第41話

 ラスト一本になったところで前衛が集まって会議をしている。また作戦を変更するらしい。


「その間はタゲ取り役の仕事ってな」


 仲間外れにされてるような気持ちで哀しくなりながらも、そう自分に言い聞かる。でも本心ではそんな会議をボス戦前にやっとけよと思う。


「せぇいやぁぁぁぁ!」


 今行われている会議が終われば後はどうにかしてくれるだろう……多分。それまでは何としてもミノタウロスを押さえる。

 そういう強い気持ちを剣に込めて気迫で振る。

 ターゲットを取ることに成功し、これを手離さないようにする。

 ミノタウロスの繰り出す通常攻撃は重いものの当たらなければどうということはない。寧ろ攻撃終了後に隙が出来るためチャンスになる。

 その通常攻撃を躱して出来た隙に体を斬り込む。後一分、いや、三十秒。後三十秒堪えれば会議は終わるはずだ。


「パワーウインド!」


 これで時間が稼げるかなと思い、試しに使ってみたが、動いたのは僅か10cmぐらいだった。何も起こらないよりはマシかもしれないが、これじゃあ大して変わらない。他の魔法もあいにく未だ修行中だから役に立たない。水魔法も『マッドプール』は効かないだろうし、『バブルボム』も拡散技のためあまり有効とは言えない。ならば……

 考えを行動に移す前にポーション二本で使って四割近く減っていたHPを全回復させる。そして『スクロールスクエア』を発動させる。


「いけぇぇぇぇ!」


 魔法が役に立たないこの状況で俺が考えたのはSSを使用し、自らのを囮にして時間を稼ぐという捨て身の方法だ。本来ならもっと連続数の多いSSの方がいいのだが、まだそれをてに入れるまでに至っていないから仕方ない。

 心配ならいらない。硬直直前に防御姿勢をとっておくし、通常攻撃を受けてもHPは四分の一しかくらわないから。

 正方形の一辺を描くことに与えるダメージは凄く微々たるものだ。だが時間は稼げる。さすがに一回ぐらいじゃ硬直時間を含めの十秒程度だけど、硬直時に与えた攻撃分のヘイトは溜まって俺に攻撃が来るはずだ。

 そんな予想通りに展開は進んだ。硬直中、俺に通常攻撃を浴びせさせたものの減ったHPは二割強。後衛陣が俺のしていることを察してくれたのか、今は攻撃を止めてくれていて、まだターゲットは俺にある。

 さすがに一回だけじゃ会議が終わりそうにないのでもう一度繰り返す。

 『スクロールスクエア』を放ち終わり、硬直時間に突入。そして再び通常攻撃が来たとき、何か白い物が当たり、軌道を逸らしてくれた。

 思わずそっちを見ると、作戦会議の終了した前衛陣がいた。一番先頭にはタケ、マナ、そしてエリネスといった俺の知っている人が陣取っている。先程の凄い速さで俺の目の前を通った物の正体はナイフらしく、タケがまだ二本のナイフを持っていることからタケが投げたことが判る。


「済まん、待たせたな」

「もういいのか?」

「ああ」

「それにいつの間に投擲スキルを?」

「そんなことは後だ今は目の前の敵を倒すのが先だ」

「そうだな、後は頼んだ」

「おう、任せとけ」


 会議が終わった前衛陣と入れ替わりで俺は一時後退する。それと同時に後衛の魔法攻撃も再開する。残りHPは八割半。

 パッと最初に前衛の様子を見たが、特にこれといって作戦が変わっているようには思えなかった。先程までと同じようにグループに分かれ、攻撃を行っているだけだ。

 だが、その違いは直に解った。

 何もない状態からミノタウロスが通常攻撃を行おうとしたときに動きがあった。


「今です!作戦通りに!」


 ミノタウロスが剣を振るべくテイクバックした時にフレイセルが大きく声をかける。すると五人程のグループが最前列の左舷へと移動した。

 何をするのかと思うと五人が剣を中段に構えて足に力を入れて踏ん張る。そこにミノタウロスの斧が振られ、五人の持つ剣へと吸い寄せられるように当たる。

 キイィィーーーーン、という甲高い音を部屋中に響かせ、何とか飛ばされずに済み、歯を食いしばって防ぐ。

 ミノタウロスの持つ斧の刃は前衛の剣士五人が横に並んでもまだそれよりも大きいということで、その大きさが嫌でも思い知らされる。だが、そんなことにもおびえず、ひるまず他のメンバーは攻撃している。

 ミノタウロスの斧を防いでる五人の中には特に知っているプレイヤーはいないが、見るからに力自慢の五人が集まっている。しかしその力をもってしても足がじわじわと滑っていっている。いつまで保つか判らない。

 その間に残りのプレイヤーで一斉攻撃の集中砲火を浴びせてHPは最後の難関であるレッドゾーンに突入した。

 グルウォァァーーという低くドスの利いたような悲鳴を上げて怯んだ。斧を危うく落としそうになるまで反射的に引き、前衛五人の努力は報われて解放された。

 その五人は力自慢であったにも関わらず、押されてついた足跡は3m近くにも及ぶ。そして今は、手を膝について大きく肩を上下させ、荒くなった息遣いが少し離れている俺の所まで聞こえてくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る