第25話:決死行・皇太子視点

 聖女を大魔境に捨てた、悪女ビエンナとその娘のソラリスの捜索は、徹底的に行わせたが、一カ月二カ月経っても見つけられなかった。

 ニルラル公爵領はもちろん、ダイザー王国内も虱潰しに調べたのだが、杳として消息を掴めなかった。

 だが、全く考えもしていなかった、意外な所からその情報が伝わって来たのだ。


「皇太子殿下、セント・クルシー帝国に侵入している密偵からの報告をお聞きになられましたか?」


 プランケ伯爵ジーガン卿が厳しい表情で聞いてきた。


「ああ、聞いた、特徴といい時期といい、どう考えても二人だな」


 そうなのだ、悪女母娘は、事もあろうに皇国と双璧の力を持つセント・クルシー帝国の後宮に入り込み、帝王の愛妾におさまっていたのだ。

 まあ、母娘ではなく姉妹だと帝王には言っているようだが。

 それにしても、相手が帝国の後宮に入ってしまったら、相応の罰を選ぶどころか、殺す事すら戦争を覚悟しなければできない。

 ここは神にお伺いを立てるしかないのだが、私の問いが届くかどうか……


(届いておるぞ、あの悪女には我も驚かされたわ。

 もう構わぬ、相応の罰と言うのは撤回するから、お前の手で殺してしまえ)

 

 思ったと同時に神から返事が来たのには、心底驚いてしまった。

 その場で飛び上がってしまったので、侍従も侍女も驚愕していた。


(しかし、皇国が戦争を仕掛けてしまうと、それこそ大陸中に戦火が広がります。

 そんなことになったら、真聖女の想いを踏み躙ってしまうのではありませんか?)


(そのような事はさせんよ、お前が帝国の後宮に侵入して、殺してしまえ。

 その為に必要な魔術は授けてやるから、それを使って殺してこい。

 ただし、その魔術を悪用して帝王を殺したりするなよ)


(それは分かっておりますが、神の加護や神具を与えてはもらえないのですね?)


 私は駄目元で加護や神具が欲しいと遠回しに言ってみた。

 馴れるなと怒られる可能性もあるが、皇国の守護神よりも遥かに力の強いこの神は、結構気さくな性格だと思ったのだ。

 それに、わずかでも心に思った事は、既に伝わってしまっていると思う。

 だから思ってしまった事は全て正直に伝えるべきだろう。


(くっくっくっくっ、お前のその性格は嫌いではないぞ。

 だから神界の事情を少し教えておいてやる。

 我が神界でも突出した力を持っているのは確かだが、だからといって好き勝手できるわけではないのだよ。

 力が弱い神に対しても、それ相当の礼儀は守らなければいけない。

 加護や神具を与えて、他の神が守護している国の民を殺すと後々五月蠅いのだよ。

 だから誰が与えたか分からない、この世界にある魔術と魔晶石を授けてやる。

 分かったら今直ぐ行って殺してこい)

 

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