第11話 ワイバーン討伐

 ミサキはギルドの氷を溶かしてから、依頼の説明を聞くために受付カウンターに向かった。


 受付カウンターには前回ギルドの説明をしてくれたミリアさんが座っていた。


「ミリアさん。この依頼を受けたいんだけど、ここでだいじょうぶ?」


「大丈夫ですよ。それにしてもずいぶんと派手にやりましたね……」


「なんのことだか分からないニャー」


 ミリアは猫耳をピクっと反応させると、不機嫌そうに眉をひそめて、ギルドの出口を指差した。


「へぇー……。そうですか。では治療院はあちらです。──次の方どうぞっ!」


「えっ!! ちょっと待ってよ! 冗談だよ? じょーだんっ!!」


 ミリアはうんざりした様子でミサキを見つめると、大きく溜息をついた。


「もうっ! ホントいい加減にしてください! はぁー。それで今日はどの依頼を受けるんですか?」


「この依頼を受けてみようと思うんだけど」


「ああ、ワイバーンの討伐ですね。近隣の村で家畜の被害がでて困っているようです。ひとりで行くんですか?」


「うん。そのつもりだけど?」


「たしかにミサキさんなら問題ないかもしれませんね。……はい。これで受注完了です。討伐がおわったら、ギルドカードを持ってあそこにあるカウンターで報告してくださいね」


「りょーかい!」


 ミリアさんにお礼を言って、周辺の地図をもらってからギルドをでた。


 「よしっ! パパッと片付けてきちゃおーっと!」


 ミサキは風魔法をつかって空中に舞い上がると、手に持った地図を見ながら村に向かって飛んでいった。



 ──ミサキが空を飛んでいくのを目撃した周囲の人々から、どよめきが起こる。


「えっ!?」


「な、なんだよあれ!? あの子、空を飛んでったぞ!?」


 ありえない出来事を目の当たりにした周囲の人々は、物凄いスピードで飛び去っていくミサキの背中を、ただ呆然と見つめていた。



 ◆◇◆◇


 上空から地図を頼りに村を探していると、黄金色こがねいろと新緑が入り混じった美しい田園に囲まれた、長閑のどかな村の風景が視界に飛び込んできた。


「おーっ! ここがそうかな? ……ん? なんだあれ。大きな鳥?」


 ミサキの視線の先で、大きな鳥のような生き物が翼を羽ばたかせていた。その鳥はミサキに気がつくと進路を変えて、真っ直ぐミサキに向かって突っ込んでくる。


「うわっ!! なんだこいつ!」


 ミサキは空中で横に躱して振り返りながら、後方で右へ旋回している大きな鳥に向かって手をかざした。


 かすかに空気がひび割れる音が鳴ったかと思うと、瞬時に先端が鋭く尖った氷塊が空中に生み出され、大きな鳥に向かって物凄いスピードで飛んでいくと、見事に大きな鳥の頭部を貫いた。


『ギュピッ!!』


 ミサキは落下していく鳥の姿を眺めながら、あることに気がつく。


「あっ!! あれも魔物だったらギルドで換金できるかも!」


 ミサキは急いで鳥が落下した地点に向かって飛んでいった。



「うわー。これはひどい。こんな状態で換金してもらえるのかな……」


 落下地点に降り立つと、地面は鳥の血液で黒く変色して異臭を放ち、頭部はもともとの原型がどんなものだったのか分からないほどグチャグチャに破壊されていた。


 ミサキはおもわず鼻をつまみながら、顔をしかめる。


「うー。これはお金のため。お金のため」


 あまり触りたくはなかったが、お金のためと自分に言い聞かせながら、死骸を手で掴んでアイテムボックスに入れた。


「ふぅー。これでよしっと! ……ん?」


 一仕事終えて一息ついていると、村の方角からこちらに向かって誰かが走ってくる姿が視界に映った。


 ◆◇◆◇


 白髪のお爺さんが、真っ赤な顔で激しく息を切らせながら私の前まで走ってくると、前にかがんで膝に手をつきながら、必死で息を整えている。


「はぁはぁ……」


(なんか今にも倒れそうなんだけど。このお爺さん大丈夫かな?)


「あ、あんた! この辺りにワイバーンが落ちてこなったか?」

「ん? ワイバーンは落としてないよ? 大きな鳥なら落としたけど」

「大きな鳥? そりゃどんな奴だ?」

「ほらこれだよ」


 ミサキはアイテムボックスの中から、さきほど倒した大きな鳥を取り出して地面に放り投げた。


「ひゃーッ!?」


 お爺さんはそれを見ると、情けない声を上げて地面に腰をついた。


「こ、こ、こ……」


「こ? コケコッコー?」


「違うわいっ!! なにを言っとるんじゃお前は!!」


「そんな怒らないでもいいじゃん」


「そんなことより。こいつがワイバーンじゃっ!! お嬢ちゃんが倒してくれたのか?」


「そうだよー? 私に襲いかかってきたからね。でもこれがワイバーンなんだ……。全然ドラゴンぽくないんだね」


「ドラゴン? ワイバーンは鳥の仲間じゃぞ? お前さんは何を言っとるんじゃ?」


 あっ、やっぱり鳥なんだこれ。私の世界でカッコいいワイバーンを夢見る人達の理想が、粉々に砕け散る音が聞こえてくるようだ。



「いやー助かったわい! お嬢ちゃんが倒してくれたおかげでギルドに高い金を払わずに済みそうじゃ! 本当にありがとう!」


「いやそれは払ってよ!私が困るじゃん」


「なんじゃお嬢ちゃんは冒険者なのか?」


「そうだよ!」


「ふむ。……だがのぉー。このワイバーンをお嬢ちゃんが倒したなんて証拠はないじゃろう? 勝手に落ちて死んだだけかもしれんしのぉー」


 そう言うと、お爺さんは馬鹿にするように私を見つめてニヤニヤと笑いかけてきた。


 この世界はこういう輩が多いなあ。やっぱり生活水準が下がると、人の心もすさんでくるのかな?


「どうしたんじゃ? なにも言い返せないってことはやっぱりそういうことなんじゃろ? ん〜?」


 ──このクソジジイ……。



 こういう輩に言葉で何を言っても無駄なことはもう分かっているので、10mぐらい先にある大きな樹木に向かって手をかざして氷魔法を放った。


 無数の氷塊が空中に生み出され、次々と樹木に向かって飛んでいく。

 連続した破壊音が周囲に鳴り響き、樹木は無数の氷塊に撃ち抜かれて、粉々に飛び散っていく。


「うひゃ──ッ!?」


 破壊音が止んで、辺りが元の静寂を取り戻すと、樹木があった場所には大量の木片だけが無残に散らばっていた。



「お爺さん。お金。払ってくれるよね?」


 ミサキが満面の笑みを浮かべてお爺さんを見つめると、お爺さんは顔を青くして、口を大きく開けたまま、何度も何度も首を縦に振り続けた。

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