第15話

 歩いているうちに遠くの方から和太鼓の音や祭囃子が聞こえてくる。のすぐ近くまできている証だ。俺たちははやる気持ちを抑えきれずに走って会場に向かう。

 道の両端に屋台が並び簡易ステージには和太鼓隊が演奏を行っていてそれなりに観客も入っているようだ。


「すごい人だね。まず何行く?」

「そうだな、腹減ったから何か食おうぜ」


 俺の意見に二人は賛成してまず何か食べることに。

 食べ物と言っても色々ある。焼きそばやお好み焼きといった主食の物から唐揚げやたこ焼きといった定番のサイドもある。逆によく祭りあるような物ばかりで、特にこれといって珍しい物は無い。

 俺たちはその中からお好み焼きと唐揚げ、フライドポテトという超定番ばかりを買って空いている席に座って食べることにした。

 俺たちが食べ物を買いに並んだ時から人は続々と増え始め、買い終わった時には、店の前には結構な人の列が出来ていて道にも所狭しと人がいる。今は食事用のイスとテーブルがある場所に座っているが、未だに人は増え続けて人で溢れかえっている。もう少しでも遅ければ場所は確保出来なかっただろう。


「毎年のことだけど、すごい人だよなぁ」

「そうだね。もう少し遅かったらゆっくり出来なかったね」


 唐揚げを口に運びながら人の多さに感嘆すると、愛美がそれに返してくれた。妹の言う通り、祭りに来るのがもう少し遅ければ人混みに呑まれていた。


「そういえば、今日って花火何時からだっけ?」


 今日、この祭りのメインイベントは花火大会だ。それほど大規模とは言い難いが、それでも一時間半にも及ぶ花火が打ち上げられる。それは田舎の花火大会のわりにきれいで、小学生、中学校の頃から高校に入った今でも毎年花火大会を見に来ている。


「確か八時からだったと思うけど?」


 愛美の質問に答える武人。俺はその会話を聞き、時間を確認する。

 六時四十五分。まだ一時間ちょっとある。

 何かあるかなと思い、人混みの方に目を向けたとき、俺はある疑問が浮かぶ。

 やっぱりそうだ。俺たちと同じぐらいの中高生がいつになく少ない。小学生や大学生、社会人はいつもと同じぐらいの人数なのだが…


「あんまり中学生や高校生いないね」


 愛美も同じ事を考えてたらしい。ポテトを摘みながら言う。


「FOが発売されたから多分そっちをやってるんじゃないか?」


 なるほど、それがあったか。


「となると俺らより強くなる人が増えるだろうな。サレスにも結構人がいそうだな」

「だろうな。実際俺も明日にはサレスに入ると思うし」

「ところで武人はレベルどんな感じだ?」

「俺か? 俺は14だな、んで、スキルが──」


『片手剣』SLv15『片手剣技術』SLv15『ステップ』SLv18『回避』SLv16『ジャンプ』SLv18『魔法』SLv5『光魔法』SLv5『見極め』SLv4『直感』SLv2


「高っ! まだ二日目なのにそこまで上がってるのか?」

「まぁな、パーティー組んでたらメンバーが倒してくれた分の経験値も山分けされるから効率がいいんだよ。でもな、多分愛美ちゃんの方が俺より高いんじゃない?」

「へ? わひゃひ? わひゃひはね」

「ちゃんと飲み込んでから喋れ」


 無心でフライドポテトを摘んでいた愛美が突然話を振られて目を丸くした。

 口の中のポテトをごくりと飲み込む。


「うんとね、私はレベル16でスキルはね──」


『片手剣』SLv17『片手剣技術』SLv17『防御』SLv9『受け流し』SLv12『ステップ』SLv20『回避』SLv17『身軽』SLv30『根性』SLv5『光防』SLv6


「ほらな?」


 参ったと言わんばかりの苦笑を浮かべる武人だが、俺からしたら武人も変わらないから。そんな高いレベルで比べられたら俺なんか……いや、やめよう。これ以上は悲しくなるだけだ。うん。あはは……


