第178話 スタート

翌日、朝から兄貴の元に行き「来月の1日に入籍する」と伝えると、兄貴はため息交じりに「園田さんか… 良いんじゃないか? お前にはあれくらいしっかりした子のほうが合ってる」とだけ。


週末になると、美香と二人でじいちゃんの元へ行き、証人欄に記入してもらい、じいちゃんは「かわいらしい嫁さんだねぇ」と、嬉しそうに笑っていた。


そのままシュウジの元へ行き、母親に報告すると、シュウジの母親は感激の声を上げ、シュウジは「ねえちゃんはオレと結婚するのに…」と不貞腐れていた。


予定を合わせ、互いの家族で会食をしたんだけど、美香の親父さんはシュウジと楽しそうに遊び、『早く孫、抱かせてやりたいなぁ』と思っていた。



月が変わると同時に、二人で午前半休を使い、婚姻届けを出しに行き、晴れて夫婦になったんだけど、美香の希望で、仕事上では『園田』のままでいたから、特に何かが変わるわけでもなく、書類上の手続きを済ませただけ。


同棲していたから特に変わったこともなく、仕事も普段通りだった。



3人の中で、誰よりも早く入籍したんだけど、二人はそれどころでは無いようで、「ふーん」と言うだけ。


全員揃った作業場で、結婚報告をしたんだけど、正社員になったあゆみは「美香っちおめでとう」と言うだけで、俺に対しては一言もない。


雪絵は何も言わず、不機嫌そうに作業を始めるだけだった。



美香が兄貴に呼ばれてしまい、美香抜きでアニメ化の打ち合わせをしている時に、ヒデさんや監督、先生にもその話をすると、3人は週末にお祝いを兼ねてプロジェクトの顔合わせをしようと提案し、すぐに了承していた。


すると、ヒデさんが「相談なんだけど、クリエーターって募集してない?」と切り出してきた。


「してますよ? 誰かいるんですか?」


「勇樹と大介なんだけどさ、白百合の件で会社潰れたんだよ。 それ以降、フリーでやってたんだけど、なかなか厳しいみたいで、『どっか紹介してもらえないか?』って聞かれててさ」


「あの二人なら、うちは大歓迎です!」


「本当に? じゃあ、連絡しておくよ」


「お願いします!!」


即戦力になる人間が二人も来るということに、思わず胸が弾んでしまった。



帰宅後、美香にその事を告げると、美香は夕食作りを中断し「マジで? え? 本当に?」と声を上げていた。


「マジ。 兄貴にも連絡したら、すぐに了承してたよ。 前期OP制作メンバーって言ったら、その場でOK出した」


「ホントに!? すごいじゃん!!」


「だろ? 週末、みんなで飯行こうって。 顔合わせとお祝いって」


「わかった。 けいちゃん、久しぶりに会うなぁ。 あ、かおりさんも来るのかな?」


美香はそう言いながら夕食作りを再開し、綺麗な長い髪を弾ませていた。


幸せをかみしめるように、そっと美香を背後から抱きしめると、美香は「危ないよ?」と切り出してくる。


「なんか手伝う?」


「珍しい。 じゃあ、お風呂掃除、お願いできる? あと洗濯。 それと… サラダ作ってもらおうかな?」


「…子どもは?」


「バカなこと言ってないでさっさとお風呂掃除!」


「はいはい」と言いながら手を離し、着替えた後に風呂掃除を始めていた。


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