第12話
「せい!」
「おいシュテル! 先行しすぎだ!」
いつもは冷静なシュテルが声を上げて双剣を振り回しながら一人で奥へと突っ込んでいく。それをブリッツが制止しようとするがシュテルの耳には届かない。どうやらダイネスの言っていた、シュテルは真面目キャラじゃないというのはこういうことらしい。なんかうん、もうギャップがすごい。
「『ブリザードウォール』!」
男性陣二人のやり取りに苦笑を浮かべてエリが魔法を発声する。前に出した彼女の手先から、周囲を凍てつかせる吹雪が発生し、シュテルの側面から接近するウッドホーンとシュテルの間に吹雪の壁を生じさせる。
「『フレイムメテオ』!」
次いでエリと並ぶ後衛のブリッツが唱えた炎魔法によって直径十五センチほどの炎を纏った火球が数個出現し、吹雪の壁に足止めをくらうウッドホーンを焼き尽くす。
「はぁぁああああああ!」
その間にブリッツが双剣五連撃技を使って硬直時間に入る。
「せいああああああああ!」
「はっ!」
バーテと入れ替わるようにしてエリネスとマナが飛び込んで、残った最後のウッドホーンを片手剣4連撃技を同時に放ち討伐する。
個々の能力は去ることながら、全員でバーテをフォローした一切の無駄がないこのチームワークもさすがの一言だ。
すごい、これがギルドなのか。それもβからの。言葉を交わさずとも意思疎通出来るような関係が羨ましい。結局俺なんかほぼ何も出来ずに見ているだけだった。
「もう四連、五連のSSまでいってるのか……」
「そうだよ。私のが『デリカクラッシュ』、シュテルくんのが『テクノストライク』。それぞれ三段階目のSSだね」
俺の独り言を聞いたマナが簡単に説明してくれた。
「俺なんかまだ二個目を取得したばっかりなのに」
「あー、しょうがない事だからあんまり悲観しないで」
「しょうがない?」
「うん。私たちは、というか、普通はそうなんだけど、ギルド、パーティーだと前衛と後衛に別れて戦うからね。前衛はSS、後衛は魔法中心に特化するんだ。前にも言ったけど、一応サブで剣と魔法の両方を使えるようにはするけど、お兄ちゃんみたいにバランスよくは育てないからね。だから必然的に差ができるんだよ」
あぁー、確かにそうだな。剣と魔法を両立させた方が楽しそうだし、やってみたかったからこの方針にしたけど、普通に考えればどっちかに特化した人に劣る。両立して最前線に出ようと思えば、最前線に出ているプレイヤーの倍はスキル上げに勤しまなけらばならない。さすがにそれは厳しい。
「まぁだからお兄ちゃんはお兄ちゃんのペースでいいと思うよ」
それからしばらくサイクロンのパーティーに入れてもらって狩っていた。その間に俺はこのギルドに、メンバーに馴染んでいった。俺は後衛に入って水魔法による後方支援を行った。だが、俺か入りこむ隙間のない程にサイクロンの連携は完璧で、俺は自分の攻撃タイミングを見つけるのに必死だった。
少しするとエリネスから前衛もやってみるか? と誘われた。もちろん俺は断る理由なんかは無いので、その誘いを受ける。
前衛に入るために防具を装備する。防具を装備することによる重さは感じないようになっているが、装備の質によって多少はAGIに補正がかかって動きが遅くなる。普段は装備一式つけたまま行動するが、今回はパーティで後衛を担当していたため身軽さを優先して初期装備の状態にしていたのだ。
「あ、ウォーターベアーの防具だ!」
俺の装備を見てマナが叫ぶ。
「いつ倒したの?」
「あぁ、今日の午前中にソロでな」
「そうなんだ~。それにしても私の知ってる防具とちょっと違うんたけど……」
「あー、それは多分これがプレイヤーメイドだからだろ」
「なるほどね。じゃあ納得。けど、なんかあれだね。お兄ちゃん髪が赤だからちょっと似合わないかも」
笑いを堪えようとしているが、ニヤつきが隠しきれてない。余計に傷つく。
「うるさい。ほっとけ」
防具を装備した俺は次に武器を装備する。
「お? その武器は?」
今度はエネリスが漆黒の剣を見て目を丸くした。
「ど、どうしたって言われましても、プレイヤーメイドの物ですけど……」
「プレイヤーメイドでもそんな剣は見たことが無いですね。すごくいい剣だと思います」
そこまでなのか? フェールもそこまで黒く輝く剣は珍しいとは言っていたけど……サイクロンのメンバーでさえ全員見たことが無いなんて……どうやらこの剣は俺やフェールが思っている以上にレアな物らしい。
「じゃあお兄ちゃんに期待してもよさそうだね?」
「やめてくれよ。このギルドを見てたら俺なんかまだまだだから」
そんなこんなで、前衛にも入って狩った。サイクロンのメンバーとは仲良くなり、狩るのが楽しかった。それに思ったよりLvの上がりが良く、順調だったので、ボス戦もやろうということになった。とは言え、ボスは探さないといけないが……その前に今は休憩に入っていた。
