第188話 夢
慌ただしい日々を過ごし、3階にある仮眠室で眠っていると、かなり久しぶりに昔の夢を見ていた。
物陰に隠れ、3人の女性がヒソヒソと話している。
『大ちゃんもまだ小さいんでしょ?』
『小学校3年生だって。 お気の毒にねぇ…』
『でも、光ちゃんが居れば安心ね』
『光ちゃんは大ちゃんと違ってしっかりしてるものね』
『同じ兄弟なのに、あんなにも正反対の性格をしてるなんてねぇ…』
『良い所を光ちゃんが全部持って行っちゃったのよ…』
『大ちゃんは出涸らしだもんね』
幼い俺はそれを見て立ち尽くし、言葉を発することも、逃げ出すこともできないままでいた。
『出涸らし』
その言葉が頭の中をグルグルと回り続け、何かに押しつぶされそうな感覚に襲われる。
『いやだ… 逃げたい…』
どんなに動かそうと思っても、ピクリとも動かない足に焦りを感じていると、背後から『だいちゃん』と名前を呼ぶ女の子の声が聞こえてくる。
幼い俺が振り返ると、そこには綺麗な髪を風に靡かせ、桜の木を見上げている制服姿の女の子が立っていた。
俺に背を向けたまま、光の粒を放つように、綺麗な髪を風に靡かせ、桜の木を見上げている女の子に、ゆっくりと近づこうとしていたんだけど、足がピクリとも動かず、近づくことができない。
近づこうとすればするほど、その子はどんどん遠く離れて行ってしまう。
「まって… 待って!!」
どんなに声をかけても、地面ごと動くかのように、立ち止まっている女の子は遠く離れていくばかり。
「待って!! 行かないで!! 行くな!!!」
涙ながらにそう叫んでも、髪の綺麗な女の子は遠く離れ、光の粒を放ちながら、遠く離れた白い光の中に飲み込まれていく。
光が綺麗な髪の女の子を飲み込むと同時に、辺り一面は暗闇に包まれ、一人取り残されてしまった。
ここがどこかも、どこへ向かえばあの子にたどり着くのかもわからず、ただただその場で立ちすくみ、叫ぶことしかできない。
「!!!!!」
「!!!!!!」
「み… !!!!!!」
声にならない声で叫ぶと同時に目が覚め、全身から嫌な汗が噴き出した。
『夢…?』
時計を見ると、まだ午前3時過ぎ。
シーンと静まり返った暗い部屋の中、大介と勇樹のいびきが響き渡っている。
『…美香に何かあった?』
すぐに電話をしようと思ったんだけど、こんな時間に起きてるわけもないし、美香は話すことすら困難な状態。
電話をしたところで、話すことはできないし、きっとこの時間は眠っていると思う。
1日中嘔吐しているのだから、きっと体力的にもかなり落ちているし、休んだほうがいいことには変わりない。
やっと寝付くことが出来ていたとしたら…
妙な夢を見たせいで、美香を更に苦しめることになったとしたら…
『クソ… なんなんだよ…』
不安に駆られたまま、成す術もなく、黙ったままこぶしを握り締めることしかできなかった。
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