「レベルだけじゃなくてスキルも俺と倍ぐらいの差があるし……」

「あー……お兄ちゃん、それはしょうがないよ」

「いいよ、慰めなんか。どうせ俺はざこプレイヤーですよ」

「そうじゃないから拗ねないで! えっとね、スキルって使えは使うほど上がるでしょ? だからね、狩りをした数だけスキルは上がるんだよ。だからどうしてもレベルに比例しちゃうんだ」


 じゃあ俺はどっちにしろ雑魚のままじゃん。狩りの時間が強さに直結するなんか不公平だ。あー、お好み焼き美味しいなー……


「でもそれだけじゃないぞ? 自分のスタイルによってスキルの強さは変わってくる。例えば俺の場合、メインは片手剣で、サブを魔法にして弱点を補うスタイルだ。だからステータスはSTRとVITをメインに育ててるけど、サブの魔法も育てないといけない。だからSTRばかりにステータスを振れないし、魔法のスキルを育てるためにその時間も割かないといけない」

「そ。私の場合は攻撃一辺倒にして、防御を少し弱くする代わりに、その分は『防御』とか『身軽』、『攻防』っていうステータス上昇系のスキルを入れて補うようにしてるの。だから剣のスキルばかり育てればいいし、でもあんまり使わない『攻防』とか『防御』はまだそこまでレベルが上がってないでしょ?」

「つまりそういう事だ。真人のスタイルは剣と魔法の両立なんだし、そのスタイルによってスキルの上がり方も自然と変わってくる。だからお前が弱いからだとかそういう理由じゃない」


 なんか二人から全力でフォローされてしまったけど、冷静に考えたらこれ、俺のやり方じゃあ強くなれないって言われてるのと同義では?


「でもお兄ちゃん。二刀流を成し遂げられたらすごいと思うよ? だってβの時は最前線で二刀流は一人もいなかったからね。頑張ってね」


 ──やっぱりダメじゃん!

 とまぁ、こんな感じに話をしながら食事を進めていった。話題になるのはFOのことばかり。この会話をしていると改めて俺もFOにハマってるんだなと思う。

 FOの話に花が咲き、盛り上がったために食事は二十分もかけてようやく終わった。


「どうする? この後」


 食事を終えたと同時にFOの会話もピタリと終わり、そして一息ついた俺が新たに話を切り出した。


「七時五十分まで個人行動をとらないか? いろいろ見て回りたいし」

「うんいいよ、分かった」

「じゃあ七時五十分にここで落ち合おう」


 そういうことになったので、とりあえず俺は屋台を見て回ることにした。

 特に宛はなかったが、ぶらぶらと歩き回っていると、特設ステージの方が盛り上がっていた。和太鼓の演奏は既に終わり、今は着物を来た人たちによる盆踊りが披露されていた。それを一目見ようとそこまで多くはないがそれなりに人が集まっている。

 だが俺は興味がないためスルー。

 やっぱり屋台を見て回ることにする。

 祭りと言えば当て物、と言う人もいるはず。だが俺は違う。俺は当て物なんかやらない。あんな物は当たらない。夢が無いなんて言われるかもしれないが実際当たったことが一度も無い。

 ――当たりなんて本当は入ってないんじゃないか?

 俺は最近そう思う。でも知ってるやつが当たったことがあるらしいから、当たりのある所はあるのだろう。それでもほとんどの所には当たりが無い気がする。詐欺だ。当て物なんか詐欺だ。だからやらない。

 そんなことを考えていた刹那、すぐ近くで鐘の音と共に「大当たり~!」という声が聞こえてきた。それが本当なのか確めるために音のした店の方に近づく。すると本当に当たっていた。当てていたのは小学校五年生から六年生ぐらいの子どもで、賞品としてVR機を貰っていた。

 羨ましい。俺なんか四万から五万円も出して買ったのにその百分の一ぐらいの値段、当て物一回の三百円で手に入れるなんて。それに今当てられたら詐欺とか言ってた俺の立場が無くなるじゃないか。せめて俺の居ないときにしてくれよ。祭りに来ていきなりこれだもんな。なんか嫌んなる。

