第34話

 六剣ろくけんのメンバーが退散していくの見て俺は安堵の息をついた。

 姿を見ただけで相手を怯ませるサイクロンのネームバリューに感嘆する。


「エリネスさん来てくれてありがとうございます。ほんとに助かりました」

「気にしなくていい。それに私は何もしていないよ。それにしても……」


 ここで一度間をとって続ける。


「あのリーダーの男、六剣のマスターだったな」

「えっ? あいつが?」

「あぁ。一度だけ見たことがあってな。マスターはギルドの人が少ないときに出てくるという噂だから下っ端共が少ないんだろう。ならば六剣を潰すなら今だ。人を補充する前に潰すしかない」


 あれがマスターだったのか。あれでマスターが出てくるなんて大したことなかったりするのだろうか。でも……


「六剣のアジトの場所って判ってるんですか?」

「情報通りなら大体の場所は判る」


 若干食い気味に返され、珍しくエリネスが闘志を燃やしているのが分かる。

 けど、今からなんて流石に無茶じゃないか?相手の態勢が整っていないとしもこちらも準備が整ってなくちゃ結局の所意味がない。

 そう思ったが、だんだん癖になりつつある思ったことを表情に出すことを今回もしてしまっていたらしく、考えてたことを見透かされ、笑いながら言われた。


「大丈夫さ。 心配しなくても私たちになら出来る。危険なことに立ち向かい、プレイヤーが安全に暮らせる環境を作るのも我々攻略組の重要な役割だから」


 自信に満ち溢れた発言に感心する。攻略組としての実力が備わり、その責任を自覚しているからこそ言える発言だ。いつかは俺もそんな台詞言ってみたい。ついそんな場違いなことを考えてしまう。

 でも確かにエリネスさんの言う通りだ。この世界の上位にいるが平和、安全を確保しなければ他の誰にも出来ない。

 攻略組、とまではいかないが、俺だってこの世界の前線プレイヤー層にいる自覚はある。なら、デスゲームに巻き込まれた全プレイヤーのために行動しなければならないはずだ。当然死のリスクは高い。相手はプログラミングされたAIではなく、意思を持って殺人を専門としたPKギルドなのだ。危険すぎる。けれど、俺はやつらを見過ごすわけにはいかない。


「じゃあ俺も行かせてください」

「わたしも」


 覚悟を決めて申し出ると、隣からも立候補があった。


「スフィー!?」

「何よ? 私だって力はあるって自負してる。別に足を引っ張ったりする気はない」

「でも、危険だ」

「そんなの誰だって覚悟の上でしょ? 今更じゃない」


 スフィーの決意にエリネスは驚きを見せたがすぐに元に戻り答えた。


「解った。ただ無理はしないでほしい。危ないと思ったら個々の判断で脱出してくれて構わない。そのことで咎めたりはしない」

「はい。ありがとうございます」


 俺とスフィーがサイクロンと同行することになり、六剣の下っ端に減らされたHPを回復した。「減ったGポーションを補充するか?」と訊かれたが、二人とも「多目に持っているから大丈夫」と断り、サイクロンに加わってエリネスが知っているダークネスのアジトに向かう。

 ただその前に歩いてプロートンに戻り、アイテムを補給してから中央広場の石像でワープする。

 エリネスが石像に軽く触れると、全身が浮くような感覚に襲われて青い光に包まれる。今パーティーを組んでいるため、その中の誰か一人が街の名前を口にすると全員が転移することが出来るのだが、エリネスは小声で街名を呟いたため転移先を聞くことはできなかった。

 青い光が消えると、眼前に広がっていたそこは初めて見る街だった。


「ここは?」

「グランドスーンだよ」


 マナの返事を聞いた俺は思い出した。

 グランドスーン。円形のFOの世界の北東部にある街。それほど人口が多くはないが、知る人ぞ知る人気隠れスポットとなっている。俺はこの街を通らなかったので知らないが、グランドスーンのさらに北東部、グランドマウンテンには中間層のプレイヤーにとって絶好の狩場があるらしく、少なからず人はいる。


「行こうか」


 エリネスが声をかけ、再び歩み始める。

 俺たちが向かったのは、その人気隠れスポットのあるグランドマウンテンだ。

 グランドマウンテンは火山をモチーフに設定されており火属性のMobが多い。両手剣だけでなく全属性魔法を育てている俺にはあまりMobの属性は関係ないが、特に水属性のSLvは高いため相性はいい。

 約一時間位歩くとさすがに疲れてきた。グランドスーンからこんなに奥があるとは思わなかった。そしてエリネスが止まったのはこの世界の最北東、グランドマウンテンの一番端にある洞窟だった。


「ここに……?」

「ああ」


 これから戦闘になるであろう。だから一時間休みなく歩いたため少し休みが欲しかった。だが、誰一人として音を上げずに頑張っている。勿論その中で俺だけが休むことなんて出来ない。そんな時、幸いにもエリネスが言ってくれた。


「少し休もうか。疲れたまま戦闘になれば我々に勝ち目はない」


 流石にこんな敵のアジトの前で休むのは危ないのでその横にあった木々の中で少し休む。

 休憩中に口を開くものは誰もいなかった。みんな緊張感を高め、これからの戦闘に備えている。

 そんなためにどれぐらい休憩したかは覚えていない。緊迫した状況のせいで長く感じ、また疲労のために短くも感じた。

 次に意識がはっきりしているのは休憩が終わり、洞窟に突入する前だ。

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