第12話 善意に感謝を
あの後、私がお腹が減ったことを伝えたら、お爺さんが是非とも村で食事を食べていってほしいと言うので、村に向かうことになった。
田園を抜けて村につくと、村の中央に人だかりができていることに気がついた。
「ねえ村長さん」
「ひゃい! 食事ならすぐに用意させますので、どうか命だけはっ!」
「それじゃまるで私が脅してるみたいじゃん」
「そんなことありませんっ! 是非食べていってほしいと思っております!!」
「ふーん。まあいいや。そんなことよりあれはなにをやってるの?」
ミサキが人だかりを指差すと、村長は強張った笑顔でミサキを見つめながら、ゴマをするように両手を擦り合わせて、
「ちょうど村の者全員で、神様に雨乞いの祈りを捧げてるところでして」
「へぇー……」
「あっ! も、もし目障りであればすぐにでも撤去させていただきます! 少々お待ち下さい! すぐ言ってきます!!」
「えっ! いやちょっと!」
村長はミサキの話もきかずに、慌てて人だかりの方へ駆け出していった。老人とはおもえない俊敏な動きに、ミサキはおもわず唖然となりながら村長の背中を見送った。
まったく。あのお爺さん話も聞かずに行っちゃったよ。
◆◇◆◇
ミサキが人だかりまでつくと、野太い大きな怒鳴り声が辺りに響き渡った。
「おいクソじじいっ!! もう一度言ってみろっ! 祭壇を撤去するとはどう言うことだ?」
「仕方ないんじゃ! このままじゃ村が大変なことになるかもしれんのじゃ!」
「馬鹿野郎っ!! すでに日照りが続いているせいで、田園の作物は立ち枯れ寸前じゃねえかっ!! このまま雨が降らなきゃ俺たち全員飢え死にだぞっ!!」
「うぐぐ......。だがこのままでは、あそこにいる少女にワシが殺されてしまうかもしれんのじゃ。ワシはまだ死にたくないんじゃあー!!」
「えっ!?」
村長はそう言うと、涙目になりながらミサキを指差した。周囲にいた村人の憎悪に満ちた視線がミサキに集中する。
あのクソじじいーっ!!
私はそんなこと言ってないじゃんっ!!
「あん? アイツが村長を殺すだあ? じゃあアイツがいなければ祭壇を撤去しねえんだな?」
「も、もちろんじゃ! 全部アイツのせいなんじゃからなっ!!」
うわっ! コイツどこまで腐ってるんだ!!
全部私のせいにしやがったっ!!
村長と言い争ってた30台ぐらいの筋肉質なおじさんは、ミサキを鋭い目つきで睨みつけながら怒鳴り声をあげた。
「おいそこのクソガキっ!! 悪いことは言わねえからさっさと村から出て行け!」
「いや、私はちゃんとお金さえ貰えるなら、今すぐ出ていってもいいんだけどね」
「ああん!? 金ってどういうことだ?」
「盗賊じゃっ! あの娘は盗賊なんじゃっ!! ワシが金をやらんといったら、脅してきたんじゃっ!」
「おい! 村長は、あー言ってるが、本当なのか?」
「いや私は盗賊じゃないよ? ワイバーンを討伐したからちゃんと依頼料を欲しいって言ってるだけだよ」
「嘘じゃっ! アイツは嘘をついて村の金を巻き上げる気なんじゃっ!」
「ほらこれが証拠だよ?」
そう言うとミサキは、アイテムボックスの中からワイバーンの死骸を取り出して、地面に放り投げた。
「うおっ!! これは確かにワイバーンじゃねえか! だけど一体どんな攻撃をしたらこんな状態になるんだ......? 頭が吹っ飛んでるじゃねえか」
「そんなことよりお金はちゃんと貰えるんだよね? あそこのクソじじいはワイバーンが勝手に落ちて死んだから払わないって言ってるんだけど?」
「あ、ああ。明らかに勝手に落ちて死んだような状態じゃねえからな。あのクソジジイが迷惑かけたみたいで悪かったな」
助かった。意外にこのおじさんいい人なのかもしれない。
「ううん。お金さえちゃんと払ってくれるならそれでいいよ」
「それにさっきはすまなかったな。頭に血がのぼってた。許してくれ」
「もういいって。おじさんが悪いわけじゃないし、気にしないで?」
「そうは言ってもよぉー。あっそうだ! せめて飯でも食っていってくれ!」
「えっ、いいのー? さっきの話だと大変なんでしょ?」
「まあー、そりゃそうなんだけどな......。このまま何もせずに帰すのは俺のプライドが許さなくってな。なーに。なんとかなるさっ! 気にせず食ってけ! なっ?」
「いや気にするよっ! 飢え死にするなんて話までしてたじゃん!」
「うぐっ!」
筋肉質なおじさんはミサキの適格な指摘に言葉を失った。
「まったくもうっ! 好意はすごく嬉しいけど無理しないでよねっ!」
「す、すまねえ」
このおじさんすごくいい人だなー。
食料不足で切羽詰まった状況で、分け与えようとするなんて、なかなかできることじゃないよ。
ちょっと無茶しすぎだけどね!
ミサキがため息をついて周囲を見渡すと、木で作られた小さな祭壇があることに気がついた。祭壇の前にあるテーブルの上には、美味しそうな果物が供えられている。
よく見たら村の人達の顔色があまり良くはないなー。雨が降らないって、この世界では思ってたより深刻な問題なのかも。
ミサキは少し考えて、
「ねえおじさん。田園に雨が降れば飢え死にしないで済むんだよね?」
「まあそうだな。けど見てくれよこの空を」
ミサキが上を見上げると、上空には雲一つない澄み切った青空が広がっていた。とても雨なんて降りそうにない。
「雨が降るような天気ではないね」
「俺たちだってホントは分かってんだよ。雨乞いの祈りなんかしても、すぐ雨なんて降らないことぐらいよお......。だけどそれぐらいしか、俺たちにできることなんてねえじゃねえか......」
おじさんは悔しそうに唇を強く噛み締めると、わずかに口元から血を滲ませた。
やっぱり善意には善意で返さないとね。
「雨じゃなくても水さえ田園に行き渡ればいいんだよね?」
「だから雨が降らなきゃ、そんな大量の水どこにもねえんだよっ!!」
おじさんは悲痛な叫び声をあげると、肩を震わせながらうつむいた。
「大丈夫だよ。……だから顔を上げて?」
ミサキはおじさんの震える肩に優しく手を添えると、顔を上げたおじさんに微笑みかけながらもう片方の腕を天高く
──次の瞬間。
上空に村全体を覆うほどの大量の水が生み出され、心地よい優しい風が村の人々の頬を撫でると、上空に生み出された大量の水が激しい暴風により空高く巻き上げられ、枯れた大地へ
『ああああ......。ああっ......』
奇跡のような出来事を目の当たりにした村の人々は、誰一人としてうまく言葉を発することができず、降り注ぐ水滴に身体を濡らしながら、ただ呆然と上空を見上げていた。
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