第44話

 マナがタケにチャットを飛ばしてからマナと一緒に部屋を出た。少し狭めの廊下を右にいって階段に向かう。

 ここは二階。当然ロビーは一階。そしてサイクロンが泊まっているのは四階なので一旦ここで別れる。

 どちらかと言うと少し急な木の階段に一段一段足を下ろしていく。

 この宿(というだけで実際はもうホテルに近い)のロビーも狭めだが休憩や休憩や待ち合わせなどの様々な目的で使えるように、椅子やテーブルがいくつも置いてある。

 今は九時三十分ということでこのロビーに人の姿はない。もうほとんどのプレイヤーが街やフィールドへと出ていったのだろう。

 四つある椅子のうち、皆が降りてくる階段の方が見えるようなポジションに陣取った。

 そこで少し待っているとタケが階段から下りてきた。そこから俺を見つけるなり寄ってきて目の前の椅子に座った。


「お、ネスト目が覚めたか」

「ああ、お陰さまでな…………それより心配かけて悪かった」

「そんなこと気にするなって。俺たちの仲なんだから。それよりもう大丈夫なのか?」

「とりあえずは大丈夫、だと思う。あくまでゲームの中……」

「それもそうだけど、内側は? 大丈夫じゃないからあんな無茶な戦い方して倒れたんだろうが」

「そっちも大丈夫、だと思う」

「そうか、それならよかった」


 心から安心した様子のタケ。

 仮想世界の死が現実の死に直結するデスゲームだからこそ、こうして俺のことを気にかけてくれる友人はありがたい。

 この世界がトーテムタワーを攻略するまで脱出不可能なデスゲームと化してから、俺がクリアを目指して戦えているのも、タケやマナがいてくれるおかげだ。二人には本当に頭が上がらない。


「そうだ、どうせなら今から俺とお前と、マナちゃんで狩りでもしないか? マナちゃんも今日は自由だって言ってたし、時間はあるだろ」

「いいな、それ。ちょっとマナにチャット飛ばしてみる」


 マナからはすぐに『行く!』という返信があった。少しロビーで待っていると、ドタバタと階段を下りてくる足音が聞こえてくる。


「お待たせ!」


 勢いよく姿を現した妹は、すでに全身を硬質な金属製だが機動性にも長けた防具を身に着けていた。腰には片手剣も納めていて、いつでも戦闘ができる格好になっていた。


「さすがに気が早すぎないか?」

「いいじゃん! だってこの3人で狩りするのって初めてだよ?」

「そうだっけ?」


 思い返してみればそうかもしれない。デスゲームになってからは俺が主にソロで活動していたし、マナもタケもそれぞれ自分たちのギルドで行動していた。デスゲームになる前の期間では、それぞれのギルドに混ざったことはあったが、この2人が同時にいたことはない。


「そうだよそうだよ! せっかく二層も解放されたんだし、早く狩りに行こっ!」

「んじゃ、決まりだな」


 タケもにやにやしながらそう締めた。

 一層にある宿を出ると、中央広場まで移動し、そこから石像に触れて転移する。

 一瞬視界が白く覆われ、わずかな浮遊感に包まれた後、視界を開くとそこは農場のような光景が広がっていた。

 第一層が草原をもとにした場所だったように、この第二層は田畑がもとになっているようだ。ちなみに街はライルズという名前らしい。さっき転移のときにマナとタケがそう言っていた。


「そういやこの層はβの時に攻略済みなんだっけ?」


 確かこの3人で祭りに行ったときにそんな話をしていた気がする。


「そうだよ!」

「じゃあこの層の勝手も分かるのか?」

「うん、この層はいいところがあるんだ! 任せて!」


 そう言って先導してくれるマナに俺とタケはついていく。

 戦闘区に抜けるまでの間、街はどこまでも田園風景が広がっていた。解放されたばかりということもあって人は少ないが、代わりに農作業をするNPCもいた。おそらくこの中にクエストを発注できるNPCもいるだろう。落ち着いたら調べてみるか。

 最前線プレイヤー2人の全力疾走だけあって、すぐに戦闘区へ出た。俺も『機敏』とAGIによって何とかついて行けたが、もう少し落ち着いてくれたらなぁ、と思わずにはいられなかった。


「さ、着いたよ!」


 戦闘区は街同様の畑や田んぼの中で足場が悪い。一応、農道のような道もあり、この道を通っていくと攻略区へとつながっているのだろう。

 しかしマナに連れられたのは、畑から離れて着いた果樹園のような場所だ。足場こそ平地で動きやすいが、果物の樹で視界が遮られる。

 果樹園の中には、果物型のMobが闊歩しており、ここから視認できるだけでもミカンにリンゴ、メロンにブドウと、非常に様々な種類がいる。


「こんなとこもあったな。懐かしい」

「そうでしょ! 私ここ好きなんだよね!」

「そういやここって、たまに毒交じりがポップするんだったかな?」

「そうそう。ブリッツが間違って毒交じりを爆散させたときは大変だったなぁ」

「うわ、それは大変そう」


 懐古して談議に花を咲かせる二人。ここに来るのが初めての俺には何も分からないが、楽しそうな二人を見ていると俺まで楽しくなってくる。

 ただ話に置いてけぼりになっていることに気づいたマナが説明をしてくれた。


「ここのMobってさ、見ての通り野菜とか果物型なんだよね」


 マナの言う通り、周囲のMobは玉ねぎや人参を擬人化したような見た目をしていて、FOとは別のMMOの世界観かと疑ってしまう。


「これらは普通のMobなんだけど、一定の確率で毒を持ったMobがポップするんだ。それを普通に倒す分にはいいんだけど、爆散させると毒がばらまかれてバッドステータスもらっちゃうんだよね。βの時に間違えてブリッツが炎魔法で毒持ちを爆散させたことがあって、みんな毒にかかって大変だったんだ」

「へぇ~そんなことがあったんだ」

「うん。エリネスさんがなんとかみんなを落ち着かせて難を逃れたんだけど、危うく全員死んじゃうところだったよ。今思うとほんと懐かしいな」


毒か……俺も気を付けないと。今は一つのミスが命取りだからな。


「毒持ちは紫色の見た目してるから見分けをつけるのは簡単だよ」

「わかった」

「じゃあ早速始めますか!」

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