第13話 ヘンゼルとグレーテル
とうとうプールの季節がきた。
透明のプールバッグには、水着と帽子、タオルが入ってる。
帽子には「十五級」のシール。
十五級っていうのはね。いっちばん下の級なんだ。
なんとか着替えてプールサイドに行くと、地獄のシャワーが待ってる。
すっごく冷たくて死にそうだから地獄のシャワー。
みんなそう呼んでるよ。
まだそんなに暑くないのにシャワーはすっごく冷たいんだ。
ぼくにとってもっと地獄なのが、プールの中。
顔に水があたるのが怖いのに、みんながばしゃばしゃ遠慮なく水をかけてくるんだ。
さらに、ピーっていう笛の合図でもぐったり歩いたり。
もっとよくわかんないのが、進級テスト。
十四級のことができないから「十五級」なのに、
すぐに十四級のことをさせようとするんだよ。
水に顔はつけられないってば!
プールの授業はわけわかんないことだらけで、お腹がぐるぐるしてばっかり。
ほんとやんなっちゃうよ。
今日もやっとプールが終わって、
お腹のぐるぐると一緒にプールバッグをぐるぐる振り回しながら
家に帰った。
振り回してるうちになんだか荷物が軽くなった気がしたけど、気にしない。
今日は、
「ただいま~!」
ってドアを開けたら、ママの
「おかえり~!」
って声が聞こえた。
やった。ママだ!やっぱりママがいた方がいいなあ。
ところが、ママはプールバッグの中身を洗濯しようと待ち構えてたみたいで、
玄関先にほうり投げたプールバッグの中に水着がない!って大騒ぎになった。
「どこに置いてきたの?!」
って聞かれても、どこにも置いたつもりはないから何も答えられない。
黙ってたら、
「覚えてないの?水着は一枚しかないのにどうするの?!」って。
ぼくが困った顔をして黙ってたら、ママは
「学童ではあったの?学校出るときは?」
プールバッグが軽くなったのはうちのすぐ近くだから、
「その時はあったかなあ?」って考えながら
小さくうなずいた。
ママが学童の山口先生に電話したけど、水着はなかったみたい。
がっかりしたママは、
「うーん、じゃあどこか道端に落としてきたのかなあ?」ってつぶやいた。
そして、
「仕方ない。それなら、帰り道を捜索するしかないね!ホントにもう!!」
ってぷりぷりしながら自転車のカギを手に持った。
「通った道をさがすから、一緒についてきて!」
ママの自転車の後ろからとぼとぼついていくと、
家の近くの坂道の途中でママがかがみこんだ。
「あれっ?あれなんだろう?」
ぼくがみちばたのダンゴムシに気を取られてる間に、
ママは自転車を押しながら電柱に近づいて、
黒っぽいかたまりを拾って眺めた。
「これ、水着じゃないの?!」
見ると、少し先の道の反対側にもゴミみたいな白いかたまりが見える。
「あれが帽子だ!」
ママは
「やった!!」
って言いながら水着と帽子を拾っていった。
「よかった!半分あきらめてたけど、まさか見つかるとはね。
よかったよかった!!」
って。
ママは嬉しそうだった。
「これであさってのプールも入れるね!」だって。
ぼくはあんまりうれしくないから聞いてちょっとがっかりした。
「今度はバッグをあんまり振り回さないこと!
パンくずみたいに飛び出すよ!!」
そして、
「ママはヘンゼルとグレーテルじゃないよ!」って。
結局怒られたけど、なんだかママは
「ヘンゼルとグレーテル」
という言葉がおかしかったみたいで、自分で言って自分で笑ってた。
へんなの。
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