第6話

 夜になり、さすがに疲労感を覚えた俺は、はじまりの街へ帰ってきた。夜になったから視界が完全になくなるということにはならないよう設定されているが、それでも視界は悪くなりMobも見つけにくくなる。他のプレイヤーを見ていると、どうやら光魔法で明かりを灯すと問題ないらしいが俺には手持ちがない。買っておこう。

 対照的にはじまりの街は明るく、街灯や店の光が街を照らしていて、行きかう人も多い。どこか祭りのような雰囲気の漂う中、俺は道具屋に行った。そこで俺が売ったのは、


「亜人の肉」2「犬の毛皮」6「猫の毛皮」7「走鳥の羽根」5「走鳥の肉」6


 そして返ってきたのが2105フィルだった。今の俺には結構な高値だ。

 いい値段で売れことに浮かれていた俺は眠気を感じ、ウィンドウを開いて時間を見た。


「十二時か。もう寝るか」


 時間を確認すると眠気が一層強くなり大きく欠伸をした。

 FOは空腹だけじゃなく眠気まで現実の体の感覚が伝わってくるのか。それに五感も現実通りだし。リアル過ぎないかこのゲームは。

 などと考えていたがやはり眠気に勝てずログアウトする事にした。

 こうして俺の長く楽しい一日が終わった。


name:NEST

Lv6(130/200)

HP:239/239

MP:32/32

装備

武器:初心者の両手剣

防具:頭 布のバンダナ

  体上 布の服

  体下 布のズボン

   腕 無し

   足 無し

STR:10

VIT:6

INT:9

MND:3

AGI:10

スキル

「魔法」SLv3「魔法技術」SLv3「両手剣」SLv2「両手剣技術」SLv2「ジャンプ」SLv4「ステップ」SLv4「回避」SLv3「水魔法」SLv3「身軽」SLv4「光防」SLv1



  ☆  ★  ☆  



 翌朝、俺は七時半にセットしていたアラームが鳴り響き目を覚ました。

 一度大きく伸びをして体を起こした。すぐに服を着替えて一階に下りる。洗面所に直行して顔を洗い目を覚まさせる。

「酷い顔してるな……」

 頭には寝癖が付き放題で、まだ半開きの目。鏡に映る自分の眠そうな顔は自分でも少々引いてしまう。

 よし!

 両手で自分の頬を叩いて気持ちを切り替え、朝食を取りに向かう。

 扉を開けると、先に起きていた愛美がイスに座りトーストを食べていた。


「あ、おはよーお兄ちゃん」

「うん、おはよう愛美」


 愛美はすでに長い黒髪を整えていて身だしなみとしては問題ないのだが、まだパジャマを着ていた。


「早くから起きてるなら着替えたらどうだ?」

「えー、いいじゃん別にー。どうせ今日は休みなんだし、ずっとFOするだけなんだし」

「それでも着替えぐらいしとけよ」

「うー、わかったよぅ」


 口をとがらせる妹の将来が不安になりながら俺は食卓に出ているパンをトースターに入れて椅子に座る。

 俺の家では夕食の時間は決まっているが、朝と昼は決まっていない。いや、でも昼はもちろんみんなで揃ってには食べるが忙しかったりするので時間は決まっていない。朝は起きる時間がバラバラなので、起きてきた人から食べていく感じだ。

 しばらくしてパンが焼け上がり、パンを取って食べ始める。


「あ、そういえば、お兄ちゃんは今日の祭りに行くの?」

「あぁ。もう武人と約束しちゃったからな」


 そうなのだ。今年はFOが発売されたからずっとやっておこうと思ったんたが、部活をやっていない俺達にとって毎年ある今日の夏祭りは唯一の楽しみなイベントなのだ。そのため武人に「ゲームは夜じゃなくても出来る。でも祭りは夜しか無い!」などと有無を言わせぬ勢いで言われ断る事が出来ず行く事になったのだ。でも考えて見ればそれもそうだなと思う。

 祭りは家の近くであり、通り一帯に屋台が出て花火も上がる。地元の祭りとはいえ、それなりに大きい祭りだ。例年武人とは一緒に行っていて、今日も午後六時に待ち合わせをしている。