 いつまでも愚痴っていても仕方ないので屋台の続きを見て回る。

 まず俺の目についたのは、チョコバナナだった。チョコバナナは小学生の時に一度食べたきりでそれ以来は一度も食べていない。だから久しぶりに食べてみようかな。

 ということで買ってみた。チョコバナナを口に入れた瞬間、甘いチョコの味が口の中に広がり、溶けていく。

 チョコとバナナってこんなに合ったっけ?まぁ合わなかったらチョコバナナなんて物は存在しないだろうけど。

 チョコバナナの後はクレープを食べた。クレープを俺の大好物の一つで、祭りなどで屋台がでている時には欠かさず毎回食べている。生地とクリームとフルーツソースのマッチが最高に美味い。

 その後も見て回って気になったものはすぐに買って食べたが、人混みの中にいるのが疲れてきて俺は戻ることにした。時間もちょうどいいぐらいだ。

 待ち合わせ場所には既に愛美がいて、またポテトを買って食べていた。


「もう来てたんだ。それにしてもまたポテトか。相変わらず好きだな」

「いいじゃん別に。ポテトおいしいし」


 むぅ、と小さく頬を膨らませる。そんな愛らしい仕草をされたら何も言えなくなる。いや、別に咎めるつもりで言ったわけじゃないけど。

 愛美は親指と人差し指、さらには中指を使い一度に二つ、三つ摘んで一気に食べている。俺がクレープが好きなように愛美はフライドポテトが大好きだ。俺は流石にクレープは一個しか買わないが、愛美はフライドポテトを二つは買う。逆に一個しか買わないときは珍しい。多い時には四つぐらい買うときがあるぐらい愛美はポテトが好きなのだ。


「お待たせ。結構待った?」

「いや、それほどでもない。今来たばっかり。……どうだった?」

「結構堪能できた。初めて盆踊りに入ったけど、なかなか良かったぞ。二人は?」

「私も面白かったよ」


 満足そうに言う二人。武人なんか腕組みまでしている。どうやら楽しめたようだ。俺は最初のあのことを話すことにした。


「俺も…かな? でも最初に屋台を見て回っているときに当て物で小学校六年生ぐらいの子どもがVR機を当ててな。俺たちの百分の一以下の値段で手に入れたのを見て気分が下がったよ。それからは十分楽しんだけど」


 俺は自分でこの話を切り出しておきながらまた気分を下げた。ため息がつきたくなった。詐欺だと考えていた当て物を目の前で当てられたのだから。


「マジか。その小学生すごいな」


 などと考えていて少しした時、ドンという音を伴って今日のメインイベントである花火が打ち上がり始めた。


「あ、花火だ」


 隣に座っている愛美が花火を指差す。それにつられて俺と武人も漆黒の夜空を見上げた。星の輝く漆黒の夜空には大きな音を伴ってきれいな花を咲かせている。最初のオープニングはエンディングにも負けないぐらいの迫力をもった連射だ。いくつもの花が間を開けずに開花する。

 ふと一度周りを見回すといつの間にか打ち上がっている花火を見ようと沢山の人が周りに集まっていた。周りの人々が花火を見上げているように、再び俺も花火を見上げる。その僅かな間にオープニングはおわり、ゆっくりなペースになって落ち着いていた。

 その後も星形や、ハート形、眼鏡や土星など色々な形や、赤から青、黄から緑など色が変わったり、二色や三色の物もあり、カラフルに何色もある花火が打ち上げられていく。他にもネズミ花火や仕掛け花火もある。


「なぁ真人」


 花火を見ながら真人が声をかけてきた。


「ん? どうした?」

「明日は俺たちと狩らないか? またシルンの森のボス戦で悪いんだけど……」


 武人も俺の方をみて言う。


「いいよ。武人の作ったオルゴールにも興味があるから。」

「そうか……ありがと」


 二人同時に空を見上げる。花火大会はもう大詰めだ。エンディングに入っている。エンディングはオープニングのように連射がほとんどだ。オープニングと違うところは、オープニングより連射速度が速く、玉数が多いこと、そして時間が少し長いことだ。 そのエンディングも間もなく終わり、年に一度の夏祭りというイベントが幕を閉じようとしている。

 今年の祭りは早かったな。でもこれで夏休みの間はずっとFOに専念できる。よし、そっちも頑張るか。

 そして花火大会が終了したとき、一際高い歓声と拍手がおこった。俺も拍手をする。こうして今年の夏祭りが無事終了した。

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