第24話 田中さんのあのね

「そうだったんですか。それでびっこを引いてるんですね。」


ママは、ずっと悩んでたことが今やっとわかったかのように感心した様子で

田中さんに言った。

きっとそんなこと、考えたこともないと思うけど。


「ええ、パートは大変ですけど

スーパーで買い物してからカイの帰りを待てるし、

大丈夫ですよ。」


ママは手に持ったスーパーの袋を持ち上げて、笑顔で言った。


「実はカイも色々問題を抱えてて、

育児はそんなに楽でもないんですけど・・・


とにかく元気ならそれでいいんです。

毎日頑張って学校に行ってます・・・。」


「そうそう、元気が一番ですからね。大切なのはそれだけですよ。」

その通りだ、というようにうなずきながら田中さんはママに言うともなく言った。


「うちの孫もね。ちょうどこの坂で交通事故にあってね。


いま生きてたら何才かしら?


いっしょにいたタロウは足を怪我したんだけど生きてて、

孫はあの世に。


息子夫婦はいたたまれなくなって遠くに引っ越しちゃったんですよ。


主人もがっくりきてしまって・・・。


大病した後、先日とうとう孫のいる天国へ旅立ちました。


結局、わたしとタロウだけが残されてね・・・。」


「そうだったんですか。それはお気の毒に・・・。」


ママは申し訳なさそうに


「ではまた。失礼しますね。」


と言って坂道を早足で降り、家の前の曲がり角を曲がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る