第33話
食事か終わると俺は料理をスフィーに小石のことを聞かなくてはいけないからサイクロンと別れた。サイクロンはこれから攻略に向かうらしい。
昼食後、休むことなくスフィーにコールしたがスフィーが出ない。この世界だと現実とは違い、必ず相手に繋がるのだが、出ることが出来ないということは、取り込み中もしくは通話している余裕がない、意図的に出ないのどれかになる。だが意図的に出ないというのは流石にないはずなので残りの二つになる。
今無理ならばチャットで送ろうかと思ったが、それじゃあ時間がかかりすぎる。どこかスフィーの行く場所に心当たりがないかと考えたがすぐに思い付いた。通話する余裕がないぐらい連続で狩り続けなければならない場所。昨日言ったばかりのあの場所だと。
戦闘区に入り、攻略区とは反対に進むと、誰かに見られていないか気を配らせてから森の中へと入る。すると予想通り戦闘の音が聞こえてきた。
音のする方へ更に進んだいくとやはりそこにスフィーの姿があり、昨日同様に六対一で囲まれた状態で戦闘を行っている。
俺が近付くとスフィーの方も気付いたらしく、軽く手を振ってくれた。そしてその戦闘を中断させようとしているのだが、その脱出方法が俺の考えない別のやり方だった。
その脱出方法とは単純なもので、風魔法『パワーウィンド』で全方位の敵を全て飛ばして余裕をもってこっちに来た。
俺のすぐ横を通って飛んでいく敵を見送ってスフィーに出会う。
少し歩いてMobのPOPしないエリアまで来たところでようやく立ち止まった。
「どうしたのネスト? 昨日会ったばっかりなのに」
「ちょっと聞きたいことがあって。この石と同じ石を持ってるってマナが言ってたから来たんだけど」
俺が石を取り出すと驚いた様子のスフィーが自分のも取り出す。
その二つの石は形も大きさも全く等しい。違いは色だけ。俺のは透明、マナのは黄色く澄んでいる。マナの言ってた情報通りだ。
「この石どうしたの?」
「店の人にもらった。店の人も使い方が判らなくてどうしようもないからって」
「そう……やっぱり判らないのね……」
スフィーは肩を落とした。この様子じゃ特に有益な情報は得られそうにない。せめて話だけ聞いておこう。
「この石はβの終了時に無くならなかったって聞いたけど?」
「そう。確かにこの石はβの時から残ったまま。最初はバグで偶然この石だけが残ったのかと思った。そして残ったのがこの使い方の判らない石で不幸だとも冗談半分だけど思った。けど何だか捨てられなくて。最初はβから残っている記念品とか証拠品みたいな感じだった。でもバグなら運営に消されるはずなのに消されないし、それに使い方が判らないと説明にまで書いたある道具はおかしい。何かあるはずだって思ったからこうして持ってるの」
スフィーの簡単な話を聞いていていくつか共通点があった。まずは使い方が判らないから要らないと思ったけどなんとなく捨てらなかったということ。二つ目は説明に使い方がわからないと書いてある道具はおかしいと思い、何か使い方があるはずだから持っているということ。
よく考えればこの二つは持っている理由だ。持っている理由が完璧に合致している。このには石にはそうする力があるというのだろうか。
とにかく今日の収穫は無だ。謎めいたこの石自身が情報を秘匿しているかのように情報が何一つとて得られない。少しづつ公開してくれるのを待つしかない。
「そうか。狩りの邪魔して悪かったな」
スフィーの話を聞いて、戻ろうとセーフティーゾーンから出た時、何人かのプレイヤーに四方を囲まれた。
「退いてくれないか? 邪魔なんだけど?」
「……ネストとスフィーだな?」
「!! ……何で俺たちの名前を知っている!?」
「さぁな。そんなことは教えたところで無意味だ」
──何でこいつは名前を知っている? 会うのは初めてだし俺はそこまで有名なプレイヤーではない。なにせまだ俺は最前線にすら出てないんだ。どういった方法、もしくはルートで知られたんだ?
