第19話 対談
この人アリアちゃんの家族かな? たまたまってことはないよね?
ミサキはオリヴァーと名乗った男性の顔をジーっと見つめた。
……うん。よく見るとアリアちゃんに似てるかもしれない。目元とかそっくりだ。
「どうか貴女と対話する機会をっ!!」
さてどうしたものか。門前払いされたとはいえ、アリアちゃんと仲良くしときたいって気持ちはまだ少なからずある。もしこの人がアリアちゃんの家族なら対話ぐらいしてあげてもいいんだけど……。
んー、ダメだ。確信がもてない。魔王ロープレまでしちゃった手前、ここで気さくに話しかけるわけにもいかないしなぁ……。
ミサキはさらに思考を巡らせていく。オリヴァーと名乗る男性とどのように接するべきなのか。
ミサキが考えていた時間はさほど長くはなかった。時間にすれば数分程度だろう。だがオリヴァーからすればその数分は何十倍にも長く感じた。
オリヴァーが唯一気がかりだったのは門兵が目の前の女性を門前払いしているという事実だ。
命を救ってもらった礼としてこちらから招待しておきながら門前払いするなど失礼極まる失態と言わざるを得ない。相手が同じ貴族だったなら憤慨し、門兵を切り捨ててるところだろう。
オリヴァーは額に滲み出る汗を拭いミサキに視線を戻した。
──門前払いの件で気分を害していたならば、この目の前の女性は容赦なく私の命を奪い去り我が国と敵対する道を選ぶだろう。いや。それだけで済めばまだいいほうか。これだけの力があるのだ。敵対した我が国に暴虐と殺戮の限りを尽くしてもおかしくはない。
心臓の鼓動が自分でも耳障りと感じるほど高鳴っていく。
──だがアリアを助けたのもまた事実。少なくとも悪逆非道な輩であればアリアを助けたり田園の村を擁護したりなどするわけがない。そもそもアリアや田園の村を擁護してこの者に利点があるとは到底思えない。化物じみた力を持ってはいるが普通の人間と同じように裁量の基準があるのは明らかだ。おそらく礼を尽くせば無下にはしないはず......。
オリヴァーの必死の考察は的を射ていた。
魔王ロープレをしていたミサキを見て、ここまで適確にミサキを分析できたのは驚異的と言わざるを得なかった。
オリヴァーとミサキの思考はほぼ同時に結論に達した
「ハハッ! 面白い人間。いいよ? お前のその勇気に免じて話だけは聞いてあげる」
「うおっ!?」
ミサキはオリヴァーを石柱の頂上まで連れて行くために風魔法を使った。
◆◇◆◇
「この度は対話の機会を与えていただき感謝致します」
「……それで? 何を話したいの?」
もちろん魔王ロープレは継続中だ。アリアちゃんの家族なのかまだ分からないからね! この人がアリアちゃんの家族だったら普通に話しかけようかな?
「我が妹。アリア・ディ・アルバード。この名前に聞き覚えはないでしょうか?」
ビンゴっ!! やっぱりこの人アリアちゃんの家族だったんだ! いやー、危なかったぁ。もう少しで殺しちゃうとこだった。
理不尽な王命をだした王様に報告させようと思って、立派な鎧を着てる人を残しておいて正解だった。……あれ? そういえばもうひとりいたはずだけど、いつの間にかいなくなってたなぁ……。
「……ご、ご存知ないでしょうか?」
「あっ! ごめんね! ちょっと考え事してた。アリアちゃんなら知ってるよ?」
私がそう返すと、オリヴァーさんはキョトンとした顔をした。
「あれ? どうしたの?」
「あっ! いえっ! 先程までとはあまりに様子が違ったものですから……」
「あー、そういうことね!」
「まさか演技だったとは……。予想もしていませんでした」
ふふふっ! どうやら私の演技力も捨てたもんじゃないみたいだ。
「先日は我が家の門兵が大変失礼な態度をとったようで、大変申し訳ありませんでした」
「ホントだよっ!! 夕食をご馳走してくれるってアリアちゃんが言うから楽しみにしてたのに門前払いするなんて!!」
まぁ、そのおかげでグレンさんの家族と仲良くなれたわけなんだけど。
「た、大変失礼致しましたっ!! あの日に門兵をしてた者達には死んで詫びさせます!!」
「えっ!? いや別にそこまでしなくてもいいよ。言い方にはイラッとしたけど、それがあの人達の仕事なんだろうし」
「なんと御優しい。お心遣い感謝致します」
「あー。もっと普通に話していいよ? オリヴァーさんって呼んでいい?」
「もちろんです。その。私はなんとお呼びすればよいでしょうか?」
「え? 別になんでもいいよ? ミサキでもミサキさんでも嬢ちゃんでも。好きなように呼んでくれれば」
「は、はぁ……。ではミサキ様と呼ばせていただきます」
様をつけてきたか! 礼儀正しい人だなぁー。そういえばアリアちゃんも基本的には礼儀正しかった気がする。やっぱり貴族なだけあってある程度の教養があるのかな?
「それではミサキ様。ここからは本題なのですが」
「ん?」
「ミサキ様は今後どうされるおつもりなのでしょうか?」
「どうするって? あー、さっき私が兵士達の前で宣言した内容のことを言ってるのか」
「えぇ。その通りです」
「んー。そうだなぁ……。とりあえず責任を持ってあの村は私が守っていくつもりだよ?」
「……それは王国に敵対することになってもですか?」
「もちろん! だからオリヴァーさんからも王様にあの村には手を出すなって伝えてくれないかな?」
オリヴァーさんは難しそうな顔でしばしの間考えた後、ゆっくりと首を横に振った。
「お伝えは致しますが、陛下がお聞きになるとは思えません。とはいえ今は帝国との戦争中。暫くの間は問題ないかとは思いますが……」
「そっかー。今回の状況を伝えてもやっぱりまた攻めてくるかな?」
「陛下がどこまで私達の話を信じてくださるかによりますね。……ただ父上がアリアから聞いた話を陛下に報告したようですが、信じてはもらえなかった様子。そのことも踏まえて考えると難しいかもしれません……」
絶対王政か……。ホントこの世界は私のいた世界にそっくりだなぁ。
ミサキはおもわず溜息をついた。
「……まぁ、来るなら仕方ないか」
「
──雰囲気が変わった?
オリヴァーがそう感じた瞬間、ミサキの顔から一切の表情が消えた。
「全力で叩き潰す……」
当然のことのように言い放たれたその言葉は決して大きな声ではなかったが、オリヴァーの耳には嫌というほどはっきり響いた。
直後、オリヴァーは先ほど頭に浮かんだミサキに対する自身の考えを即座に改めた。
……口調が変わったから演技? とんでもない。あれはこの少女の本質そのものだ。……初めから我々のことなど歯牙にもかけていないのだ。敵対すれば躊躇することなく暴虐の限りを尽くすだろう。
……そう。まるで目障りな虫を叩き潰すかのように……あっさりと……無慈悲に……。
ゾクリと、オリヴァーは背筋が凍りつくような悪寒を覚えた。
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