第43話

 目を覚ましたのはいつも通り真っ白い天井の下で、ふかふか、とは決して言えないベッドの上だった。


「ここは……宿屋だな…………そうか、確かボス戦が……あれ? どうなったんだ?」


 部屋の窓から光が差し込んでいる。ボス戦は十時に開始されたから今は昼間か。だとすると俺が寝たのは一時間程度かな。

 そう予測しつつ時間を確認するため右手の人差し指で《W》の字を空中に書いてウィンドウを開く。一番右上に表示されている西暦と日時の場所にあるのは二〇三六年九月三日九時十五分。

 ――――朝?

 誰かボス戦を行った日が二〇三六年九月二日だったから俺は一晩寝ていたことになる。

 そこまで判った時この部屋に誰かがいるのに気づいた。小さく呼吸をする音が聞こえる。

 その呼吸音のする方に視線を向けてみるとマナがベッドの横で椅子に座って眠っていた。俺を心配して起きてくれていたのだろう。

 ありがたさと申し訳なさが混ざり複雑な心境になりながら、夏用に店で買っていた薄めのタオルケットを取り出してマナの肩にかけてやる。

 マナを起こすのは気が引けるのでその間に俺は防具と武器の耐久値、アイテムを見た後、スキルを確認した。



HP:5029/5029

MP:185/185

装備

武器:シュバルツステル

防具:頭 ミスリルメット

  体上 ミスリルプレート

  体下 ミスリルボトムス

   腕 ミスリルグローブ

   足 ミスリルグリーブ

STR:59

VIT:49

INT:60

MND:44

AGI:45

スキル

『魔法』SLv81『魔法才能』SLv38『両手剣』SLv82『両手剣才能』SLv20『跳躍』SLv1『ステップ』SLv79『回避』SLv70『水魔法』SLv75『風魔法』SLv4『火魔法』SLv3『氷魔法』SLv2『光魔法』SLv3『機敏』SLv32『光防』SLv34『隠蔽』SLv3


 いつの間にか『ジャンプ』が『跳躍』に代わっている。これで今後はジャンプできる距離・高さが増えて行動に幅が出そうだ。

 第一層のボスを倒したことで二層へと進める。強くなるMobに対しても戦い方が増やせることは生き残る上でも大きい。

 ここでようやくベッドの横の椅子から音がした。


「ん、ん~~~~」

「おはよう、マナ」

「ん、おはよー……って、私、寝ちゃってた!?」

「ええ、そりゃもう気持ち良さそうに」

「あちゃー、ホントに?」

「うん、でもありがとなマナ。心配してくれて」


 マナの意識が覚醒したところで、聞いておきたいことがあった。


「マナ、あの後どうなった?」

「あの後って、お兄ちゃんが意識を失ってから?」

「あぁ」

「真っ先にタケ君が来てくれて、お兄ちゃんをここまで運んでくれたんだ。その間に、エリネスさんとか、フィン・クリムゾンとか、他の最前線プレイヤーたちが二層の中央広場に向かったよ。私も行こうと思ったんだけど、みんなお兄ちゃんの方にいていいよって言ってくれたから」


 どうやらタケや『サイクロン』のメンバーには迷惑をかけてしまったらしい。また後で謝罪とお礼をしておこう。


「そうか……心配かけてごめんな」

「ううん! そんなことないよ! お兄ちゃんがミノタウロスを倒してくれなかったら、もっと被害が増えてたかもしれなんだし。それにしてもすごかったなぁ。お兄ちゃん、いつの間にあんな強くなったの?」


 強くなったと言われても、ただただ感情のままに突っ走ってしまっただけで、決して俺の実力ではない。想定外の行動をするミノタウロスにプレイヤーたちが殺されて、ミノタウロスに対してや、デスゲームを作った運営への怒りを抑えきれなくなったのだ。

 もしあれだけの動きを自分の意志でできるようになれば、その時は胸を張って最前線プレイヤーになれるだろう。


「あれは目の前で人が死んで、感情のままに動いただけで」

「それでもすごいよ! 私も頑張らないとお兄ちゃんに抜かれちゃうね。──あ」


 マナはようやくタオルケットが肩にかけられていることに気づいて俺に返した。


「ありがと」


 タオルケットを受け取ってアイテムボックスにしまう。


「それにね、みんなお兄ちゃんに感謝してるんだよ。さっきも言ったけど、もしあのままだとあと何人犠牲になってたか分からない。確かにお兄ちゃんが急に倒れてびっくりしたけど、お兄ちゃんが助けた人だっているんだよ。だからお兄ちゃんは自信もって!」


 最後の一文を笑顔で言ったマナのその笑顔には一安心という感情と半ば冗談で大袈裟に言ったような気持ちが混ざっていた。

「ホントにありがとな」


 そこで一度兄妹の会話が止む。

 会話はないが、言葉を交わさずに過ごすこの感覚も懐かしい。家にいるときは全然珍しいことじゃなかっただけに居心地がいい。

 特になにかをするでもなく、お互いにぼーっと時間を過ごす。

 今となってはもう昔に思える懐かしい感覚を噛みしめていたが、俺は不意にタケのことを思い出す。


「そういえばタケってどこにいるか判るか?」

「うん、大丈夫、だと思う。タケ君とサイクロンはお兄ちゃんを心配してお兄ちゃんが泊まっているこの宿に泊まってるから」


 いろんな人が心配してくれてとてもありがたい話だ。タケにも相変わらず助けられてばっかりだ。


「じゃあロビーで待ってて、タケ君にはチャットで伝えるから」

「分かった」

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