第10話

 初めて来る場所に少々興奮気味で辺りを見てみると、どこにいたのか、いきなりMobが遠くから襲いかかってきた。

 あれは木のMobか。この場所じゃそこら辺にいるだろうな。そしてどうやら『ウッドホーン』という名前らしい。

 ウッドホーンは、良く他のゲームでは『トレント』として出てきそうな感じだ。顔は木の葉の部分で、幹が胴体、根が脚で4本ある。こういうMobの攻撃手段は大抵が根を鞭のように使って来るのだ。

 俺のそんな予想は見事に的中し、根で攻撃をしてきた。それぐらいの攻撃は予測出来ていたので『ステップ』を使って避ける。そこまでは良かったのだが、もう一つヤツの攻撃のことを忘れていた。ウッドホーンの根は4本ある。そして2本は脚として身体を支えているので使えない。1本は今避けた。なら後の1本は? …………空いている。つまり攻撃出来るのだ。だが、気付いたときには遅かった。当然の事ながら避けることは出来ず、直撃を受けてしまった。

「ぐっ……」

 そのまま空中で根に押されて飛んでいく。しかしすぐに気持ちを切り替えて、ウッドホーンが上に投げようとしたときに、その根にしがみついて投げられるのを防ぐ。投げの動作が終わると自ら根を離して、高さ2.5mぐらいの所から地面に落ちる。

 根から離れたのは良かったのだが、着地時の体勢をミスって背中からいってしまった。だから「降りる」じゃなくて「落ちる」なのだが……そのおかげで高所落下によるダメージを受けてしまう。

 戦闘中で長々と休んでいる暇などないために、すぐに起き上がって戦闘態勢を取り直し、もう一度突っ込む。そして少し間を詰めた時にまたしても攻撃が来た。

 今度は2発目の攻撃に対応出来るように、最初の根の攻撃は根を斬って防ぐ。これで部位損傷ペナルティーが課して直るまでの5分間は攻撃の命中率が下がる。すぐさま2発目に備えたが、しばらくしても攻撃は来なかった。そのことに少しほっとして、残りの距離をさっと詰める。

 接近した俺は『ダブルスラッシュ』を発動させる。

 1度目の攻撃の斬り下ろしが決まり、2度目の斬り上げを浴びせようとした時に、またもや根で攻撃をしてきた。今回はほぼ零距離だったために部位損傷ペナルティーによる命中率の低下は全くの無意味で、動く暇さえ与えてもらえず、2度目の直撃をうけて、今度こそ投げ飛ばされ、高所落下ダメージをもらった。

 危ない、結構ダメージくらってしまった……

 HPがかなり減っているであろうことを予想し、ポーションの準備をしながら残りHPを確認する。たが、それを見た瞬間に今まで必死になって戦っていた自分がばかばかしくなり、戦意喪失した。

 直撃を二度も受けた上に、高所落下によるダメージも受けて、装備は初期装備だったにも関わらず、まだHPはイエローゾーンに入っていない。それに、『ダブルスラッシュ』の1発目の攻撃──つまりスラッシュ──と一本の根を斬っただけでもうウッドホーンの体力はレッドゾーン間際だ。多分、いやこうなれば絶対に俺より少なくとも3Lvは低いのだろう。

 俺はやる気の無い声で「『ウォーターミサイル』」と呟いて、最後トドメを刺した。

 すると脳内に

『魔法、アクアスプラッシュが使えるようになりました。』

という声が響き渡り、目の前に表示と『アクアスプラッシュ』の説明が浮かび上がる。俺はその説明を読んだ。




水属性魔法

発生させた水を自分の狙った相手に向かって物凄い勢いでぶつける。




 読んでみるだけじゃよく分からないな。この世界じゃ習うより慣れろだ。そういうことだから試してみるか。

 俺は身近にあった木を標的にして『アクアスプラッシュ』を放ってみた。

 俺の前から水が発生し、次第に大きくなっていく。その水の量はバケツ2杯分ぐらうだろうか。ここまでは一瞬で行われる。

 そのバケツ2杯分位の水は狙った木を目掛けて飛んでいった。そして、それは木に当たる直前、破壊不能オブジェクトの壁のような物に阻まれて消えていった。

 ゲームの中のオブジェクトはほとんどが破壊不能だ。中には破壊が可能な物もある。(木の一部、草など)それを含めて壊れるのは後装備などのアイテムのみになる。その破壊不能オブジェクトに攻撃をすると、今みたいに壁のような、バリアのようなものに阻まれる。

