第14話
俺も一人を除くサイクロンのメンバーと談笑していると、ブリッツが少し離れた所で何か言っている。
「今度はソロでボス攻略をして一番に乗り込んで名を残してやるーーー!!!」
いやいやそう簡単には無理だからな。
「な?言った通りだろ?」
「そうですね。」
βテストの一カ月の間にこのギルドのことは大体把握しているようだ。誰もが仲間を信じ、信頼しきっている。こんな信頼関係がソロの俺には羨ましかった。
楽しい時間は過ぎるのが早い。再び話に溶け込んでいて、ふとウィンドウを開いて時計を見るともう五時二十分だった。この時になってもまだブリッツはぶつぶつと何か独り言を繰り返している。
「ヤバい、俺もう落ちます。これから祭りがあるので。マナはどうする?」
「あ、私も行くー」
「じゃ、そういうことなんですいません。エリネスさん、今日はありがとうございました」
俺は軽く礼をして言う。
「こっちも楽しかったよ」
「はい、またお願いします」
ログアウトしようとしたが、フレンド登録をしていなかったことを思い出し、慌ててブリッツ以外のサイクロンのメンバー全員とフレンド登録をした。
「祭りかぁ~いいなぁ~」
ソアラが羨ましいそうに呟いた。
あなただって祭りによく行ってた学生のころがあったでしょうに。
そう思いながらログアウトした。
「おーい、愛美ー!早く行くぞー!!」
「もうちょっと待ってー!」
そう言った愛美の声は二階から聞こえてきた。
俺はもう準備ができて玄関で待っているというのに……愛美のやつ遅すぎる。
今は五時五十五分。数字がぞろ目だとかそんなことはどうでもいい。武人との約束の時間は六時。待ち合わせ場所までは三分で行けるんだが…ギリギリだ。俺はもう少し余裕を持って着きたいんだけど、何が何でも遅すぎる。
それから少しすると、階段を駆け下りてくる音が聞こえ、着物姿になった愛美が姿を見せた。
「ごめん、お待たせ」
「いいから早く行くぞ」
外に出て歩きながら愛美に気になっていたことを聞いた。
「なぁ愛美、サイクロンっていつもあんな感じなのか?」
「あんな感じって?」
「にぎやかだったり、言っちゃ悪いが子どもっぽかったりする所」
「あー、うんそうだよ。楽しくていいし。それに気付いてると思うけどエリネスさんとソアラさん以外全員私たちと同じぐらいの年だよ」
「え、ソアラさんも!?」
「うん。あの人多分リアルじゃ大学生じゃないかな?」
……まじか。言動が子供っぽいからてっきり俺らと同じぐらいかと。
「それは意外だったな。で、βの時にはどこまで進んだんだ?」
「何の話だ?」
「うわっ!」
「何だよ人をお化けみたいに」
どうやら愛美と話している間にいつの間にか武人との待ち合わせ場所に着いていたようだ。急に声をかけられたから驚いた。集中していると三分は早いな。
「悪い悪い。話に夢中になってたから」
「何の話してたんだ?」
「いや、βの時ってどこまで行ってたかって聞いてたんだ」
武人は少し考えてから答えた。
「βは一ヶ月だったから早い人でトーテムタワーの三層ぐらいかな。俺たちはグランドマウンテンが精一杯だった。愛美ちゃんとこは?」
「私のとこはトーテムタワーの第一層だったよ。結構最前線の方にいたから。」
一カ月のβテストで一番早い人で五十層あるトーテムタワーの第三層か。今のペースで行くと遅くないか?そんなもなのかな。
トーテムタワーはFO世界の一番奥にあるダンジョンで、五十層まである。各層のダンジョンの奥にボスがいて、そのボスを倒すとさらに奥にある街に行くことができる。これが五十層同じようにある。街も各層で違っていて風景や店などに違いがある。もちろんボスやMobも強くなっていく。
「へぇ~……武人は今どこまで行った?」
「俺はまだグラスガーデンだけど……お前は?」
「今日愛美のギルドと一緒に狩ってサレスに一番乗りしたよ」
少し誇らしげに言う俺。本当はサイクロンのメンバーがすごかったんだが……しかし武人はそんなことは気にもかけず何故か驚いている。一番乗りしたからだろう。
「真人はいいよな。愛美ちゃんの入っているサイクロンはβの時にはトップギルドの一つとしてみんなが知っているようなギルドだぞ? そんなギルドと一緒に狩れるなんて……羨ましい」
今度は俺が驚く番だった。愛美の入っているサイクロンがトップギルドの一つだったなんて。何で教えてくれないんだよ。それにサイクロンがトップギルドの一つなんて思わないぞあれは。個人の能力とチームワークだけなら見て頷けるが、戦闘時以外は個性が豊かで楽しいだけであってトップギルドなんていう感じは全くしなかった。……ていうか武人が驚いてたのはそっちかい!
因みにFOには掲示板というものはない。だからみんなが知っているというのはすべて口コミで広がっている。よっぽどじゃないと口コミで全員には広がらないだろう。このことでサイクロンのすごさは分かるだろう。
「そんなこと言ったって武人君のギルド『オルゴール』も結構強いじゃない」
「例え強くても愛美ちゃんとこと違って有名じゃないから……」
武人は少し落ち込んでいるようだ。テンションが少し低い。
「強かったらいつか有名になるって」
「えっそう? 本当に?」
さっきまで少し落ち込んでたのが急に明るくなった。何だこの変わりようは? 単純な奴だな。少し慰められるだけでこんなに変わるなんて。
「良かったら武人君も一緒に狩る?」
「いや、誘いはありがたいんだけど……これでも一応マスターだからな。遠慮しとくよ」
武人はマスターをやっているのか。それに強いだって? やっぱりβテスターは違うな。でも俺もβテスターには負けてられない。いつかは強くなって誰もが知っているトッププレイヤーになってやる。よし、明日からまた頑張るぞ。でも今は祭りを楽しもう。
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