第45話

「『フォトンフラッシュ』!」


 タケが光魔法を使って、周囲を目が開けられない明るさで敵の目をくらます。

 その隙に俺ら三人が動けないMobとの距離を詰める。


「いくよ! 『デリカクラッシュ』!」

「じゃあこっちは『ライトニングスタブ』!」


 マナが片手剣四連撃技で人参型のMob『キャロット・ガレット』に、タケが玉ねぎ型のMob『アングリー・オニオン』に片手剣三連撃技を見舞う。

 最前線プレイヤーの二人のSSを受けた二体のMobのHPゲージが一気に減ってイエローゾーンで止まる。


「『スクロールスクエア』!」


 最後の俺が両手剣四連撃技は発動させる。最初の二撃で『キャロット・ガレット』のHPを削り切り、残りの二撃で『アングリー・オニオン』のHPを空にする。

 すかさず次のMobへ──と剣を構えたが、辺りにMobはいなかった。


「焦りすぎだよお兄ちゃん」


 俺の姿を見てマナが笑いかける。


「やる気があるのはいいことだけど、あんまり気合い入れすぎるとこの先疲れるぞ」

「あ、あぁ、そうだな」



 スフィーと一緒に第1層の戦闘区にあるPOP率の高い狩場で狩っていた癖がついつい出てしまった。

 深呼吸して肩の力を抜き、ようやくPOPしたMobたちを見据える。


「じゃあ続けるか」


 そこからはボス戦のような張り詰めた雰囲気ではなく、雑談交じりに狩りを続けた。この三人で狩りをすること自体は初めてだが、リアルで昔から知る仲だけあって連携は取りやすかった。

 俺も前衛と後衛を状況によって切り替え、このときだけはデスゲームのことを忘れて純粋に狩りを楽しんだ。

 だから時間が過ぎるのも早くて、お腹から鳴った低い音がお昼時を意識させた。

 

「もうこんな時間か」


 ウィンドウを開いて時間を確認すると、ちょうど正午を回ったところだった。


「うわ、ほんとだ。久しぶりに時間が早く感じたよ」

「マナちゃん、ずっと楽しそうにしてたからな」

「むぅ、そういうタケくんだってすごい勢いで狩り続けてたでしょ?」

「まあな。こんな純粋に楽しむ時間がなかったからな」


 少し気を抜けばそれだけ命を落とす危険があるのがこのデスゲームだが、だからこそ純粋に楽しむことは大事だろう。

 俺はソロで一応最前線に近いところまでは来たが、それまでずっと気を張り詰めていた。それはもちろんデスゲームという状況だからというのもあるが、ソロだからこそ少し油断すると最前線プレイヤーたちともレベルを離されてしまうからという面も大きい。マナが最前線という何が起こるか分からない場所で戦っている以上、俺もくらいつかないといけないのだ。


「やっぱりギルマスは大変なのか?」

「一応な。ギルメンのことを気にかけてないといけないし、俺が強くないとギルマスとしての面目が立たないからさ。とはいえ、うちの面々なんてそんなこと全然思ってないだろうし、みんなも強いから苦にはならないかな。マナちゃんとこもそうだろ?」

「え、私? あー確かに『サイクロン』は常に最前線で戦ってるし、認知度も高いからプレッシャーはあるかも。私たち次第でこのFOのクリアにも影響してくるから。あ、でも『サイクロン』はエリネスさんがしっかりしてくれてるし、私は平のギルメンだからタケくんほど大変じゃないと思うよ」

「そっか、ならよかった」

「おいおい、ネストも他人事じゃないからな? 今回のボス戦の立役者はお前なんだから間違いなくもう最前線プレイヤーの仲間入りしてるぞ?」

「俺はまだまだだって。経験も足りてないしマナとタケほど強くないから」


 でも内心は正直嬉しい。最前線でも最低限戦えることを目標にソロで頑張ってきた。昨日初めてのボス戦を経験して、最低限どころかボス戦の重要な役回りを託された。それをやり遂げた実感が今になって湧き、この一か月の努力が報われた気がした。


「さて、そろそろ飯にしようぜ」

「賛成! 私もお腹ペコペコだよー」

「そうだな、じゃあ一旦街に戻るか」


 タケの言葉にマナが食い気味に同意し、俺も頷いた。

 

 きっとこれこそがFreedom Onineの本来あるべき姿だ。知り合いと狩りをしてLvを上げたり、探検してゲームの中でしかできないような事をして楽しむ。だれもがそんな傑作を想像し、プレイし始めたことだろう。俺だってFOのためにHMDまで買って準備して、いざプレイを始めたときはその壮大さと自由度に感動した。自分の身体を動かして狩りをするのが癖になった。きっと誰しもが俺のようにFOの虜になっただろう。

 しかし、デスゲーム化したことで全てが崩壊した。ゲームの仮想空間に囚われ死と隣り合わせの恐怖に苛まれた。『サイクロン』や『オルゴール』のようにβテストから最前線に出ているギルドたちは現実世界への脱出を目指して攻略に動き出した。一方、Mobのレベルの低い、つまりは死のリスクが一番低いはじまりの街付近にはまだ死の恐怖で動けないプレイヤーたちが大勢残っている。

 俺もこれからは最前線に出る。少しでも早くここから脱出するために、そしてマナと家族の時間を取り戻すために。

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