第12話 佐藤俊とぼく

プールはどうしても好きになれない。学校の中で一番きらいなんだ。


なのに、

「もうすぐプールが始まりますよ!」

ってまるで何か楽しいことがはじまるかのように京子先生は言う。

ぜんぜん楽しくない人もいるんだけどね。ぼくみたいに。


そんなことを考えながら休み時間に席に座ってると、

ばん!って何か後ろから押された感じがした。

びっくりして振り向くと、佐藤俊がいた。

身体が大きくて、横に立つと前がみえなくなっちゃう。


慌てて何か言おうとしたけど、口からは何も出てこない。

俊もさっとどこかに行ってしまった。

誰も俊がぼくを全力でぶって行ったことには気が付かなかったみたいだ。


こんな時、ママからは

「ぶたれたときに、『イヤだ!』って必ず言わなきゃだめよ!その場ですぐにね!!」

って言われてる。

なぜかって、こんなことが何回もあったからなんだ。


ぼくは佐藤俊がぶってくるのがとってもイヤなんだけど、

ママは

「ちょっとふざけてちゃってるだけだよね。

カイとお友だちになりたいんじゃないの?」


って言う。どう思って佐藤俊がぶってくるかはわかんない。

だってぼく佐藤俊じゃないもん。


でもね。難しいんだよ。

あっ!と思った時にはいつももう遠くにいて、

何か言っても聞こえないくらい遠いんだ。

それに、びっくりして口から何も出てこない時も多いよ。


やっと学校が終わって学童でも同じことがあった。

さあ、みんなでおやつを食べよう、いただきま~す!って言うときにどこからともなく来て、

後ろからぼくの背中をばあーん!ってぶって行ったんだ。


ものすごい速さでどこかに行っちゃったし、

みんなおやつのことでわさわさしてたから先生も気づかない。

やっぱり何も言えずに俊はどこかに行っちゃった。


お腹のもやもやだけが残った。


学童の山口先生にさよならした後、相変わらずお腹はもやもやしてる。


「ただいま~!」って勢いよくドアを開けようとしたけど鍵がかかってた。

ママまたパートで残業みたいだ。

ちぇっ。


鍵がなかなかでてこない。おしっこもれそう。

あー!

どうしようどうしよう!もう限界!!


そう思ったすぐあと、なんとか鍵を開けられた。

もちろん、全部の荷物を玄関先に投げ捨ててトイレに走った。


間に合った!

ふう~。すっきりした。


でも、なんだかお腹のもやもやはまだ残ってる。

お腹の中の鬼があばれてるみたいだ。


仕方がないからランドセルと鍵を靴の上にほうり投げて「う~!」ってうなってみた。


鬼のやつ、少しはおとなしくなってきたけど、まだあばれてる。

ついでに靴も玄関先にほうり投げた。ぐるぐる回りながら。


そして少し考えた。


もしかして、佐藤俊のお腹にも鬼がいるのかな?

いるとしたら、違う種類の鬼だよね。きっと。


だって、ぼくはお腹がぐるぐるしてきてもお友だちのことはぶたないよ!


夕ご飯の時に、佐藤俊のことママに聞いてみた。


「俊くんはさあ、ママもパパもすごおく忙しいんだよね。

だからきっと俊君もさびしいと思うよ。

お友だちになってみたら?」


ママはいつもこうなんだ。


「お友だちになってみたら?」

「お友だちって楽しいよ!」って。

ぼくにお友だちがいないことが心配みたい。


ぼくはひとりでも楽しいのに

なんでいっしょにいなきゃいけないのかなあ?


考えてもうまくせつめえできないなあって思うから、

こういう時はいつも何にも言わないでだまってる。


そうすると、ママは


「友だちは大切!」「友だち!」って。


あーあ。

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