第11話

 結構高いんだろうな……

 そんなことを考えながら両手剣を見る。

 両手剣と言えども種類は多い。大剣のように大きくて重そうなパワー重視の物。片手剣のように軽そうでスピード重視の物。初心者でも使いやすいように使いやすさを極めた物などの色んな種類が存在する。


「持ってみてもいいか?」

「うん」


 俺は気になった剣を幾つか持ってみた。今、俺が求めているのは攻撃力が高い上に少し軽めの物だ。魔法と剣の両方を上げる俺にとって、STR値はそこまで重点的に上げることが出来ない。そのため攻撃力がある上に軽めの剣が欲しいのだ。しかし、欲張りすぎたか、気に入った物は無かった。攻撃力を重視した剣はやはり重く、先に言った通り、STR値がギリギリで持つことは出来ても、振ることは出来ない。だからといってスピードを重視した剣はやはり攻撃力はそこまで高くない。

 やっぱり無いのかな……

 そう思いつつ、ダメもとで最後の希望にかける。


「フェルのオススメの両手剣ってあるか?自慢の一品みたいな」

「えー、んーと……あ! あれがある!」


 おっと、ラッキー。どうやらまだ店頭に並んでないものがあったらしい。

 フェルは手を打つと、カウンターに戻ってごそごそと探し始めた。

 やがて彼女が自慢げに取り出した剣は刀身約80cmで横幅約10cmぐらいの大きさだ。その剣は吸い込まれそうなほど綺麗に漆黒に輝いていて、見るからに重そうだ。この黒剣の光り具合は柄から切先まで光が反射するほどだ。見るからに切れ味抜群で良さそうな剣。後は持ってみて俺の好みに合うかどうか。そう考えたちょうどその時フェルに声を掛けられた。


「持ってみて」


 フェルから渡されたその剣を持ってみると、驚けばことに重くはなかった。それどころか片手でも持てるような軽さだった。

 よく考えてみるとフェルでも普通に持ててたんだ。だから思いはずが無い。そんな事にも気付かなかったのか俺は。

 この剣は持っていて全く違和感が無かった。まさに俺が求めていた剣だった。


「その剣の名前は『シュヴァルツステル』。黒い月っていう意味だよ」


 シュヴァルツステルか。この剣の見た目と同じぐらいかっこいい名前だ。刀身の光の反射具合が確かにそう例えられるだけはあると思う。


「よし、このシュヴァルツステルにする」

「うん、わかった。気に入ってくれて嬉しいよ。その剣は造ってて偶然出来た剣なんだ。見てみると、攻撃力が結構高いし、あたしでも普通に持てるぐらい軽かった。それに黒い剣はあっても、ここまで輝いてる物はかなり珍しいからね。それに、攻撃力が高いとなるとなおさらね」

「へぇ~、つまりこの剣は高性能で珍しい、そして偶然できたレア度の高い武器ということか?」

「うん、そしてあたしの自信作」


 フェルは自慢げに笑って言った。


「でもどうしてこんないいものを店に出してなかったんだ?」

「うーん、商品にしちゃっても良かったんだけど、なんか手放したくなかったんだよね……あはは、こんなんじゃ鍛冶師失格だね」

「そんなこととないよ。俺だってフェルの気持ち、分かる気がするから。けどさ、それを俺に譲ってくれてもいいの?」

「うん。ネスト君ならこの子を丁寧に使ってくれる気がするから。それにさ、ネスト君とこの子がどんなふうに成長するのか見てみたくなったんだよね。でも次からはちゃんとお金もらうからね。修理や整備も含めて」


