第14話:試練・皇太子視点

 大魔境から抜け出した直後、大神は性格が悪いのだと確信した。

 それも当然で、我々は歩き出して直ぐに大魔境の外に出られたのだ。

 我々は大魔境に入って直ぐに幻覚をかけられて、大魔境の最外周部をウロウロしていたのかもしれないし、大魔境の中で惚けていたのかもしれない。

 もしかしたら、まだ大魔境に入った直後で、五日経ったと思い込まされていただけなのかもしれない。


「殿下、状況を確認いたしましょう。

 まだ入った直後なのか、それとも五日経っているのか、それによってニルラル公爵への対応が違ってきます」


 ジーガン卿の言い分も分からないではない。

 大神から与えられた試練の一つは、ニルラル公爵と悪女ビエンナに、真聖女に対して行った無礼に相応しい罰を考え与える事だった。

 単に殺せとか罰を与えろという試練なら簡単だ。

 歴史に残るありとあらゆる拷問で苦しめてから殺せばいいだけだ。

 だが相応しい罰を与えろと言われたら、単純に苦痛を与えて殺せば済むという訳にはいかないのだ。


「そうだな、だが下手に喋ると逃げ出してしまうかもしれない。

 そうなると力業の戦いになってしまい、乱戦で殺してしまう可能性もある。

 楽に死のうとして自害でもされたら取り返しがつかない。

 こういう事は経験がものをいうから、私は適任者とは言えない。

 すまないがジーガン卿に行ってもらうしかない」


「お任せください、殿下。

 私も無駄に戦歴と社交を重ねてきたわけではありません。

 ただ私だけでは見落としがあるかもしれませんので、歴戦の者を連れて行きます」


「それはジーガン卿に任せる。

 必要と思う人員を選抜して連れて行ってくれ」


 流石に百戦錬磨のジーガン卿だ、自分をちゃんと客観視している。

 今回はあれほど辛い経験と大神と話をするという僥倖が同時にあったのだ。

 心のどこかに後遺症が残っていて、不意に変な事を口走らないとも限らない。

 他人だけでなく、自分すら突き放して観察する必要がある。

 私もそうやって観察されて、大丈夫と判断したからこそ、ジーガン卿は私の側を離れる決断をしたのだろう、そう思えば私も少し安心して指揮命令できる。


「いいか、よく聞けお前達。

 今からお前達がおかしくなっていないか確認するからな。

 あれほどの経験をしたんだから、心が壊れていて当然なのだ。

 だが心配するな、俺の質問にちゃんと答えられたら正常だ。

 たとえ自分を疑うような気持ちになっても、俺が正常だと言ったことを思い出せ。

 お前達は大丈夫、正常だと断言してやる。

 では第一の質問を始めるぞ!」

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