「そっかぁ、武人くんと行くんだ。私も行ってみよっかな~」


 俺達と武人は小学校から一緒で仲がいい。小学校を卒業してからは三人で何度も会ったり、武人と愛美はゲーム繋がりでよく会ったりしているのだ。因みに家も自転車で五~十分と近い。


「じゃ、私は先に入ってるね~」


 先に朝食を終えた愛美がすたすたと歩いて二階の自室に帰っていく。それを見て俺もすぐにトーストをたいらげて部屋に戻った。

 枕元に置いている小型HMDを被り、決まり文句を呟く。


「ゲームスタート」


   ☆   ★   ☆


 今日の最初の目標は昨日歯が立たなかったあの青い熊。俺は青い熊を倒すために、はじまりの草原に向かうべく、はじまりの街を走っていた。

 すると遠くの方から良く知った声が聞こえた。


「おーい、ネストー!」


 慌ててブレーキをかけて立ち止まり、俺を呼んだ声のした方を振り向く。


「何だよタケかよ」

「かよってなんだよ、かよって。俺は今から知り合いに防具を作ってもらいに行くんだけど…お前は?」

「今からフィル稼ぎと青い熊を倒しに」

「青い熊? はじまりの草原の?」

「あぁ」

「お前始めたばっかでいきなりはじまりの草原のボスに挑むなんて無茶するよな」

「な、アイツが……ボス!?」


 衝撃のあまり叫んでしまった。周囲から視線を感じて恥ずかしくなるが、気づかぬふりでやり過ごす。

 FOでは、狩場一カ所につき一体のボスがいる。(中にはボスが居ない所もある)そのボスを倒すことで次の街に行けるようになるのだ。

 ボスからは稀に超貴重なアイテム、強いアイテムなどのレアアイテムがドロップする可能性がある。素材アイテムは、プレイヤーの開く武具屋に持って行けば装備品を作ってもらえる。


「お前、まさか何も知らずに挑むつもりだったのか?」

「ま、まぁな……」

「事前に何か調べたりとかもしてないのか?」

「タケも俺が説明書を読んだり調べたりしないのは分かってるだろ? 俺が調べたのは街の名前ぐらいだよ」


 タケは大きくため息をついて、呆れた目で俺を見てくる。


「はいはい、そうだったな。じゃあ一応ヒントだけやるから適当に頑張ってこい」

「あ、はい……」

「まず、ウォーターベアーに水魔法は効かないからな」

「うっ……」

「水魔法をだすと吸収されてその倍の威力でオウム返しされる。だからあいつに水魔法を使うのは愚の骨頂だな」


 それを早く知ってたらな。てかあの熊ウォーターベアーっていうのか。


「後は、クローって呼ばれてる爪攻撃もだな。威力が高くて少し掠めただけでもダメージを受ける……って、どうしたネスト? なんか元気ないぞ?」

「……昨日その二つでやられました」


 再度タケが大きくため息をついて、憐れむような視線に変わっている。


「もうすでに挑んでたとは……それはもうドンマイとしか言えんわ」


 何がドンマイだ。タケはβテスターで戦術的かもしれないが俺は気分で行動するんだよ。


「大体レベルの高いヤツを倒そうとするのが悪いんだよ。お前のレベルは知らんけどどうせ???なのに挑んだんだろ」


 まぁ確かにそうだけど…何でそれが分かるんだ?


「な、何故それを?」

「はぁ~やっぱりか。何年お前と付き合ってると思うんだよ」


 バレちゃってたか。まぁ確かに俺が悪いけどさ、倒したくなるだろ普通。


「デスペナが痛いからあんまり無茶はしない方がいいぞ? とだけ忠告しとくが、どうせ聞かないんだろ? ならせいぜいがんばれよ」


 すごくバカにするような言葉を残して去っていく武人の後ろ姿に、それで俺は火が付いた。


「絶対あいつを倒してやる。まってろよウォーターベアー」


 アイツを倒したら次の街に行ける。気をつけることは水魔法が効かないことと、クロー。あ、後は俺が初期装備な事……

 もし倒せなかったら大人しく装備を整えようかな……



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