第16話 ねえばーば、あのね

最近、お兄ちゃんと遊んでる時にママが帰ってくると、お兄ちゃんは


「ママのいない向こうの方で遊ぼう」

とか

「あっちの方で遊ぼう」とかいう。


ママにぼくたちの話を聞かれたくないみたいだ。


なんでかな?


ママと京子先生との『こじんめんだん』の時のことを思い出した。


「一人っ子なので、お友だちがいないのが心配で・・・何かカイに問題があるんでしょうか・・・?」


ひとりっ子って?どういう意味?


まあいいや。


今日もお兄ちゃんが玄関先から手招きしてる。

「こっちおいで。一緒に遊ぼうよ!」って。


今日はなんだか賑やかなんだ。


いつものようにお絵かきしてたら、

「ガハハハッ!」って

知らないおじさんが上からふわふわしながら大笑いしてる。


「おれはなあ、“さいとう”っていうんだよ。知ってるか?

テレビに出てるお笑いのおじさんと同じ名前だよ!」


「斎藤さん?!」


知ってるよ!お笑いは大好きだもの。

「斎藤さんだぞ!」ってお洋服をひろげるお笑いのおじさんは

テレビで何回も見たからね。

頭もハゲちゃびんで面白いんだ。

(ママは「『ハゲちゃびん』はダメよ!」って言うけどね。)


ぼくは楽しくなってきて、いっぱいいっぱい絵を描いた。

今日は大好きなクワガタがカブトムシと対決する所と、それを見てるママを描いた。


ママが帰ってくると、

「それ、何を描いたの~?」って

興味しんしん。


「上手に描けたね~。ばーばに絵を見せてあげようか?!」

って言うと、スマホで撮り始めた。


ママもお兄ちゃんも斎藤さんも絵をほめてくれたから嬉しくなって、

「あのね、あのね。これがカブトムシ。これがクワガタだよ。」って

説明しながら、はははは~ってみんなで笑ってたら、


ママが

「なんだか楽しそうだね~。たまには動画撮ってばーばに送ってみるか~。」

って言ってスマホで動画を撮り始めた。


齋藤さんはフワフワ面白い動きなんだ。

テレビの斎藤さんのお笑いを思い出して、

「齋藤さんってつく人はみんな面白いのかな~?」って心の中で考えてた。


齋藤さんは表情も面白い。

面白いから、つい、

「斎藤さん~!」って叫んでみた。


ママはこの動画をスマホでばーばに送ったみたいだ。


しばらくしておやつを食べてるとママのスマホが鳴った。

きっとばーばだ。


見てたら、

ママがスマホで会話しながら

「はあ?なに?なんのこと?どういう意味?」

ってやたらと首をかしげてる。


「何言ってんのかなあ?

ばーば、意味がわかんないこと言ってるなあ。

とうとうぼけてきちゃったかしらね?」


そうつぶやいてまたまた首をかしげた。そうしてスマホの会話はいったん終わった。


しばらくすると、思い出したみたいにママのスマホがまた鳴った。


ばーばだ。


「えっ?ほんとう?それは大変!」

ママは心配そうな顔になった。


ばーばの近所に住んでるばーばのお友だちのケンちゃんが、倒れたんだって。


倒れた、ってことは具合が悪かったんだよね。きっと。


疲れてて、

「もう起きてらんない!」

ってなるときはぼくもあるよ。

そんなふうなことかな?


「なんで知ってるの?あの動画はなに?」


ってばーばがママに聞いてたみたいなんだけど、


ママは相変わらず首をふって

「ん??」

って顔だった。


でもしばらく話してるうちに突然ママの表情が変わって、

目がにばいくらい大きくなった。


「えっ?どういうこと?!」

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