思考を巡らせていると何だか聞いたことがあるような声が耳に入ってきた。
「お前! さっきは昨日はよくもやってくれたな!」
そう叫んだのは昨日監獄に送ったばかりのあの
「うるさいぞ。ちょっと黙っておけ」
「は、はい……」
このパーティーのリーダーらしきプレイヤーが勝手に喋りだした男を黙らせる。人を脅すことなど容易いような威圧感を声に秘めている。
「なるほど、そういうことか。……いや待て、何でお前がここにいる! 監獄に送ったはずだぞ!」
確かに昨日この男を監獄に送った。なのになぜ、どうして監獄から抜け出せた? 確か監獄は破壊不能オブジェクトで格子には当然通り抜けられる大きさの隙間はない。
「教えるかよそんなこと」
やはりどうやら教えてはもらえないらしい。そのことをとやかくいったところで今の状況は変わらないから今のリーダーの男との話を続ける。
「で、今日は昨日の仕返しか?」
「まぁそんなところだ」
話している間に周囲を完全に塞がれた。その人数を数えると九人。流石にこの人数を二人で相手をするのは正直キツイ。
軽く舌打ちして俺は素早くウィンドウを操作し、転移ブロックを使用する。
「……?」
だが、何も起こらなかった。試しにもう一度ウィンドウから転移ブロックを使用するが、結果は変わらず。
そんな俺の行動を見ていた
「はははは! 残念だったな! ここからは逃げられないぜ? なぜならここにアイテムを一定時間使用できなくなるアイテムがあるからな!」
そう言って男が掲げたのは小さなフラッグのようなものだ。約十五センチほどの棒に白い長方形の布を取ってつけただけの簡素なもの。だが、転移ブロックが使えなかった事実がある以上、そのフラッグが本当にそんな効果を持っているのだろう。
だが、これまでそんなアイテムは聞いたことがない。六剣の連中がこれまでにそんなものを使用したということも聞いていない。本当にそんなアイテムを六剣が入手したのだとすると、FO史上最大の危機と言ってもいい。
だがその前に、今は目の前のこの現状をどうにか切り抜けなければならない。俺らを囲むようにして現れた的に対処できるようスフィーと背中合わせになる。
「どうする?」
「…………」
俺が焦りを露わにしつつ小声でスフィーに問いかけると、返事はなかった。違和感を感じ、敵に隙を見せないように横目でスフィーを見ると、彼女の頬には汗粒が浮かんでいた。そしてよく聞けば呼吸も荒くなっていて、俺以上に動揺しているのが分かった。
「スフィー、大丈夫か?」
「……えぇ、大丈夫よ」
言葉ではそう言っているものの、声音からしても明らかに余裕がなさそうだ。
くそっ、アイテムが使えないんじゃ自力でここから抜け出すしかないのか。この数的不利な状況を打破して安全圏に抜けるしかない。
でも、出来るだろうか。スフィーの実力ならまだしも、俺の実力では
とりあえず間に合わうかどうかは正直分からないが、一応マナたちに応援を要請しておいた。サイクロンが助けに来てくれれば状況は逆転するが、それまで持たせられるだろうか。
脳裏に浮かぶのは幼い頃の事件。今だって心臓の鼓動が早くなり、身体が震え始める。
「でも、やるしかない……」
怖いけど、死にたくない。
震える手で愛剣を構える。
取りあえず全員同時に攻められないように『マッドプール』で同時に使える上限三=三人を行動不能にする。
出来ることならこのまま戦わずに逃げ出したいが──
俺の現実逃避も虚しく、リーダーと行動を封じた敵を除く五人が襲いかかってくる。
下っ端の一人から繰り出される斬撃を
ダークスウィープソードの攻撃力は驚くべく物だった。たった一度の攻撃で
ダークスウィープソードの攻撃力に一番驚いたのは俺の方だった。そのせいで少し気をとられ、他のやつの攻撃に気付くのが遅れ、咄嗟に『回避』を使ったがそれでも脇腹に斬撃をくらってしまい、HPが二割減る。
やはり
その一方、俺はさすがに連続して繰り出される全ての攻撃をかわしきることが出来ず、少しづつじわりじわりと減らされていき、イエローゾーンに入ってきている。
「ちくしょう、このままだとキリがない」
次々と繰り出される斬撃を適当に受け流しながら何かこの状況を打開できる方法は無いかと思考を巡らせる。
確かこの状況と同じような状況があったような……そうだ昨日のあれだ。マナとスフィーの三人で狩りに行ってスフィーのあのスポットで囲まれていたときのあれだ。そしてあの時は……!!
そこまで考えた時、ほんのついさっきスフィーが一対六で完璧に囲まれているときの脱出時に使った方法が甦った。
早速実行すべく、最初のように斬撃を
一度目の左下からの斬り上げは弾かれたが、それで体勢を崩すことが出来、がら空きになった上半身残りの三発を浴びせ、一人目のHPを0にする。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げて消滅するのを一瞥し、これなら思ったより時間がかからないと油断した時、今まで『マッドプール』で足止めしていた残りの三人が『マッドプール』の効力が切れ、更にそこにリーダーの奴も加わって計四人も参戦し俺たちを殺そうとした時、俺の前の方から氷魔法『ブリザードウォール』が飛んできて俺の目の前にいた一人に命中した。そこにいた俺以外の全員が驚いて動きを止めた。
その間にHPがあと少しになった奴のHPを無くす。そして素早くウィンドウを開き、ワープブロックを使って強引に一人を押し込む。
サイクロンが姿を現すとこの場のムードが一変した。
「ちっ! サイクロンが来たか! 仕方ない、お前ら引き上げるぞ!」
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