第10話 冒険者に絡まれる

 グレンさんと一緒にギルドに入ると、広間は多くの冒険者で賑わっていた。


 依頼ボードの前で仲間達と依頼を眺めている冒険者や、椅子に座って他の冒険者と談笑している冒険者など様々だ。


「じゃあ嬢ちゃん。ギルドカードができるまでその辺で適当に待っててくれ!」

「はーい。依頼でも眺めて待ってるよ」

「おうっ!呼ばれたらカウンターまできてくれ。頼むから問題を起こさないでくれよ?」

「あはは......」


 グレンさんはそう言うと、カウンターの奥にある扉へ入っていった。


 とりあえずお金がないので依頼ボードに向かうことにした。


「さてと、どんな依頼があるのかな?」


 依頼ボードには昨日と違って沢山の依頼が貼り出されていた。魔物の討伐依頼や薬草の採取依頼なんかもある。


 おっ? これなんかいいかも。

 ワイバーンの討伐依頼で報酬が金貨2枚。張り出されている依頼の中では一番高額だ。受注条件もAランク以上の冒険者だから私でも受けられそうだしね。


 誰かにとられたら嫌なので依頼用紙を掴んでボードから外すと、いきなり後ろから誰かに肩を掴まれた。


「おい! ちょっと待て。それは俺たちが受けようとしてた依頼だぞ?」


 振り返ると、30歳ぐらいの男の冒険者が私の肩を掴んで睨みつけていた。

 赤毛の短髪で背中には大きな大剣を背負っている。ベテランの冒険者って感じだ。


「依頼は早い者勝ちじゃないの?」

「あー? そりゃそうだが、俺たちはこの町唯一のAランクパーティだ。俺ら以外でAランクの依頼を受ける冒険者なんていねえんだよ。間違ってとっただけだろ?」

「Aランクパーティ?パーティー全員がAランクってこと?」

「はっ! そんなことも知らねえのか?パーティーランクとソロのランクは別なんだよ」

「へー。そうなんだ。でも私もAランクみたいだから、この依頼を受けても問題はないよね?」

「ああ? お前がAランク?」


 男の冒険者は私を品定めするかのように見つめた。


「ギャハハーッ!!お嬢ちゃん、嘘はついちゃいけねえなあ。その細い腕でどうやって魔物と戦おうって言うんだ?」

「もうめんどくさいなあ......。それに私の肩を掴んでる手もいい加減離してくれない?」

「あんっ? 口だけは一丁前じゃねえか!」

「はあ......」


 どうしようかなー。問題を起こすなって言われたばかりだし、グレンさんに迷惑もかけたくないないし......。


 あっ、そうだ。ギルドの職員さんに止めてもらえばいいんだ!

 今日のわたしは冴えてるかもしれない。



 ギルドのカウンターの方を見ると、ちょうど受付の男性と目が合ったので声をかけてみた。


「あのー、すいません!この冒険者が私に絡んでくるんだけど、どうにかしてもらえませんか?」


 受付の男性は私を見ながら、めんどくさそうにため息を吐くと、腕を左右に振りながら冷たい口調で、


「知りませんよー。そう言った問題は冒険者同士で解決してくださいねー。」

「ギャハハッ! こいつ受付なんかに助けを求めてやがるぜ? なにがAランク冒険者だ。とんだ腰抜けだぜ!」


 男の冒険者がそう言うと、周囲で様子を伺っていた冒険者達の嘲笑う声が聞こえてきた。



「受付の人がそう言うなら仕方ないかあ。」


 そう言うと、ミサキは手を地面にかざして氷魔法を放った。その直後、空気がひび割れるような音が鳴り響き、室内が冷気を含んだ白い霧に包まれた。


「ぎゃあああっ!」

「な、なんだよこりゃ! 動けねえぞ!」


 冒険者達はどよめき、至るところから悲鳴が聞こえてくる。


「お、おい! お前なにしやがったッ!!」


 ミサキは肩を掴んでいる冒険者の手を払い除けて、カウンターに腰掛けた。


「おいッ!! 俺を無視すんじゃねえ!」

「うるさいなあー。そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ。自分の足元を見てみれば?」

「あんっ? 足元だあ?」


 冒険者の男は足元に視線を向けると、自身の両足ごと床が凍りついていることに気がつき、瞳を大きく見開いた。


「ヒィッ!」

「あっ! そんな無理に動かすと足がバラバラになっちゃうよ?」


 ミサキの言葉に、周囲は静寂に包まれた。

 冒険者の男の顔を恐怖に染まり、上半身は小刻みに震えている。



 ミサキはカウンターに座りながら、受付の男性の方へ顔を向けた。ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、冷たい視線で震える男を見つめる。


「ねえ。これでいいの?それとも。もう少し続ける?こんな風に......」


わたしは腕を前に伸ばして手のひらに氷魔法で拳サイズの氷をつくりだすと、力を込めて氷を粉々に握り潰した。


周囲にいた冒険者達は自身の足が粉々に砕かれるところを連想し、身体を小刻みに震わせながら固唾を呑んで2人の様子を見守る。


「ひっ! 化け物っ!」



 次の瞬間。カウンターの奥にある扉が勢いよく開かれた。グレンさんだ。


「おいッ!! いったい何の騒ぎ......」


 グレンさんはギルドの惨状を見て驚愕の表情を浮かべて凍りつき、言葉が途切れる。


「な、な、なんだこれはっ!! いったいなにが......。あっ?」


 グレンさんは困惑しながら周囲を見渡す。

 カウンターに座る私に気がつくと、ジト目で睨みつけてきた。

 

 グレンさん怒ってるなぁー。

 はあ......。こういう空気は苦手だなあ。


 気まずい空気に耐えきれず、私はグレンさんに笑いかけながら手を振ってみた。


「あはは。グレンさんお帰りなさい。」

「おかえりなさいじゃねえよッ!! いったい今度はなにやらかしたんだ!?」


 やっぱり笑ってごまかす作戦じゃダメか。


 ◆◇◆◇


 私は事のいきさつをグレンさんに説明した。


 グレンさんはカウンターの椅子に座って大きく溜息をつきながら、


「今回は嬢ちゃんだけを責めるわけにはいかねえなあ」

「でしょ? 受付の人がやれって言ったのが悪いんだよ! あっ、それでギルドカードはできたの?」

「あ、ああ。これが嬢ちゃんのギルドカードだ」

「おー。金色でカッコいいじゃん!」


 グレンさんからギルドカードを受け取って、アイテムボックスの中にしまう。


「なあ嬢ちゃん。もちろんあの氷は溶かしてくれるんだよな?」

「んー。どうしようかなあ。まだ謝られてないしなー」

「──嬢ちゃん本当にえげつねえな......」



 私は冒険者達の方へゆっくりと振り向く。


『すいませんでしたあああ──ッ!!』


 ピッタリと息の合った、冒険者達の謝罪の声がギルド内に響き渡った。

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