第22話 じんじんとチョコレート

保健室のまあるい椅子にぼんやり座って足をぶらぶらさせてたら、


綾先生の電話の声が聞こえてきた。


「・・・ええ、さいわいケガは無いようです。ひざをすりむいたくらいでしょうか。

だれかにつき飛ばされたということも無いようです。

・・・はい、そうです・・・。よろしくお願いいたします。」


ママに電話したのかな?

「またパート先に電話かかってきたのよ!びっくりしたわ!!」

ってぷりぷりしてそうだなあ。ママ。


電話から戻ると、綾先生は

「元気になった?元気になったらお教室戻ろうか?」

って聞いてきた。


ひざがじんじんしてその日午後の算数の授業は最悪だった。

いつも算数の時間はサイアクだけど。


やっと午後の授業が終わった。


学童のおやつは大好きなチョコレートだったのに、

ひざのじんじんがあってあまり楽しめなかった。

じんじんとチョコのかりかりどっちが勝つかっていうと、じんじんなんだ。


帰りの時間がやっと来た。


今日は急いでおうちに帰ろう。

走って帰ればとっても早く帰れるんだ。

何分とか時間はわからないけどね。


ほくはランドセルをしょって走り出した。


ところが、家の近くの急な坂道まで来たところで、

足のじんじんを思い出した。

いっぱい足を動かしたからまた思い出しちゃったのかな。


ひざこぞうを見ると、綾先生に貼ってもらったバンドエイドから

ちょっぴり血が顔をだしてるのが見えた。


ママいるかな。

おやつのチョコレートがじんじんであんまり楽しめなかったから、

またお腹がすいちゃった。

ママまたおやつ出してくれるかな?


そんなこと考えながらいつものように坂道を走りながら下っていくと、

曲がり角の向こうにパート帰りのママがスーパーの袋を手にもって

家に向かって歩いてるのが見えた。


「ママー!」


嬉しくなって、ママに近い側の道路に走って渡ろうとした。


その時ちょうど、あのタロウを連れた田中さんが下から歩いてくるのが見えた。


「!!」


次の瞬間。長い時間か、ほんの短い時間なのか。


わからないけど、


ママの心配そうなびっくりした顔。

田中さんのめったに大きくならない目。

ワンワン!っていうタロウの吠え声。


いっぱいのものがいっぺんにぼくの頭の中に入ってきた。


次に目の前は大きなトラックでいっぱいになって、他には何も見えない。


そして、驚いて叫ぶ運転手さんの顔が見えた。

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