「大分狩ったね~疲れた~」
疲れた~と大声で言いながら全く疲れたような表情をしていないソアラ。全く元気そうだ。
そんな俺の表情を読み取ってエネリスが近付いてきて言った。
「ソアラはこういう子なんです。疲れたと言っていても本当に疲れているのかは見てて分かりません。βの時から一緒にやってますけど、ソアラの本心が良く分からないことが多々ありますし。でも、みんなの雰囲気が悪いときにソアラがあんな調子だとみんなも明るくなるから救われてるんですよ? それにちゃんとサブマスとしての仕事もこなしてくれるし。とにかくソアラにはみんなを元気にする。本人は意識してないでしょうが、ソアラはそういう子なんです」
「でもなんかいいですね。にぎやかで、楽しそうで。というか実際一緒に狩ってて楽しいですし」
「そうですね。私もそれがこのギルドの良い所だと思いますよ」
エネリスは笑って言う。
本当にそうなんだろう。ギルドの話をしていると自然と笑みがこぼれている。俺もまだ三時間ぐらいしか経ってないけど一緒に狩っていて本当に楽しい。それにこのギルドの、メンバーの特徴がすごく良く分かった。みんな仲良くて、楽しそうで、すごく羨ましい。戦闘のときには普段と違ってみんな強く頼もしい。
「これだとリーダーとしてもギルドをまとめやすいんじゃないですか?」
「一応、はい。でもたまにあるんですけど、このギルドは個性が強いから意見が分かれたら手のつけようが無いですよ?」
そう笑って肩をすくめる。ここで一つ疑問が浮かび上がった。
「そうなったらどうするんですか?」
「そういう時は放置するか、解散してログアウトですね。次の日にもなればいつも通りに戻ってますから」
あぁなるほど。それで愛美が機嫌悪いときがあったのか。
「案外大変なんですね」
「思われているよりは。さ、そろそろ休憩も終わりにして。ボスを探しに行きますか」
それを言ってエリネスはみんなの所に戻っていく。
「あ、はい!」
俺も慌ててついて行った。
「ボスがいた!」
そう叫んだのはエリだった。その声を聞きつけて、みんなが集まってくる。俺も勿論集まりボスを見る。どうやらボスは猪のようで、森の中でポツンと木が無い場所で寝ていて、いかにもボスの場所という感じだ。名前はファンシーボア。これが分かるということは倒せない的ではない。
「あれ、もしかして寝てる?」
「マナ、気をつけろ。相手はボスだ。βのときにこんなのはなかったから罠かもしれない」
「分かってるよダイネスくん。でも、寝息を立ててるよ?」
マナがそっと猪に接近するが、猪は起き上がる気配はない。それだけ確認するとマナがみんなのもとへ帰ってくる。
「うん、やっぱりあれ寝てる」
「よし、じゃあ今のうちにやっちゃおっか」
ソアラも乗り気に返す。
「ネストさんは後衛にいてください。状況によっては前衛に上がって来てくれても構いません」
「はい、分かりました」
どうなるか分からない状況だからより慎重にという作戦だろう。俺は大人しくその指示に従う。
猪から目を離さず警戒しながらもエネリスはボスの方に向いて叫んだ。
「よーし、みんな行きますか!」
エネリスのかけ声に合わせてみんなが飛び込む。
後衛は今まで通りで、俺、エリ、ダイネスだ。そして前衛もメンバーはいつも通りエネリス、ソアラ、バーテ、マナだがフォーメーションが違う。さっきまで一人ずつだったのが、今は二人ずつになっている。
先行するのはエネリスとマナの片手剣使い二人。
二人は相手が眠っている間に『デリカクラッシュ』を使う。『デリカクラッシュ』は素早く同じ動作で敵の一点を四度突くという技で、その突きの速さは俺からは残像でしか捉えられない。
思いのほかダメージは与えられず、睡眠を邪魔された猪は飛び起きた。そして鼻息を荒くしてお怒りの様子を露わにするとすぐさま硬直中の二人に突進し始める。
「させるか!」
そして硬直中に攻撃させないように魔法を使う。俺は『アクアスプラッシュ』を、エリは『ブリザードウォール』、そしてダイネスは『フレイムメテオ』を放つ。
サイクロンのメンバーはLvが高く一発一発の攻撃力が高い。それにシルンの森ははじまりの街から来ることが出来るために、ボスと言えどもそこまで強いとは言い難い。そのためファンシーボアのHPはまもなくイエローゾーンだ。
「ナイスフォロー!」
硬直中のマナが俺ら後衛を労い、その間にソアラとバーテが猪の正面からそれぞれSSを繰り出して、HPをイエローゾーンに突入させる。その時猪が吠えた。
ヴオオオォォォォォォ!
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