子を見ていた聖竜がしびれを切らしたように行動を起こした。
聖竜は想像以上に速いスピードで近づいてくる。突進かと思い俺は右へ『回避』を使って避けるが、直前のところで止まると両翼を大きく広げ強く振った。すると左翼と右翼の前に竜巻が二つ発生した。左翼のすぐ側にいた俺とスフィーは竜巻に飲み込まれ舞い上がった。
「うわぁぁぁぁ!」
スフィーはなぜか無言ながらも俺は情けない悲鳴を上げながらされるがままになり、竜巻は俺たちを一番上までは巻き上げると、急に興味を失ったように消え、俺たちは自由落下した。
竜巻によるダメージに高所落下によるダメージも加算され、HPはイエローゾーン直前まで減少している。
「い、痛ェ……」
頭から轟音に近い大音を立てて落ちた俺は頭を押さえながらも自分のHPバーをようやく確認して、驚愕で顔を歪めた。
「ウソだろ!?」
「どうしたのよ。さっきからうるさいわね」
「仕方ないだろ!? とにかくそんなことはどうでもいいからとにかくHPバーを見てくれ」
何が起こっているか理解できないスフィーはそっと顔を右上に上げるとそこには俺同様にHPイエローゾーン間際まで左に減少していた。
「なっ!? たったあれだけでこんなにくらうなんて! もう次で危ないわ」
「ヤバイな……どうする?」
隣にいるスフィーに向かって訊いてみるが、普段常に冷静なスフィーが聖竜のあまりの攻撃力の高さにパニックになっている。
「スフィー落ち着け!」
目を見開いて口を開閉させるスフィーにやっとの思いで俺の言葉が届き、少し我を取り戻した。
「ご、ごめんなさい」
「とにかくあいつに正面から挑んでもダメージが与えれない。逆に返り討ちにされるだけだから背後に回って攻撃してみる」
「解った」
「じゃあ行くぞ!」
俺の声に合わせて走り出すと一気に加速した。
高さ三メートルちょっとあろうかという聖竜の前に来ると俺は『ダブルジャンブ』で飛び越え、スフィーは『クイックステップ』で回り込む。
同時に聖竜の背後に移動し、スフィーは双剣上位八連撃技『ストライク・ノウズ』を発動させ、俺は両手剣上位十連撃技『フォース・インパクト』を使う。巨躯な体で小回りが利かないだろう聖竜はブレスもなければ竜巻を起こすこともできない。後の問題は、今俺とスフィーが使える一番威力のあるSSを使って聖竜の竜鱗を破れるかということだ。
その問題に関しても案外簡単にクリアできた。手に伝わってきたのは先程竜鱗に剣を弾かれた時のように硬い物に弾かれる感触ではなく、この世界に来て何度も経験している。普通にMobを狩る時のような少し柔かい感触だった。
攻撃が通った確信を得ながら硬直に入り、聖竜のHPバーを見ると減っていたHPは四分の一。攻撃の糸口が見えたところだったのだがら俺たちの行動は軽率すぎた。
それに気付かされたのは空中に舞い上げられてからだった。
硬直時間に入った直後、少し時間をかけて方向転換してくると思ったのだがらまだ聖竜の攻撃パターンを全て把握していないに仕掛けるべきではなかったのだ。
完璧に背後への攻撃手段はないと、勝手に自分の中で決めつけていたために完全に無防備な所へテールアタックが飛んできた。
なすすべもなく空中に打ち上げられて数秒後、またしても落下しダメージを受けた。
今度こそピンチになってきて、俺たちは焦りかけたいた。
「そろそろ危ないな。スフィー、ワープブロックで一度態勢を立て直そう」
「そうね」
相槌を打ってウインドウを操作し始めたスフィーはすぐにワープブロックをアイテムボックスから実体化した。
「フィッサリア!」
スフィーは実体化させたワープブロックを右手にか掲げて四十層の街の名前を叫んだ。普段ならこれで街の名前を唱えたスフィーの周りから青い光が発生し、僅か数秒でその街に転移するはずなのだが…………。
「転移しない!?」
「そんなバカな! スフィーもう一回やってみて!」
「わかったわ…………フィッサリア!」
何かの間違いだとそう信じたかった俺はもう一度スフィーに同じ動作を繰り返してもらったが、やはり現実は変わらない。
それでもまだ信じられなかった俺は自分でもウィンドウを開き、ワープブロックを取り出して確認する。
「フィッサリア!」
何度やっても結果は同じだった。自分の身体から青い光が発生することなくそのままその場に立ち尽くす。
「ダメだ……」
呆然とする一方で混乱してパニックになる。
そんな俺たちを嘲笑うかのように様子を見ていた聖竜が冷たく言い放った。
「残念だがこの空間でそのようなものは使えない。ここから出るにはこの私を倒す以外、汝らに術はない!」
「そんな…………」
脱出する方法がないと面と向かって宣告され、甘く考えていた俺たちは失望しきってその場に座り込んだ。
もうそこから動くことなど出来なかった。聖竜のHPはまだ五分の三もあるのに比べ俺やスフィーのHPは約三分の一しか残っていない。この差ではもう無理だ。
「汝らの覚悟はそんなものか。見損なったぞ!」
なぜか俺たちを諭すように言ってくる言葉は最早耳には届かなかった。
聖竜はもう相手をするのに飽きたようにブレスを放った。速いスピードで迫り来るブレスに俺たちは何もすることが出来ない。
ーーああ、これで死ぬんだ。
ただ何となく思いながらブレスを浴びてHPが〇になった。
『出直してくるがよい。今の汝らでは私に勝てない』
Freedom Online 木成 零 @kazu25
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