学校一美少女との朝

「……眠い」


 雪音と付き合い始めた次の日の朝、俺は欠伸をしながら学校に行く準備をしていた。

 歯を磨いたり顔を洗っても眠気が取れることはない。

 眠い理由はわかりきっており、昨日は彼女である雪音とイチャイチャしたからだ。

 今まで彼女がいなかったのに、いきなり膝枕やあーんってして食べさせてもらうのはキツい。

 さらには昔のあだ名で読んでくるので、昨日は色々と恥ずかしくなった。

 何で俺がラブコメラノベ主人公やってるんだろ? なんて思いつつ制服の袖に腕を通す。

 学校一美少女と罰ゲームといえ彼女になるなんて、ラブコメラノベの主人公以外の何者でもない。


「サボりたい」


 眠気が全然取れないから学校行きたくない気持ちでいっぱいだ。

 このまま二度寝したいとこだが、一人暮らしだからってサボることは出来ない。

 何故なら……。


「来たか」


 インターホンがなったのでモニターを確認すると、見知った人物が立っていた。

 俺の彼女である雪音だ。

 一緒に行く約束をしたので、俺の家に来たのだろう。

 学校に行くにはまだ早いと思うが、雪音はこの時間には学校に向かっているのだろうか?

 だとしたら明日からもっと遅い時間してもらわなければならない。

 これ以上早く起きるのはキツいし、深夜アニメを観れなくなってしまう。

 動画の見放題サービス入っているからいつでも観れるのだが、出来ることならリアルタイムで観たい。


「はいはい」


 ドアを開けると制服姿の雪音が見える。

 朝から綺麗な銀髪としろい肌は目立っており、丁度出てきたサラリーマン風のお隣さんの視線が雪音に向く。

 そしてすぐにこんな可愛い子が彼女なんて羨ましいというような視線を俺に向けて去って行った。


「大くん、おはようございます」

「おはよ」


 朝からキッチリと挨拶をしている雪音とは違い、俺は欠伸をしてしまう。


「夜更かしでもしたんですか? だらしがないですよ」


 これだから男子はもう……と雪音は呆れたようにため息をつく。


「オタクは深夜アニメを観るために起きてるんだ」


 昨日はアニメを観て眠れなくなったわけではないが、恥ずかしくて寝れなかったと言うことは出来なかった。

 言うだけで顔が赤くなってしまいそうだからだ。

 付き合いたいくらいに好きな気持ちがあるからではなく、ただ恥ずかしいだけ。

 付き合うのが初めての男ならテンションがあがって眠れないか、イチャイチャして恥ずかしくてなってしまうかのどちらかだろう。


「寝る時間をああだこうだ言うつもりはありませんけど、翌日に響いたら本末転倒ですよ」

「余計なお世話」


 せっかくの一人暮らしなので母親みたいなことは言われたくない。

 心配してくれるのは嫌な気持ちはないのだが、素直にありがとうと言うことも出来ないでいる。

 何故か素直に言うのが恥ずかしいのだ。


「明日からもう少し遅い時間してくれ。眠い……」


 ふあー……と、だらしなく欠伸が出てしまう。


「大くんはダメダメなんですね。私が見ててあげますから、もう少ししっかりとしましょう」


 真面目な雪音らしい言葉だ。


「人間は真面目に生きると疲れるぞ」

「それでも大くんはダメダメです」


 本当余計なお世話で、昨日のドキドキを返してほしい。

 ちょっといいかもと思ってしまったが、真面目過ぎる人は苦手だ。

 適度にでも気を抜かしてくれる人の方が俺としては付き合いやすい。


「大くんは朝御飯食べましたか?」

「食べてない。いつもはギリギリまで寝るから抜いていく」


 今日は昨日のことがあったから既に起きているだけだ。

 普段だったら今も熟睡中である。


「朝御飯を食べるのは大事ですよ」

「朝は食欲より眠気が勝つ」


 確かに朝に何か食べるのは大事だとテレビでやっていたが、眠いのに食べるのは面倒なだけ。

 もちろん食べ盛り男子高校生だから昼までもたないことも多いが、休み時間に食べればいい。


「そんな大くんのために朝御飯がありますから。お邪魔します」

「入るの?」

「はい。私も食べないといけないですし」


 俺の家で食べるのは決定事項らしく、雪音は靴を脱いで家に上がる。

 昨日の晩御飯はおいしがったし、眠気を我慢しても雪音の手料理は食べる価値はあるだろう。

 目を指でこしりながら俺もリビングへと向かった。


「雪音さんや、朝食は何だい?」

「何でおじいさんっぽく言うのですか? お弁当の残りですよ」

「何となくだから気にするな」


 これといった理由はなかったのだが、雪音は少し気になったらしい。

 だが詮索することなく「そうですか」と頷いた雪音は、鞄の中からタッパーを数個取り出す。

 この中に朝食が入っているのだろう。

 フライパンなどは俺の家に持ってきていたのに、予備でも持っていたのだろうか?

 数種類フライパンを持っていてもおかしくはない。


「確か大くんの家に食パンがありましたよね?」

「やだ怖い。一日で俺の家の物を把握するなん……いででで」


 昨日と同じように手の甲をつねられてしまった。

 冗談で言っただけだから止めてほしい。

 雪音に冗談は通用しないタイプのようで、機嫌が悪そうに頬を膨らませている。

 罰ゲームを真面目に遂行しようとしているのだし、冗談が通じないのは少し考えればわかることだった。


「ごめんなさい。冗談なんで離してください」

「全く……言っていい冗談と悪い冗談がありますよ。まるで私がストーカーみたいなことを言わないでください」


 つねるのは止めてくれたが、白い目を向けられている。

 きちんと頭を下げて謝ったので止めてほしい。


「気のせいであればいいんだけど、タッパーに入ってるのカレー?」


 タッパーが半透明だから何が入っているのかわかり、どこから見てもカレーだった。


「そうですけど何か問題でも?」


 何で気のせいであればいいけどと言った理由がわかっていないようで、雪音は首を傾げる。


「弁当の残りなんだろ? え? お弁当にカレー?」

「はい。カレー美味しいですよ。日本人の九十九パーセントが大好きだと答えるはずです」


 カレー好きな日本人は多いだろうが、お弁当にカレーなんて聞いたことがない。


「大丈夫なのか? 容器から漏れたりしない? てか冷たいカレー?」

「きちんと密閉出来るやつですし、冷めないように保温されるお弁当箱ですから大丈夫です」


 付き合ってみてわかったことがあり、雪音はカレー好きの天然だ。

 しかもかなりぶっとんだ天然で、普通はお弁当にカレーをいれない。


「今日は朝、昼過ぎ、夜とカレー尽くしなのでいっぱい食べてくださいね。白米にもパンにも合うカレーは最高に美味しいです」


 いくらカレー好きでも三食全部カレーは飽きてしまうが、断ることが出来なかった。

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