第18話 草原の悪魔③
「ん〜〜〜??」
上空から草原の様子を眺めながらミサキは首を傾げる。
「あれ? 思ったより無事な人が多いなぁー。ちょっと威力を抑えすぎた?」
怪我人は多いものの、動ける兵士達は意外に多かった。田園や森に被害がでないように魔法の発動範囲を抑えたのが原因かもしれない。
「ん〜。まぁしょうがないかっ! 魔力を込めすぎて田園まで巻き込んじゃったら、サーシャさんとジョージさんが困っちゃうもんね!」
ミサキは草原を見下ろしながらさらに思考を巡らせる。
今回私が兵士達を追い返してもまた別の日に来るようじゃ意味がない。私がいつもこの村にいるわけじゃないからね。
『人間を動かす二つのてこは、恐怖と利益である』
確かナポレオンの名言だったけ? 正直私は、この言葉は的を得てると思っている。
だって私も利益があるから今まで働いてきたし、無職になりたくない! って恐れから会社を辞められなかったわけだしね。
さてさてこの名言に今回の状況を当てはめて考えていくと。
今回私は彼等に『利益』を提示することはできない。まぁ、私が「この国に仕える」とか言えばそれなりの対応をしれくれるとは思うけど、そんな社畜生活は二度とごめんだ。
そもそも私に何のメリットもないしね。
だから今回も……。
──『恐怖』で。
ミサキは地面に向かって手をかざすと、土魔法で石柱を地面から上空に向けて垂直に突出させた。
石柱は破片と粉塵を撒き散らし、正六角形を形成しながら通常では考えられないスピードで高々と突き出していく。
「ひぃーっ!!」
「な、なんだよこれ……」
目の前で起こったありえない現象に満身創痍の兵士達は騒然となった。
精巧に作られた正六角形の石柱。その高さは20mにも及んでいた。
石柱を眺めていた兵士達の視線が自然と上空へ向かい、宙に浮かぶミサキの姿を捉えるまでさほど時間はかからなかった。
(さてと……。本番はここからか)
ミサキは石柱の頂上に作った石造りの玉座の上に座り、足を組んだ。
兵士達の視線がミサキに集中する。
恐怖の色に染まった兵士達の姿を見下ろしながらミサキは口元をニヤリと歪ませた。
「ハハッ! どうしたのぉ〜? そんな呆けた顔をして。私を捕まえるんじゃなかったのぉ〜?」
兵士達からの返答はない。
聞こえなかったわけではないのだろう。その証拠に騒然としていた兵士達の言葉は途切れ、口を噤んでいる。
恐怖で言葉がでないのか、現状に思考が追いついていないのか。
(まっ。どちらにせよ私のやることは変わらないんだけどね)
ミサキは右手に魔力を集中させながら大きく息を吸い込んだ。
「今日からこの村は私のものとするッ!!」
ミサキは高らかにそう宣言すると、右手を前に突き出して練り込んでいた魔力を一気に解放した。次の瞬間。兵士達の上空を覆うほどの炎が熱風を周囲に撒き散らしながら、激しく燃え盛った。
兵士達は燃え盛る炎を見上げながら、先程自分達を襲った竜巻が誰の仕業なのか、はっきりと理解した。
いや。理解せざるを得なかった。
「逆らう奴は皆殺しだああああ──ッ!! 炎に焼かれたい奴からかかってくるがいいッ!!」
兵士達の背筋に悪寒が走り、シーンとした静寂が草原を包み込んだ。
◆◇◆◇
(あ、あれ? これでも反応なし? もしかしてスベッた? 私の渾身の魔王ロープレ……)
「断固拒否する!!」みたいなこと言ってくると思ったんだけどなぁ。ちょっと予想外だ。ここからどうしよう……。
ミサキは少し考えて。
「あっ。そうだ!!」
兵士達に聞こえないぐらいの声量でそう呟くと、ミサキは村の方角に振り返った。
4つの壁? いやでもそれだと倒れちゃったら村がペシャンコになっちゃうか。
んー......。あっ、そうかっ!! ドーナツみたいに壁を全部繋げたままにすればいいんだ!
