第4話
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(流石に今日は眠たいな。)
結局眠れずに朝を迎えてしまった瑠衣はレポートを持って職場へ向かった。
到着するともう既に出勤をして掃除をする風の姿が見えた。
「お、おはようございます‥。」
「おはようございます。早いですね!」
「そ、そうですか‥?」
「大丈夫?ちゃんと昨日は眠れた?」
.
「は、はい!!!」
「うん、うん!元気だね〜!」
(良かった。いつも通りだ。)
瑠衣は安心して胸を撫で下ろす。
「レポートは順調ですか?」
「何とか書き終えたのですが‥店長のOKサインが出るかは微妙な所です。」
「御武運を願います。」
「頑張ります!」
「栗花落さん!」
「何でしょうか?」
風がハラリと振り返って瑠衣の方へ顔を向ける。
「あっ、えぇっと‥!何でもない!です。忘れちゃいました!」
(やっぱり、聞けないよね‥。)
「じゃあ、また思い出した時に話してください。」
「思い出した時に聞いてください!」
「いつでも待ってます。」
「じゃあ、僕は向こうの小鳥達の体調チェックして来るので、ここの掃除はお願いしますね。」
「はい!」
風は別の仕事をする為に奥へ行ってしまった。
(やっぱり昨日のは、私の思い過ごしだったのかな?)
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「いらっしゃいませ〜。」
瑠衣がモヤモヤしながら仕事をしていると、玄関口のドアが開いて男性客が入って来た。
「小戸森さん?」
驚いた声でこちらに青年が駆け寄って来る。
「えっ?」
聞き覚えの無い声なのに、何故か懐かしく感じる。
「憶えてない?高校の時同じクラスだった‥。」
瑠衣は数秒考えてようやく思い出す。
「えぇっと!!雨優(あまゆ)君‥?!」
「正解。やっと思い出してくれた。」
「もう本当雰囲気変わってて分かんなかったよ〜!」
高校時代は大人しめの物静かな雰囲気だったが、今目の前に立っているのは黒髪の白いTシャツにベージュのテーラードジャケット、それにお洒落なデニムパンツを履いた爽やかな青年だった。
「そうかな?そう言って貰えて嬉しい。」
雨優は少し照れながら礼を言う。
「今もこっちに住んでるの?」
「いや、今は県外に出てて実家に用事があってこっちに帰って来たんだ。」
「そうなんだ〜。あっ、何か探してるものはある?案内するよ!」
「実は実家でセキセイインコ飼ってて、玩具を良さそうなのが有れば買って帰ろうと思ってるんだ。」
雨優は、頭をカリカリしながら答えた。
「そういうことならお任せあれ!」
瑠衣は右手でグッドサインを出す。
「宜しく頼むよ!」
ニカっと雨優は笑った。
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「小鳥用の玩具ってこんなにあるんだな。」
雨優は驚いた表情で辺りを見渡す。
「そうなんだよ。一口に小鳥と言っても子供と同じで個性が出るからね。」
「雨優家はどんなの飼ってるの?」
瑠衣は雨優に問いかけた。
「俺んとこで飼ってんのは白いセキセイインコだ。」
「だったら良いのがあるよ!」
「へぇ!それ見せてもらって良いか?」
「今店頭に出してるの在庫切れで奥の倉庫にあるから取って来るからちょっと待ってて!」
「おう!」
雨優はニカっと笑顔で返事した。
「お友達ですか?」
倉庫に玩具を取りに行く最中、背後から風に声を掛けられた。
「はい!友達っていうか‥高校時代の同級生です!」
「そうだったのですか。親しげなご関係の様だったので、普段の小戸森さんと違って新鮮です。」
「そ、そうですか??」
「いつもと違って相手との距離が近いって感じがします。」
「えぇー!!ちょっと恥ずかしいです。」
「じゃあまたお昼休みに。」
それだけ言ってから風はスタスタとレジの方に戻って行ってしまった。
(そんなに普段と違うかな〜‥)
そんなことをしていると倉庫に着いてしまった。
「うん!これならきっと喜ぶね!」
数分数ある玩具の段ボールからお目当ての在庫品を見つけ出して、瑠衣は微笑む。
そして雨優の待つ玩具コーナーへ戻って行った。
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「お待たせ〜。遅くなってごめんね〜。」
「お勧めのやつは見つかった?」
雨優は待機用の椅子に腰掛けて待っていた。
「うん!きっとこれなら喜ぶよ〜!」
ジャーンと言わんばかりの顔で取り出す。
「んっ、んんん!?これ?なのか!??」
「コレだよ!見たことない??」
「イマイチ使い方が分からないんだが」
瑠衣が倉庫から持って来たのは黄色と緑のミックスの小鳥モチーフの玩具だった。
「見たことあるけど‥数ある玩具の中でなんでこれなんだ?」
「小鳥はマイペースで一人好きだけど寂しがり屋なんだよ。だから傍に居てくれる飼い主が大好き。だけど、人間も忙しい。相手にする時間も無い時だってある。」
「まあ、それは一理ある。」
「そんな時に役立つのがこの子だよ。喋る上に自分そっくりで、歌まで歌ってくれる。」
「逆に怖がらないか?」
「最初はもしかしたら驚くかもしれないけれど、人間が友達を作るのと同じで徐々に仲良くなって、数ヶ月後には最高のパートナーになっているはずだよ。」
「んん……小戸森が言うなら、そうなのかも。」
「じゃあ、1匹だけ買って帰るか!折角探して来てくれた訳だし!」
「ふふっ!ありがとう!」
「どーいたしまして!」
2人はレジの方へ向かって歩いて行く。背後に視線を感じる事に気付かずに。
「高校時代の同級生か…。」
ポソリと呟きながら風がジッと見つめていた。
時を戻せる訳では無いけれど、ああも仲睦まじく話しているのを見ていると正直羨ましい。瑠衣と自分ではまだ入社したばかりと言うのもあり、距離もある。徐々に近付けたら良いとは思ってはいるが、焦りが無いわけでもないからだ。まだあの笑顔も見せてもらったことも無い。自分に見せた笑顔とは全く違う。自分にも見せて欲しい。欲が溜まっていく一方だ。
「はぁ…不器用なんだよな…。」
視線をずっと追っていても仕方が無い。
風は自分の与えられた業務に気持ちを戻す事にした。
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