学校一の美少女によるあーん

「ペンネか」


 晩御飯の時間になり、小さいテーブルにお皿に盛り付けられたペンネが並べられていた。

 匂いからしてミートソースかと思ったが、麺が太くて短い。

 味付けはミートソースなのだろう。


「そうですね。ペンネの方があーんってしやすそうですし……」

「ん?」

「な、何でありません。冷めない内食べてしまいましょう」


 ちょくちょく小声になるのが気になるが、早く食べたいので追及はしない。

 二人揃って「いただきます」と言い、早速ペンネを食べる。


「美味い」


 味付けが俺好みになっており、こんなに美味しいならおかわりしてしまいそうだ。

 雪音は「良かったです」と言い、自分のペンネを食べていく。

 女の子らしく一口が小さくて何か可愛い。


「何か俺の好みを知っているかのような味付けだな」


 濃く薄くもない味付けは食が進むし、フォークだけど箸が止まらないとはこのことを言うのだろう。

 するするとペンネが喉を通っていく。


「そ、そんなことありません。一般的に好きそうな味付けにしたまでです」


 いちいち顔を赤くしているとこは可愛いが、久しぶり手料理で食べることに集中してしまう。

 年末年始に実家に帰って母親の手料理を食べた時より美味しく、本当に俺の好みを研究してきたんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。

 学校一の美少女が作った料理ということで補正でもされているんだろうか?

 こんなに美味しいのであれば、付き合うメリットのが大きい。

 明日から向けられるであろう嫉妬の視線はスルーされてもらう。


「あの、大くん」

「何?」


 パクパクと食べながらも反応はする。

 食べているから話しかけないでほしいが、何か言わないと怒られてしまいそうだ。


「口に食べ物を入れたまま喋らないでください。行儀が悪いですよ」


 反応しても怒られてしまった。

 確かに行事は悪いため、雪音の前ではやらない方がいいだろう。

 口の中に入ってる食べ物なんて見せられたくないだろうし。

 いくら付き合っていると言っても全てを許すなんてことは無理だし、ましては罰ゲームで告白したんだし尚更だろう。


「悪かった。それで何?」


 中に入ってるペンネを飲み込んで訪ねる。


「その……私たちは付き合ってるんですから、恋人らしいことをしたい、です」


 照れながら俺との距離を近づけていく。

 テーブルが小さいから元々距離が近かったが、肩が触れ合うくらいになった。

 恥ずかしさからか視線を合わすことが出来ないようで、近づいたはいいものの顔は下を向いている。

 本気で惚れてるんじゃないかと勘違いしてしいまいそうだ。

 でも、罰ゲームで告白してきたし、好きではないとハッキリ言われたから違うだろう。


「恋人らしいことって?」


 あまりにも可愛らしいことを言ってくるので、心臓がドキドキしているのが自分でもわかった。

 平常心でいるつもりだが、顔に出ていたら恥ずかしい。

 雪音みたいに肌が白くないから大丈夫だと思うが。


「は、はい……あーん」


 フォークでペンネを刺した雪音は、俺の口元へと持ってくる。

 確かにあーんは恋人同士がすることであるが、普通は初日からやることではないと思う。

 いや、比較的すぐにするものなのかもしれない。

 ラノベでは付き合ってなくてもやっているのだから。


「食べて、くれないのですか?」


 上目遣い、しかもうるうるとした瞳で見つめられ、女はズルいと思ってしまう。

 見つめられては多少恥ずかしくても断ることが出来ない。

 俺は恥ずかしながらも、雪音があーんってしてくれたペンネを食べる。

 味はもちろん変わらないが、何故かさっきより美味しく感じた。

 きちんと食べてくれたのが嬉しかったのか、雪音は「えへへ」と笑みを浮かべる。

 本当は美少女はズルく、もう俺の心臓はドキドキだ。

 相手が罰ゲームで付き合ってる以上は惚れるわけにはいかないので、俺は「ふうー……」と深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

 今まであまり異性と話したことがない影響が今になって出てしまった。

 告白された時は平気だったのだが、実際イチャイチャすると恥ずかしい。


「あ、あーん」


 再び雪音は俺の口元にペンネを持ってくる。


「また?」

「いいではありませんか。私は大くんの彼女ですし、少しくらいお願いを聞いて、ください」


 子供が出来るまで付き合うという大きなお願いを聞いてあげたのですか? とツッコミしたい。

 ただ、恥ずかしがってお願いしている雪音にそんなことを言うなんてナンセンスだろう。

 わかったと頷き、俺はペンネを食べる。

 でも、毎日あーんってして食べさせてもらうとなると、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。

 この調子だと確実毎日やってきそうなので、慣れなければならない。

 どうせ断ることなんて出来ないのだから。


「やたら彼女というのにこだわるな。罰ゲームなんだからもっとフランクでもいいぞ」

「罰ゲームでも何でも、彼女というのは事実です、もん」


 初めて異性の口から『もん』という言葉を聞いたが、思っていたより破壊力抜群だ。


「もっとしてもいいですか?」

「ああ」


 お互いに慣れるためにも沢山した方がいいだろう。

 体が熱くなっているし、今の俺は顔が赤くなっているかもしれない。

 いっぱいあーんってしてもらい、いつでも対応できるようにしなければ……。


「あ、あーん」


 ペンネあーんってしてもらって全部食べた。

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