ミサキはアイテムボックスから愛用の杖を取り出した。
正直、杖を使うほど難しい魔法ではないけど念のためだ。万が一が起こったらいけないからねっ!
さてと、まずは私の魔力を田園の周囲に張り巡らせてーと……。うん。こんなもんかな? そしたら円状の土の壁を地面から突出させて……。
(よしっ!! できたああああ──っ!!)
こんだけ高くしとけば砲台とかがあったとしても届かないでしょー!!
だって高さ50mはあるよこれ。城塞都市としては最大級なんじゃないだろうか。
(いやぁー! それにしてもこの世界の魔法ってホント便利だなぁ〜!)
ゲームだとどの魔法を使うのか選んで魔法名を口に出す必要があったし、定められた効果を発揮することしかできなかった。
けどこの世界なら頭の中で思い描くだけでいいし、魔法の効果もある程度ならアレンジもできる。
実際に魔法を使う時もちょ〜簡単っ!!
思い描いた魔法を使うにはどのくらいの魔力を込めればいいのか、日常生活で筋力を使うときみたいに体感で分かっちゃうという親切仕様!
この世界に私を送ってくれたあのお爺さんに感謝しないとねーっ!
あっ、そうだそうだ。経年劣化で崩れたりしないように後で補強はしっかりしとかないとっ!
……あれ? でも壁の補強ってどうやればいいんだろ……?
◆◇◆◇
ミサキが壁の補強について頭を悩ませてる一方で、草原で一部始終を見ていた兵士達は、目の前で起こった現実に思考が追いつかずにいた。
今回の任務は王命に逆らった逆賊の捕縛。もし逆賊が抵抗するようであれば討伐。それも報告書によると相手はたった10名程度。日暮れ前には終わる簡単な任務のはず
逆賊のリーダーが空を飛ぶなんて聞いてない……。燃え盛る炎や激しい竜巻、大地までも自在に操るなんて聞いてない……。
こんな常軌を逸した『化け物』が相手だなんて聞いてない……。
思考を巡らせ、現状を理解すればするほど『どうすることもできない』という現実が分かるだけだった。
「ははっ……ははは……」
何処からともなく聞こえてくる乾いた笑い声。至るところから鳴り響く、ガチャガチャと鎧が擦れる金属音。
いつの間にか武器を構える者は誰もいなくなっていた。
絶望と恐怖が兵士達の心を支配していく中、ひとりの男が静寂を破った。
アリアの兄オリヴァーだ。
「お待ちいただきたい!! 対話を!! どうか我々に貴女と対話する機会を与えていただきたいッ!!」
ミサキとオリヴァーの視線が交差する。
オリヴァーは逃げ出したい気持ちを必死に抑えながら思考を巡らせていく。
(大丈夫……。大丈夫なはずだ……。彼女が我々を本気で殲滅するつもりなら、先ほどの炎で焼き殺せたはず……。あとは彼女が我が家の家名を覚えているかだが……)
「……貴方は?」
「私はアイン王国第一騎士団、副団長を務めているオリヴァー・ディ・アルバードと申す者ッ!」
「えっ! アルバード?」
オリヴァーはミサキの反応をみて心の底から安堵した。
(間違いない……。やはり彼女がアリアの話していた……)
ミサキは玉座から立ち上がり、石柱から飛び立つと、オリヴァーを視認できる距離まで下降した。
「「ヒィッ......!」」
赤い髪をなびかせながら近づいてくるミサキの姿を見て、オリヴァーの周囲にいた兵士達が短い悲鳴を漏らして後退った。
オリヴァーは見定めるような視線を感じつつも、真っ直ぐにミサキの瞳を見つめながら再び懇願した。
「どうか貴女と対話する機会をッ!!」
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