 しっかりしてるなぁ。さすが店の経営者だ。

 俺はそんな事を考えながら返事した。


「分かったよ」


 買い物(と言ってもお金は払ってないが)を終えると店を出た。


「ありがとうごさいましたー!」


 フェルの元気がいい声を背にして扉を閉める。そしてチャットを確認してみるとメッセージが来ていた。そのチャットの送り主はマナだった。


『これからシルンの森で私たちのギルドのメンバーと一緒に狩らない?』


 その誘いに『YES、どこで待ち合わせ?』と返しておいて返事を待った。その間に俺は剣を振ることにした。

 剣の慣らしのために剣を振ろうとした俺だったが、剣を取り出した時にマナから返信が来た。

 早いな……

 マナから返ってきた内容は『はじまりの街の北西のゲートで待ってる』というものだった。

 そういうことらしいので急いではじまりの街へ転移し、そこから北西のゲート目指して走った。

 ゲートに着いた時にはもう既にマナと、その他に女性が3人、男性が2人いた。恐らくギルドのメンバーだろう。


「おーい、こっちこっちー」


 黒髪セミロングの少女が大声で手を振りながら呼んでいる。妹のこの世界の姿であるマナと会うのはこれが初めてだが、現実と変わらないその容姿のおかげですぐにわかった。

 マナの後ろには他のメンバーが話していたがマナが大声で呼んだことによって「待ってました」と言わんばかりにこっちを向いた。


「お待たせ」

「意外と早かったね」

「あぁ、まぁな。で、この人たちはギルメンか?」

「うん」


 するとこの会話を聞いていた、一番真ん中にいた女性が前に出た。その女性はなんとも大人っぽい美人だった。色気とか、艶やかさとか、そういった事ではなく、落ち着きのあって穏やかな顔つきで品がある。しかも細身で背も少し高めの抜群のスタイルの持ち主。

 そんな女性が俺に頭を下げると、腰まで伸びた艶のある水色の髪がふわりと舞った。


「初めまして。私はこのギルド『サイクロン』のマスターのエネリスです。あなたのことはマナから聞いています」

「こ、こちらこそ初めまして! マナのリアル兄のネストです」


 こんな美人の女性に頭を下げられ、少し緊張しつつ俺は慌てて挨拶を返した。

 それにしてもマナから聞いているって……マナはこの人に何を言ったんだろう。なんか怖いな。でも感じの良さそうな人ではある。穏やかそうで。


「そしてこっちがサブマスのソアラ。ソアラは常に元気で話すことが好きだから気軽に話しかけてあげてほしい」

「はーい、よろしくですー」


 朱色のショートヘアーの少女が微笑みながら軽く手を振ってみせた。エリネスの紹介通り快活そうな少女で、そんな雰囲気も出ている。


「僕はメティスです。よろしくお願いします」


 次に挨拶してくれたのは紫色の髪の真面目そうな少年。リアルではメガネでもしてるのか、なんて想像してしまう。


「おまえ、そんなキャラじゃねえだろ?」

「う、うるさい! 別に僕がどんなキャラだっていいだろ?」

「言っとくけどこいつ、見た目ガリ勉キャラだけど全然そんなことないからな? あ、俺はブリッツな。多分俺の髪は目立つからどこでも見つけられると思うぜ。よろしくな」


 ブリッツが自身で言うように、ゲームでも珍しい黄色の髪だ。リアルでよく見る金髪よりも黄色感がより強い。けれど体育会系でお調子者っぽい彼には黄色も違和感がない。

 あとそれから、俺のメティスへの第一印象はこうしてすぐに否定されました。はい。


「じゃあ最後に、わたしはエリです。得意なのは氷魔法で、基本的には後方支援型です」

 

 栗色の髪のショートカットの側面に白色のヘアピンを付けた小柄な体格の少女。だがエリネスまでは行かずとも落ち着きがあり、しっかりもののお姉さんのような印象を受けた。エリは俺やマナより少し年上ぐらいだろうか。

 どうやらサイクロンの平均年齢はすごく低いようだ。俺のみた感じで未確定なのだが、このギルドで一番歳上なのがエリネスで、成人しているのは多分この彼女だけだ。他のメンツは多少バラツキはあるだろうが、俺やマナと同じぐらいの年頃だ、と、思う。


「いつもマナがお世話になってます」

「いやいや、そんな事は無いですよ。マナにはいつも助けられています」


 本当か? そうマナにに疑惑の目を向ける。その視線に気付いたマナが、うんうんというように首を大きく縦に振っている。

 そういうことを自分で認めるんじゃない。


「さぁ、話はそれぐらいにしておいてそろそろ行きましょうか」


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