 このシステムはもう一つ、使われていることがある。

 FOではプレイヤー同士の殺し合い、いわゆるPK(プレイヤーキル)が出来ないように設定されているため、プレイヤーにプレイヤーの攻撃が当たった場合、このようなバリアのようなもので防がれる。

 ──話が逸れてしまったな……

 まぁとにかくこの『アクアスプラッシュ』結構良かった。『ウォーターミサイル』より威力が上がっていて射程距離も伸びている。

 それから『アクアスプラッシュ』を試した俺は、大体1時間位──主にウッドホーンを──狩った。それで分かったことが『アクアスプラッシュ』の射程距離だ。約10メートルだった『ウォーターミサイル』に対して、『アクアスプラッシュ』は15メートルほどに伸びた。必要とするMP量は増えたが、射程も威力も伸びてかなり使いやすい。それと、魔法を使うならMPポーションはないとなにかと不便だ。魔法を使用するとMPも消費するが、最初のうちはMP上限が低く連続で魔法を使用しているとすぐにMPが枯れてしまう。HPと違い、時間が経てば自然回復してくれるが、10分で1回復と時間がかかりすぎる。これじゃあまともに魔法戦はできない。ってことで後で買おう。

 と、そろそろ時間も時間なのでここで昼食をとるために一旦落ちた。



 昼から入った俺は、まず道具屋に行ってMPポーションとポーションを購入。少し減った懐を癒すためにさっきシルンの森でウッドホーンからドロップした『木の枝』と『枯れ葉』を売ったのだが、これが一つ1フィルとなんともしょっぱい値段だ。まぁ、普通の木の枝と枯れ葉に値段が付くだけましとするか。

 現在の所持金は11210フィル。防具代にいくらかかるかなと不安になりつつ『フェールショップ』に向かった。

 店のドアを開けると「いらっしゃいませー」という元気な声が聞こえてくる。


「あ、ネスト君防具できてるよ」

「お、ありがとう」


 俺はカウンターの方に歩いて行ってフェルがカウンターに出した防具を見た。

 どれも同じ種類の素材から作ったからだろうが、いくつか置かれている防具は同じ柄をしていた。レザーのような質感で、色は水色。ウォーターベアーの特徴的な爪をイメージしてか、白いラインと柄がところどころに入っていた。だがぱっと見ダサさはなく無難なデザインだ。ただ、防具としてドロップした二つの防具とはわずかにデザインが異なる。やはり素材から作成した場合は違ってくるのだろうか。

 フェルの作ってくれた防具に実際に触れてみると、鉄のように滑らかな手触りで、思ったよりも分厚くしっかりとした防具だ。


「へぇ~結構良いじゃん」


 俺が出来た防具を見て褒めると、フェルは少し照れながら答えた。


「そお? ありがと。でも何でか頭と手だけは造れなかったんだ」


 なんだって? 頭と手ができなかったって?…………でも確か頭と手はドロップしてたよな。


「頭と手ってもうドロップしてるけど何か関係ある?」

「うーん、どうだろ、分からないや。あたしβテスターじゃないから。でももしかしたらそのせいじゃないかな?」


 もしそれがホントだったらこれは同じ装備が二個持てないということだろうか。それは後でタケかマナにでも聞いておくか。


「で、これでいくらだ?」

「1万フィル」


 お、所持金ギリギリだ。あぶねぇ。


「なんだけど、今日はタダでいいや。実はネスト君がこの店の最初のお客さんなんだ。だからタダでいい」

「──え、なんだって?」


 1万フィルもの大金がタダ? もしかして何かの聞き間違いではないだろうか。


「だから、ネスト君が私にとって初めてのお客さんだからお代はタダでいいよ

「でも1万なんて大金をタダにしてもらうなんてなんか悪いし……」

「客はそんなこと気にしなくていいの! 店主の私がいいって言ってるんだからいいの」


 ここまで言われると逆に断るの申し訳なくなってくる。ここはありがたくタダにしてもらおう。


「ありがとうなフェル」


 俺は運が良い。人の好意に対してこんな考え方をするのはあまり良くないと思うが。……でもよく考えてみたらまだ始まって2日目だからβテスターで無い限りそれは充分有り得る。


「いいって。そうだ、武器はどうするの?」

「えっ……でも……」

「お金のことは客の心配する事じゃない。今日はタダって言ったでしょ」

「そんな事言ったって赤字なんじゃあ……」

「いいから、いいから。どうせこれはゲームなんだし、そんなの気にしないの」


 そう言い、フェルは俺の背中を押して武器の前まで来た。そこには片手剣や両手剣、大剣や太刀などといった剣の全種類が置いてある。どれも立派な剣だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る