第22話 依頼を報告しにギルドに行こう!
翌朝。ワイバーン討伐のお金を貰うために私はギルドを訪れていた。
街に着くまでは、兵士達と揉めたせいでギルドで報酬が貰えなかったらどうしよう……。とか本気で悩んだりもしたけど、いざ街に着いてみると悩んでたのが馬鹿らしくなるほど平和だった。
道中ですれ違った街の人々。目の前の冒険者達。どちらの様子にもこれといった変化は見られない。田園の村で起きたことがこの街にまだ伝わってないのは明らかだ。
(ふぅ〜! どうやら私の杞憂だったみたい。よく考えたらインターネットがなければこんなもんだよねぇー!)
私はホッと胸を撫で下ろすと、以前ミリアさんが教えてくれた依頼の達成を報告するカウンターに向かって歩きだした。
「おい。あの女って……」
「バ、バカ野郎ッ!! そんなジロジロ見るんじゃねぇッ!! また氷漬けになりてぇのか!?」
周囲の冒険者達からそんな囁き声が聞こえてきた。よく見ると私を見て震えてる冒険者や、慌てて私から視線を逸らす冒険者がいることに気がついた。
(ん〜? あの人達って……。もしかして私に絡んできた冒険者?)
事情を知らない冒険者達も周囲に尋ねては懐疑的な視線を私に向けてくる。「本当にそんなことが?」とでも言いたげなその視線は不快以外のなにものでもなかったが、気にしても仕方ないのでとりあえず無視することにした。
もちろん“なに見てんだゴラァー!“という気持ちが湧いてこないわけじゃない。普段の私ならこの不快な視線の集中砲火を受けて反撃に出ることも考えたかも。けど今日はそんなことはしない! なぜかって? 今日はこの世界に来て初めてのお給料日だから!!
あぁ〜。やっと無一文から解放される……。さらば無一文! 以前街を散策した時から食べてみたかった食べ物や入ってみたいお店なんかが沢山あったんだよね〜♪
一番気になってるのは“魔道具屋メェーメェー“! 魔道具なんて私の世界にはなかったから今から行くのが楽しみで仕方ないよ! だからここは無視一択! さっさとお金をもらってショッピングと食べ歩きに行きたいからね!
ルンルン気分でカウンターに行くと冒険者達が列を成して順番待ちをしていた。
(うわっ、朝からこんなに並んでるんだ。こりゃ来る時間帯間違えたかなぁ……)
並んでいる冒険者達に汚れや怪我がないところを見ると、今日受注して達成した依頼というわけではなさそうだ。もしかしたら受注した依頼によっては、長引いて帰りが夜遅くなることもあるのかもしれない。
とりあえず考えていても仕方ないので、大人しく最後尾に並ぶことにした。
それにしても一晩持ち越しての報告かぁー。冒険者としての生活も楽じゃないね。そういえば私もよくサービス残業を強いられたっけ……って。よく考えたら冒険者の収入も完全出来高制じゃん!! 長引こうが貰える金額って変わらなくない!?
あれ? もしかして冒険者ギルドってブラック企業……?
◆◇◆◇
「お次の方どうぞ〜っ!!」
数十分後。やっと私の順番が回ってきた。私はカウンターに座る受付の女性にギルドカードを渡す。
(熊……?)
熊耳の女性は私からカードを受け取ると、冒険者登録の時にミリアさんが使ってた水晶に私のギルドカードを差し込んだ。
「ん? 何見てるんすか? あっ!! もしかして何か私の顔についてます!?」
「あっ! ううん! ただ可愛い耳だなぁ〜って思って」
「はい? なんの変哲もない普通の耳っすよ? お姉さん頭大丈夫すか?」
眉を顰めて怪訝そうな表情を浮かべながら熊耳の女性は首を傾げた。
「えぇっ!? そんな頭のおかしい子扱いしなくてもよくない!?」
「いきなり耳が可愛いだなんて気持ちの悪いこと言うから悪いんすよ! 自分が言われたらどう思います?」
「うっ……。確かにちょっと引いちゃうかも」
「でしょ? 自業自得っすよ! これに懲りたら気持ち悪いことを言うのはやめることっすね」
「……ごめんなさい」
「分かればいいんすよっ! 分かれば。それでえ〜と……。名前はミサキさんっと……。んー? ワイバーンの討伐? あちゃ〜!! また駆け出しで無茶な依頼を受けましたねぇ〜!」
そう言うと熊耳の女性はカウンターに置いてあった分厚いファイルをめくりながら、水晶とファイルに視線を交互に動かした。
数秒後。目を大きく見開いて「んんっ!?」と驚愕の声を漏らす
「すごっ!! ちゃんとワイバーンを討伐してるじゃないっすか!」
「あれ? ワイバーンの死骸を見せたわけじゃないのに分かるの?」
「そんなのギルドカードを見れば一発っすよ! ギルドに登録した日時やランクはもちろん、受注した魔物を討伐したかどうかまで丸わかりっす! じゃないと不正し放題じゃないですか!」
「確かに……」
(思ったよりハイテクなカードなんだ)
「いやぁ〜!! それにしてもビックリっすねぇ〜! お姉さん何者? 実は貴族様で私兵を使って……って。そういう訳でもなさそうっすよねぇ?」
「普通の冒険者だよ?」
「いやいや。普通の冒険者は初めての依頼でワイバーンなんて倒しに行かないんっすけどね? そもそもコレどうやって受注したんすか?
そこまで言いかけて熊耳の女性は今朝全体の朝礼でギルドマスターであるグレンが話していたことを思い出した。
──赤髪の騎士の格好をした『ミサキ』というAランクの女性冒険者が来たらすぐ俺に報告するように!! いいか? 絶対忘れるなよ?
(あぶなっ!! もう少しで見過ごすとこだったっす! それにしてもまさか登録したばかりのルーキーだったなんて!)
「ミサキさん!! ちょっとだけ待っててもらってもいいですか!?」
「えっ? 別にいいけど。なにか問題でもあった?」
「う、う〜ん? どうなんでしょ? とりあえず私の給料に関わってくるのは確かっすねぇ……」
「はい?」
「とにかくちょっと待っててくださいね!? 今月ちょっとピンチなんで! いなくなってたら一生恨みますからね!」
そう言うと、熊耳の女性はひどく慌てた様子でカウンターの奥へと走っていった。
「あっ! ちょっと!!」
(……行っちゃったよ。一体なにがどうなってるの? 私はお金が欲しいだけなんだけど……)
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