学校一の美少女と下校

「何で碓氷と手を繋ぐ必要があるんだ?」


 罰ゲームで告白してきた碓氷と付き合うことになったのはいいが、屋上からずっと指を絡め合うような──いわゆる恋人繋ぎで一緒に下校している。

 そのせいでさっきから注目されまくっており、学校出る時に「碓氷さんに彼氏が~……」嘆いている人までいた。

 明日には学校中で広まっていることだろう。

 碓氷が言った付き合って付き合わなくても変わらないというのはこういうことか。

 付き合えば人前でもこうして手を繋ぐ、付き合わなかったら毎日告白する……学校一の美少女に好きな人が出来たとなればあっという間に学校中に噂は広まる。

 恐らくは告白されないためというものあるのだろう。

 何で罰ゲームの告白相手に俺が選ばれたかはわからないが、もう考えてもどうしようもないことだ。

 美味しい料理が食べれるということだし、目立つのは我慢するしかない。


「いいじゃないですか。私たちはその、恋人同士なんですから……」


 顔を真っ赤にするくらいなら言わなければいいのにというツッコミを入れたかったが、言っても仕方のないことだ。

 付き合っているという事実は変わらないし、これからは楽しむしかない。

 子供が出来るまでという意味不明な期限があるが、出来なかったら永遠に付き合うことになるのだろうか?

 教えてくれるかわからないし、今は聞くことがないが。


「それと付き合い始めたのですから、私のことは名前で呼んでください」

「ん。わかった、雪音」


 呼んだ瞬間に耳まで真っ赤になるとこを見ると、雪音は異性に名前で呼ばれることに慣れていないようだ。

 今まで誰かと付き合ったという経験はないのだろう。

 人形のように美しい容姿をしているから交際経験があるかと思ったが、どんなに美少女でも初めて付き合うのが高校卒業してからという人だっているしおかしくはない。


「大くんは、今まで誰かと付き合ったことありますか?」

「ないな。雪音は?」

「私も初めてですよ」


 初めての彼女で嬉しいと思っているかのように「えへへ、そっか」と雪音は可愛らしい笑みを浮かべる。

 罰ゲームで告白してきたのに、何でこんなに嬉しそうなのだろうか?


「あ、でも昔結婚の約束をした相手がいたような……」


 十年は前のことなので、相手のことはほとんど覚えていない。

 銀やら蒼っぽい印象を持った女の子だったような……ということしかわからず、顔は思い出せないでいる。


「その女の子のことは覚えているのですか?」

「全く」


 嘘をついてもしょうがないので、正直に答えた。

 昔のことだし、無理に思い出さなくてもいい。


「何で結婚の約束のことは覚えていて女の子のことは忘れてるんですか。バカ……」


 回答が不満だったのか、雪音は「むう……」と頬を膨らます。

 何で機嫌が悪くなったのかわからず、頭の中にはてなマークが浮かぶ。

 そもそも先ほどの雪音の言葉が小さすぎて聞こえなかった。

 結婚した約束が過去にあったことに嫉妬しているのだろうか?

 いや、罰ゲームで告白してきたのだし嫉妬するのはおかしいし、する意味もわからない。

 約束したならきちんと覚えていろということなのだろうか?

 いくら考えてもわからないので、俺は面倒になって「はあ~……」とため息をつく。


「雪音はどんな料理が得意なんだ?」


 これ以上何か言われたくないため、俺は急遽話題を変える。


「得意なの……ある程度は一通り作れますけど、お好みがあれば作りますよ」

「好きなのイタリアンだな」

「イタリアンですか。ちょうどパスタ用の麺があったので、今日はパスタにしましょうか」


 美少女の手料理……しかも好きなのを食べられるということで、内心俺のテンションが上がってしいまう。

 美味しい、しかも美少女の手料理を食べれるとなれば嬉しい気持ちになることだってある。

 これで実は美味しくなかっただったらどう料理してくれようか?

 付き合う意味がなくなってしまう。


「どっちの家で食べるんだ? 自慢じゃないが俺の家に調理器具なんてないぞ」


 一切料理をしないため、必要ないと思って買っていない。


「本当に自慢になっていませんね。私の家に入れるのは抵抗がありますし、大くんの家に私の調理器具を持ってきましょう」

「面倒じゃないか?」


 調理器具がある雪音の家のがいいような気もする。


「私の家に入れるのはまだ恥ずかしいので……」


 俺の家に入るのは大丈夫で、自分の家に入れるのはダメなのか?

 今年……恐らくは二年生にな直前に引っ越しただろうし、まだ片付けが終わっていないのかもしれない。

 いや、学校一の美少女である雪音は綺麗好きという噂があり、引っ越してすぐに掃除や片付けはするだろう。

 だから部屋が散らかっているというのは考えにくい。

 本人が言っているように恥ずかしいだけだろう。


「まあいいけど。本当に何もないから全部持ってくる必要があるぞ。もちろん調味料も」

「……だからお昼はパンやおにぎりなんですね」


 何故か雪音は白い目でこちらを見てくる。

 普通はどんな家でも少しながら調理器具はありますよと思っていそうな視線だが、ないものはしょうがない。


「何で雪音が俺が食べてるの知ってるのさ?」

「えっと……それはほら、告白するってなったので、今日は観察していただけです」


 しどろもどろで少し挙動不審な感じになっている。


「そうか。今日はパンだけだったけど、良く俺がおにぎりを食べるってわかるな」

「よ、予想しただけです。まるで私がずっと大くんを見ていたように言わないでください」

「悪かったから怒るな。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

「か、かわ……」


 耳まで紅潮させた雪音は、俺の胸辺りをぺしぺしと軽く叩いてきた。

 可愛いと言われ慣れていると思ったが、何でこんなに反応しているのだろうか?

 物柔らかいな対応で少しクールな彼女がこんなに反応するなんて珍しい。

 俺が知らなかっただけで、実は恥ずかしがり屋なのだろうか?


「ちょっ……どんどん強くなっていってるんだけど?」

「知りません。付き合いだした初日に褒め殺しする大くんなんて私に叩かれて死ねばいいのです」


 綺麗好きならスクールバッグを地面に置いて叩かないでという言葉を口にしたかったが、うるさいですと言われそうなので口にするのを止めた。


「暴力反対」

「暴力じゃなくて制裁です。褒め殺しした罰なのです」

「じゃあもう褒められないな。死にたくないし」


 褒める度に叩かれるならもう可愛いなどと言えない。


「そ、それはダメです。彼氏なんですから彼女を褒めてください。じゃないと泣きます」

「叩かない?」

「努力します。一日五十回くらい褒めてくれれば」


 叩くのは止めてくれたが、多くない? というツッコミが俺の口から炸裂しそうになった。


「で、でも、大くんにそんなに褒められると耐えきれずに私が死にます。だから半分でお願いします」

「多い」

「多くないです。私は大くんのいいところを五十でも百でも言えるのに……」


 ゴニョゴニョと少しずつ口籠っていくから、何を言っているのかわからない。

 俺は雪音の反応を見て一つ疑問に思ったことがある。

 本当に罰ゲームで告白してきたのか? ……と。

 罰ゲームで告白して付き合ったら、普通は嬉しそうしたりしない。

 外だから演技でしているのかとも考えたが、今の雪音を見ると演技だとはとても思えなかった。

 どうであれ、美味しい料理が食べれるのだし、その辺のことはどうでもいい。


「早く帰ってご飯」

「……私と付き合えたのに色気より食い気なんですね」

「別にいいだろ」


 雪音は少し機嫌が悪そうに「そうですね」と呟くのだった。

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