第20話

 真っ先に愛美の元へ駆けつけようかと考えたが、俺はそん選択を捨て、まずは自分の安全性を高めるために防具を買い揃えようとフェールショップに来た。あんな発表があったばかりで店に戻ってきているか心配だったが、その心配は見事に的中した。

 店の中にいたのはフェルではなく、店番をしていたNPCだった。やはりまだ帰ってきてないらしい。

 とりあえず待っておくしかないため、俺はメッセージを送っておいて、その間に黒鳥の言っていた掲示板でも見て待っていることにした。






雑談スレ1

1、シュラッグ

 雑談するスレです。適当に話しましょう。


5、名無し

 デスゲームなんて怖い。戦いたくない


6、常闇パラディン

 何ビビってんだよ。マジな訳ないだろ。ハッタリだよハッタリ。緊張感もたせてやらせようとしてるだけだって


7、名無し

 じゃあ何だよ。倒されたらそこは現実で黒鳥が冗談でしたテヘッとかでも言うのかよ


8、ドームウェル

 テヘッとかワロタww


9、名無し

 でも嘘だよな。デスゲームなんて聞いたことないし。


10、名無し

 そりゃそうだろ。聞いたことがあったら大きく報道されまくってるって


11、名無し

 そうだけど…デスゲームなんてできる訳ないよな…


12、ケイ

 じゃあお前ら死んでこい


13、タギル

 いいぜ、どうせ嘘なんだし


14、名無し

 本当に行きやがった。つーか死亡者リスト載ってるし。


15、みそかつ

 まじかww乙


16、スノーク

 でもこれでデスゲーム確定……だよね?


17、サンドロック

 さぁな。ここでは死んでも現実ではどうだか…


18、名無し

 そう……か……


19、名無し

 お前らガチで死ぬぞ?


20、フィレビット

 実際に死ぬか分からないのにそんなにビクビクしてられるかっつの


21、名無し

 本当に死んだらどうすんだよ


22、ファウスト

 そん時はそん時


23、名無し

 ……………






 掲示板には、デスゲームというのを信じられない人もいれば状況を全く理解出来ていない人すらいる。デスゲームが本当だという意見もあればデスゲームなんて嘘だったいう意見もあり、半々ぐらいに分かれている。

 さっき死ぬと言っていた奴が本当に現実で死を迎えたのは分からない。でも恐らく死んだのだろう。黒鳥のセリフに嘘偽りは無いと思う。

 ―――これは本当だ。黒鳥の言ったことは決してハッタリなんかではない。

 現実を再認識するとまたしても体が震えてきた。幸い、俺にはこの世界に知り合いがいる。サイクロンやオルゴールのメンバーにフェル。まして家族の愛美だっている。数えてみれば案外少なかったりするが、それでも今はこの知り合い達が心の支えだ。

 みんなどうしているんだろう。俺と同じようにまだ不安で行動を決めかねているだろうか。それとも、サイクロンやオルゴールのようなβ時代から前線にいるギルドはデスゲームをクリアするために最前線に出てくるだろうか。そうだとしたら家族として、親友として心配しかないが、それを止められるかと言えば、おそらく無理だ。だから今は連絡が取りたいのだが、未だマナから返信が来ない。

 心配しながらウィンドウを閉じると、ちょうどフェルが帰ってきた。店の扉に付けられた明るい鐘の音とは対照的に、彼女の表情は予想通り、死への恐怖で怯えてきっていた。


「あ……来てたんだ………」


 フェルの声音は酷く暗くて、何時ものフェルらしくない。平然を装えと言う方が無理だろうが、やはりフェルには明るくて元気なほうが似合っている。

 でも……仕方ない。


「うん、防具が欲しくて」


 それを聞いた途端、フェルは目を見開いた。そして少し詰め寄り訴えてくる。


「防具って……戦う気なの!? 死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「そうだな……黒鳥の言ってることを信じていない人もやっぱりいるみたいだけど、俺はこのゲームがゲームじゃなくなったんだ思うよ。だから死ぬのは怖いし、自分でもどうしたらいいか分からないんだ」


 当然だ。死ぬことより怖いことなんてこの世にはない。でも、死ぬリスクを負わなければこれまで通りの日常が帰ってこない。この世界に閉じ込められた人にとって、何もせずにゲームがクリアされるのを待つのが一番幸せな方法だ。出来ることなら俺はそれを選びたい。


「でも、こんなことになっちゃった以上何が起こるかわからない。だから少しでも生き延びられるように防具が欲しいんだ」

「──強いね。ネスト君は……」


 消え入りそうなほどか細え声はまだ震えていて、俺に届くギリギリの大きさだった。

 俺とは違って、彼女には身寄りがいないのだろう。死の世界へと化した場所に、ただ一人取り残された彼女は俺なんか比べ物にならないほど不安で、怖くて、心細いのだろう。


「そんなことないよ。デスゲームを宣告されて、俺だって安全なところからでたくないし、すっごく不安で怖い。でもさ、幸か不幸かこの世界に知り合いと家族がいるんだ。だから俺もだいぶ救われてる。一人じゃないからちょっとは安心してる部分もあるんだよ。だから塞ぎ込んでしまいそうになってるところが、こうしていられるんだ」

「それでも、ネスト君は強いよ……私には無理」

「フェルなら大丈夫だよ。怖いなら別に無理しなくてもいいんだから。ずっと街中にいたって誰も何も言いやしないさ」

「うん……ネスト君は優しいね」


 俺の言葉をどれだけ届いているか分からないが、俯くフェルの緩むのがわかった。


「分かった。でも一つだけ約束して……無理はしないでね」

「分かった」


 俺の答えを聞き、満足した様子で自信作の防具一式を取り出してくれた。その値段は三万二千フィルと思ったより少し高かったがそんなもんだろう。その方が安心出来ていい。

 トレードウィンドウに三万二千フィルを乗せて代金を支払う。そしてフェルに礼を言って出て行こうとした時、フェルが俺を呼び止めた。


「ねぇ……」


 背後から聞こえた声に反応し、足を止めて振り向く。また彼女は思い込んだ顔つきになっていた。不安げな上目遣いで、どこか怯えるような感情が見て取れた。


「あたしが死にそうになったら、ネスト君は助けてくれる?」

「あぁ、すぐに駆けつけるよ」


 フェルの問いにそれだけ答えると、フェルに背を向け、店から出て行く。

 外から扉を閉めた所でふぅと息を吐き出す。


「あんなこと言っちゃったら、街にひきこもれないな……」


 デスゲームに挑むのは怖いが、後悔はなかった。

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