第21話 どうしたの?大丈夫?

「・・・。」


ぼくは何も言わなかった。何も言えなかった。


いつも、佐藤俊にやられても何も言わないんだ。

だって言ってもしょうがない。


それに、

さっきのは自分が自分でころんだんだから、

つき飛ばされたわけじゃない。


しばらくみんなはだまってたけど、とうとうかすみちゃんが言った。


「よくわかんないけど・・・

私が見たときはカイ君、

もう一段階段があるかもって思ったのか、足がカックンってなってたみたいでした。」


「そうだったの。だれかにつき飛ばされたわけじゃないのね?」


「うーんと・・・、違うと思います。」

かすみちゃんは考えながら綾先生に言った。


綾先生は、ちょっとホッとした顔で、


「みんなありがとね。

さ、休み時間はまだあるわ。カイ君もう大丈夫だから外で遊んできていいわよ。」

ってひとりひとりの顔を見ながらみんなに言った。


ぼくは綾先生とみんなの様子を見てたけど、

はっと自分の足を見たら、真っ赤な血がまる―くひざから出てて、

「いて!」って思った。


綾先生は保健室にあるバンドエイドを貼ってくれて、

「どこか痛い所はある?」

って聞いてきた。


「・・・。」


もちろん色んな所が痛いんだ。階段から落ちたんだからね。

こしにひざこぞう、頭。

血も出てるし。

女子に連れてこられたのも恥ずかしいよ。


佐藤俊のニヤリっていう顔も頭の中に浮かんできて、なんだか泣けてきた。

これは目から体の中の水がすこーし出てきちゃってるだけだ。

そう言い訳したかったけど、うまく言葉が出てこなかった。


「・・・。」


結局何も綾先生の質問には答えないまま、しばらく時間がたった。


綾先生も困ってる。


いつもママには言われてるよ。


「言わなきゃわかんないでしょ!?」

「どういうことか説明しなさい!!」

って。


でもどうしようもない。言葉がぼくの中からなくなっちゃったみたいだ。


本当はぼくの心の『中』にはいっぱいいっぱい言葉があるんだよ。

だけど、お口から出てこないんだ。


いろーんなこと考えてるけど、

何をどこからどうやってお話したらいいか、分からない時もある。


かすみちゃんは

「どうしたの?だいじょうぶ?どうしたの??」

っていつも隣の席から聞いてくる。ママみたいだ。


つぎつぎに色々聞いてくるから、

何を言っていいか分からなくなってくる。

いつもそうなんだ。心配そうな顔もママみたい。


それと逆に綾先生は、しばらくぼくをそっとしておくことにしたみたいだ。

にっこりしながらぼくに言った。


「ここでちょっと休みましょうか。大丈夫そうになったらお教室戻ろうね。」

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