第5話

 そして俺は身軽の効果で補正のかかっているジャンプを使って一気ににランニングバードの前に来てからの両手剣単発技『スラッシュ』を発動させ、ランニングバードを右上から左下に斬り下ろす。

 最初の『ウォーターミサイル』で五分の一『スラッシュ』でイエローゾーンまで追い込んだ。

 俺はスキル発動後の硬直時間に入る。

その間にランニングバードは不意打ちをくらった怒りで反撃をしてきた。反撃といってもくちばしでつついたり、羽で叩いたりだが……それでもダメージはそこそこ受ける。

 硬直時間が終わり、とどめを刺すべくもう一度スラッシュを発動させた。しかし今度はヒョイと横に跳んで避けられた 。……マジか。

 しかし、ランニングバードのHPバーを見ると掠っていたらしくHPがレッドゾーンになっていた。

 ここで再び硬直する。この間にまた反撃が来ると思ったんだが……ランニングバードは予想外の行動を取った。

 体力がレッドゾーンに入った途端に勝てないと判断したのかこちらに背中を向けて逃げ出した。

 えっ……

 背中を向けて逃げる敵を見て少し驚いたが直ぐに我に返るとこちらに背中を向けて逃げるランニングバードに向かって叫ぶ。


「ま、待て!」


 叫んだところで意味がないは言わないでほしい。

 ようやく二度目の短いようで長い硬直時間が終わり、ランニングバードを追いかける。

 不幸中の幸いとも言える事は、ランニングバードは鳥と言えども飛べないことだ。名前の通り走ることしか出来ない。そのため、どこかに飛んで逃げられるということが無いのだ。それにはじまりの草原には木が数本有るだけで他に障害物になる物が無い。俺の他にもランニングバードと鬼ごっこをしている人はいる。

 身軽のおかげでAGIが上がっている俺は徐々にランニングバードとの距離を縮めていった。

 やがてウォーターミサイルの有効射程距離に入ると早速ウォーターミサイルを放つ。


「『ウォーターミサイル』!」


 前に出した俺の手の先から放たれたミサイルは逃げる敵を目掛けて吸い寄せられるように一直線に飛んでいく。

 そしてミサイルはランニングバードの背中に命中し、残っていたHPを吹き飛ばした。

 ランニングバードは鳴き声と共に青いオブジェクトの破片が飛び散った。

 同時にレベルアップを祝うファンファーレな鳴り響き、眼前に『レベルが5に上がりました』というメッセージが表示される。


「レベリングは順調っと。戦闘にもだいぶ慣れてきたし楽しくなってきた。それにしても魔法って結構便利だな。遠距離攻撃が出来るからさっきのように逃げられた時に対応できて、逃げられる確率が低くなるし」


 ランニングバードにとどめを刺した魔法の手ごたえを噛み締め、余韻に浸りながら上空に舞ったオブジェクト片の最期の一欠片を見届けた。

 そこでふと思い出した俺はドロップしたアイテムを確認した。


「走鳥の肉」「走鳥の羽根」


 ランニングバードって「走鳥」と表すのか。そのままだな。

 ところでFOって殆どのMobから肉が出るのか? 今のところ肉が出ない方が珍しい気もするんだが。それに肉なんか料理をする人以外意味無いし、それ以外のアイテムは生産職しか意味が無い。ボスMobぐらいのドロップアイテムなら防具や武器にしてもらうことも出来るけど……まぁお金になるからいいけど。

 次はどこだ? ……あ、いた。

 俺はもう一体ランニングバードを倒して次を探していると遠くから青い熊がこちらに近づいて来ている。

 ウォーターミサイルを放ちたいがこんな初期魔法じゃ十メートルぐらいしか届かない。仕方ない、隠れて近づいて来るのを待つか。

 近くにあった木の陰に入り、あの熊が近づいて来るを待った。

 隠れている間に少し顔を出して、とりあえずあの熊の名前を確認するか。


「???か。てことは俺より3Lv以上高いってことだな。上等だ。やってやろう」


 そしてウォーターミサイルの射程範囲に入った瞬間、ウォーターミサイルを使った。しかし、予想のしなかった事が起こった。

 なんとミサイルが熊に吸収されたのだ。

 えっ? ……ウソだろ!?

 何が起こったのか分からず呆然としていると、熊がウォーターミサイルを返してきた。俺のミサイルを吸収したせいだろう。ミサイルが大きかった。

 ミサイルが間近まで接近したときにようやく現状を思い出した。そして咄嗟に直撃を避けるためにステップで左に避けた。それでも直撃まではいかなかったけど右腕に少々まともにくらってしまった。だがその直前、光のバリアが現れ、俺へのダメージは軽減された。

 FOでは痛みを感じ無いためダメージを受けた右腕に少々不快感が残る。まぁ他のVRMMOでは痛みもリアルに感じるゲームも有るらしいが……

 俺のウォーターミサイルを吸収されていたせいで威力が高くなっていたとしても、光防が有ったにも関わらず一撃でHPの三分の二も削られた。

 INT高すぎだろあの熊は。

 魔法はダメだと分かったから今度は接近戦に持ち込む。そして少し斬りつけておいて大丈夫だろうと判断した俺はスイングスキル『スラッシュ』を発動させようとした。しかし、それより先に熊の方が動いた。

 熊は俺が攻撃体勢に入ったと判断すると、長くて鋭利な爪を立てて腕を振り下ろしてきた。

 これは避けられる。そう思い左にステップしたが……甘かった。熊は俺から見て右から左に回りながら技を繰り出していた。

 しまった……そう思った時には既に遅かった。



 気が付いたらそこは中央広場だった。

 あーあ、負けた。アイツやっぱり強かったな。それに魔法が吸収されたし。お陰でデスペナが……ん? デスペナ? そうだ! ……やっぱりか~。

 デスペナとはデスペナルティの略で、倒された時に発生するペナルティだFOのデスペナは自分のLvのMAX経験値の半分を減らすのだ。

 分かり難いと思うのでここで例を挙げておく。Lvが五で経験値が80/100だとする。このLvのMAX経験値は100、その半分が減るので50経験値が減るということだ。このデスペナでは場合によってはLvが下がるということも十分有り得るのだ。現に俺はLv.5に上がったばかりで経験値が15/100しかなかった。デスペナで減る経験値は50のため、またLv.4に逆戻りしてしまった。

 まぁでもLvが低い間で良かった。高かったら経験値を取り戻すのに時間がかかるからな。でもこの仕様だとLvが上がった後は慎重に行動する必要がありそうだ。

よし、やっと慣れてきたところだし、このまま今から減った分の経験値を取り戻しに行きますか。

 俺は減った分の経験値稼ぎとフィル集めのために始まりの草原へと舞い戻った。今度は確実に倒せる敵だけを選んで……

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